ゆうえんち 3
遊園地の中に元々備えつけられたカフェスペースには案の定、アルパカ達がいた。
「いらっしゃいませぇ!ジャパリ遊園地カフェへようこそお!」
「語呂が悪いのです、なんとかなりませんか」
「ジャパリンチカフェへようこそお!」
「リンチならさっき筋肉二人にされたのです」
「助手、助手、進まないのです。まずはお席に案内してもらうのですよ」
モザイクが消え元通りになった助手の腕を、博士がどおどおと撫でる。
「お席いっぱいでねえ、相席になっちゃうよお」
「はいはい、好きにするのです」
案内されたのは四人席、そこには・・・
「よお、オレ達と合席でわりいな」
「何も悪くないわよ、どうぞ座ってちょうだい」
ツチノコとトキが座っていた。
「ご注文は何にしますかあ。あとツチノコとトキはおかわりは?」
席につくと、すかさずカフェの制服を着たスナネコが注文を取りに来る。
「ボクのおすすめはこの辺りの紅茶です」
スナネコがメニューに書かれた文字をいくつか適当に指を差す。
博士は一つずつどんな味のお茶なのか聞きながら、自分に合いそうなものを頼んだらしい。
「助手はどうしますかあ?」
「博士と同じので、あと砂糖を」
「かしこまりましたあ」
ぱたぱたとカウンターへ走っていくスナネコの背中をツチノコが嬉しそうな視線で見送った。
「洞窟に引きこもってたアイツがあんなに楽しそうに働くとはなぁ」
「あら、それならあなたの方が珍しいわよ。みんなの前にこうして堂々と出てきて一緒にお祭りを楽しむだなんて」
「オレもアイツも変わるんだよ。色々ありゃな」
二人のやりとりを聞いていると、スナネコがお茶を持ってきてくれた。
ふんわりと花の香りのするピンクがかった紅茶だった。
助手が、添えられた角砂糖をつまみカップに落とそうとするとそれをトキが止めた。
「待って。このお茶はまず一口香りを楽しんでからの方がいいわ」
「ほほう、そうなのですか」
言われた通りに、助手は砂糖を入れる前にカップに口をつける。
口から鼻を通って桜の香りがすっと抜けた。・・・が、やはり助手の好みとしては少し苦い。
結局すぐカップに砂糖を沈める。
スプーンをカチャカチャと回してもう一口飲むと、自分好みの味になったことで助手は満足そうに微笑んだ。
「旨いか?」
「ええ、花のお茶とはなかなか・・・、思ったより甘みと合いますね」
「甘くする前はどうだったかしら?」
「少し苦かったですけど、でも春っぽくて美味しかったのですよ」
その言葉には少しだけ世事が混ざっていて、”苦かった”が本音の大部分だったが、香りを心地よく思ったのも本当だった。
「博士はどうだ」
「私はそのまま飲んでますが、これは美味しいですね。図書館に戻って・・・原っぱで本を読みながらこれを飲んだら・・・、想像するだけですごくリラックスできるのです」
博士と助手の答えに満足したようにツチノコが笑う。
トキは無表情のままカップにもう一度口をつけたが、ほんの少しだけ口元が笑っているように見えたかもしれない。
「あいつは厳しいこと言ったかもしれねーけどよ。変えても変えなくても、それそのものが悪いわけじゃねえとオレは思う」
「ダメなのはきっと、全部一人で背負いこもうとすることだわ。変わる時も変わらない時も、誰かと一緒じゃなきゃ。それが友達でも家族でも親でも子供でも、自分以外の誰かを忘れなければいいのよ」
「・・・ここに来るまでに散々言われてきたのですよ、全く」
「隣にいるやつくらいちゃんと見とけ。そうすりゃもうちっとなんとかなったろ」
ツチノコが意地悪げに笑う。トキは相変わらず無表情のままだったが。
後はもう何も話さなかった、四人はすぐにカップが空になってしまわないように一杯の紅茶をゆっくりと飲み、桜の香りを楽しむのだった・・・。
博士と助手が席を立つと、アルパカが慌てて駆け寄って来る。
「博士え助手う、もう行っちゃうのお?」
「ええ、次がありますから」
「花のお茶美味しかったのです、また飲みに来るのですよ!」
博士がぴょんぴょんと飛び跳ねると、アルパカがいきなり博士をぎゅっと抱きしめた。
「私達はずうっと二人の味方だからね。ジャパリカフェはいつでも二人を待ってるからね、美味しい紅茶をいつでも淹れるからね、ね」
アルパカが博士と助手の手を取り、重ねる。
「ずっとずうっと一緒なんだよ、この手には博士と助手だけじゃない。私達みんなの手も繋がってるから、それを忘れないでねえ。もし忘れそうになったら、いつでもカフェで待ってるからね」
アルパカは人一倍涙もろいフレンズのようで、もう涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた。そんな姿を見かねたのか、席からトキがやってきてアルパカをカウンターの方へ連れて行く。
博士と助手は、その背中にありがとうと言ってカフェを後にした。
―――――――――――
二人はステージに戻って来ていた。・・・というよりステージの上にいた。
「みんな!今日限りの特別メンバーの博士と助手よ!」
プリンセスの言葉に、わああぁっと歓声が響く。
出店をある程度回ってきたフレンズ達がまた集まってきたので、ペパプが何かしらパフォーマンスでもしよう・・・と意気込んでいる所を見つかってしまったのだ。
あなた達も舞台にあがってみない?その言葉に博士がもうウッキウキで快諾。
こうしてペパプ+αの一人として舞台に上がっているのだが・・・
「ごわわわわわわわ・・・・・・」
いざ全員から視線を向けられる緊張に耐えられなかったようで、謎のうめき声をあげながらステージで固まっていた。
「はい、私はワシミミズクの助手。こっちはアフリカオオコノハズクの博士です。みな知っての通りお前達の長なのですよ、最大限敬うのですよ」
助手の偉そうな挨拶も、フレンズ達にとっては娯楽開始の合図でしかない。
「最大限敬うのです」の部分は殆どのフレンズには意味も伝わらなかったが、また大きな歓声と拍手が巻き起こる。
「じゃあ行くわよ!大空ドリーマー!・・・って二人は歌えるのかしら」
「う、うたたたたうたたうたた」
「私も博士もペパプの隠れファンなので歌えるのですよ。たまに二人でお風呂でペパプごっこするのです、ちなみに博士はいつもコウテイの役なのですよ、こう・・・胸のところに泡を盛って・・・」
「きゃーーーっ!!言わないでーっ!!言わないで欲しいのですーっ!!」
ペパプの歌声と踊りに混ざり、ステージの上で二人が不器用に踊る。
最初は歌声も小さかったが、テンションと熱気に流された博士がはっちゃけてからがスタートだった。
踊るわ走るわ「ちょいちょい」と謎の合いの手を入れるわ、ちょっとアレな人のそれに見えたが・・・それでも二人は最後までステージを楽しんだ。
音楽が終わると、もはやトランス状態になっていた博士がはぁはぁと息をついてがっくりと虚脱した。
ふと気づくと日はすっかりと落ちて辺りはすでに真っ暗。
この遊園地の中だけを、煌びやかなイルミネーションだけが真昼のように照らしていた。まるで・・・遊園地の周りには世界など無いかのように。
「はぁ・・・はぁ・・・燃え尽きたのです・・・」
燃え尽きた博士が、舞台袖からマーゲイが差し入れたタオルを手に取り青春アニメのように汗を拭った。
「・・・・・・やりきったのです」
フレンズ達の拍手と歓声をその身に受け、助手もまんざらでもないように微笑んだ。
うるさいのや賑やかなのは苦手だが・・・こうして皆に認められるという感覚は悪くない。
ステージに立ってみて初めて、アイドルという存在がいかに楽しくて大変で・・・そこに魅了されるどっちの気持ちもわかる。
「はーい!みんな今日はありがとう!特別メンバーありのスペシャルなライブはどうだったかしら!?」
割れんばかりの拍手の返事にプリンセスがウンウンと頷く。
「これからもペパプはみんなを楽しませていくから・・・ずっとずっとついて来てほしいわ!」
それは、客に向けられた言葉。
でもプリンセスはそっと舞台袖のマーゲイにウインクを飛ばす。
それを受け止めたマーゲイの目がじんわりとうるんだかと思うと、小道具の整理をするふりをして顔を隠してしまった。
「やっぱり、私達はプリンセスが中心にいるのがいいな。もうプリンセスがリーダーでいいんじゃないだろうか」
「あら、ダメよ。リーダーはどっしり構えてられるコウテイじゃないと」
「じゃあじゃあ!オレがリーダーやってもいいぜ!」
「確実にアイドルじゃない方向へ偏っていくじゃない。誰も弾けないギターが楽屋にたくさん置いてあるなんていやよ」
「じゃあやっぱりリーダーはコウテイさんのままで」
「ジェーンはもう少し前に出てもいいと思うわよ?この中じゃ一番正統派アイドルって感じなんだし」
「やっぱり、みんなで歌うと楽しいね~」
フルルの一言で、トークが一瞬止まる。
プリンセスの頬を・・・一滴の水が伝った。それが汗だったのか、涙だったのか。プリンセスはアイドルだから、それを客に見せないように、まるで汗を拭う様にしてタオルで顔をごしごしと擦った。
「さ、さあ次は博士と助手の挨拶よ!ほらほら、マイク持って」
「あ、ええと・・・」
いきなりマイクを渡された博士が戸惑って言葉に詰まる、というより騒ぎすぎてまだ呼吸も落ちついていないようだった。
博士がマイクを握ったままの手の上から、助手が包み込むようにマイクを握った。
「皆、今日は本当にありがとうなのですよ。おかげで我々は今まで気づけなかったことに気づけました。これは・・・本当に、普通ならありえないことで、その機会をくれたみんなには感謝してもしきれないのですよ」
「助手・・・」
「そしてプリンセス、マーゲイ。お前達には本当に・・・」
悪いことをしましたね。と言いかけてやめた。
この場はそういう場所じゃない、皆がステージを楽しんでいるのだから・・・しんみりしたのは無しでいこう、と助手は思った。
「お前達は、最高のアイドルとマネージャーなのですよ」
「おいおいおい、二人だけかよーっオレ達も最高のアイドルだぜー?」
イワビーが茶々を入れると、再び客席はお祭りモードに変わりペパプへのアンコールの輪唱が響く。それを聞いて博士と助手はマイクをプリンセスに返し、静かにステージを降りた。
「たとえ離れていても、どこにいてもどこにもいなくても!それでも私達はみんな仲間だわ!だって、フレンズなんですもの!!だから、どんな未来を選んだってみんな一緒よ!」
背にしたステージからプリンセスの声が響く。
その言葉はきっと自分達に向けられたのだろう、と二人は感じた。
振り返るのは照れくさくて、二人で肩を寄せ合いながらペパプの歌を鼻歌で歌う。
「ふんふふーん♪」
「ふんふんふふんふふーん♪」
少しずつ、祭は終わりの時間を迎えようとしていた。
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