ゆうえんち 2


スピーカーからギュインギュインと低い音が遊園地に響くと、ステージがライトアップされフレンズ達の歓声が響いた。その音に引かれるようにして遊園地中のフレンズ達がステージの前に集まっていく。


博士と助手もそれに続いてステージの前の空いているテーブルに腰かけた。


「こういうパフォーマンスはやはりあいつらの仕事ですね」


「みんなー!盛り上がってるかしらーっ!?」


「いっえーい!なのですよー!!」


ステージの上でマイクを握るプリンセスの言葉に、フレンズ達が一斉の歓声と拍手で返す。博士もどうやら空気に乗せられたらしくノリノリで返していた。

助手も隣で小さく手を叩く。


「それにしてもこんなに沢山のフレンズがいるとすげーなー!ってかオレ達のライブの時よりいるじゃねーか!みんなオレ達のライブにもちゃんと集まれよー!」


「まあまあイワビーさん、今日は特別な日ですから」


じたばたと暴れるイワビーをジェーンが窘めようとするが、イワビーはぶーぶーと不満そうに続けた。


「だってよー!なんか悔しいぜー?あ、そうだじゃあ次は遊園地でライブを・・・べばぶ!!」


そんなイワビーの後頭部にコウテイのチョップが決まり、イワビーがマイクに思いっきり頭をぶつけステージにキーンという音が響いた。


「ぐぎぎぎ・・・本気で叩いたな・・・」


「コウテイって、サドでもあるんだね~」


わけのわからないやりとりに会場がわっと沸く。

よくわからなくても空気が楽しければなんでも盛り上がってしまうのはフレンズ達のゆるぎない長所だ。


「コホン!じゃあ私が始まりの合図を・・・ってもうお祭りは始まってるけど、改めて言わせてもらうわね!」


プリンセスがステージの真ん中で大きな声で言った。


「今日は”明日の日のお祭り”!みんな歌に踊りに料理に色んな出し物に楽しんでいってちょうだい!!もちろんこのステージは私達ペパプが盛り上げちゃうんだから!」


わあああっ、と再び歓声が沸く。


「一年前のあの大地震でみんな沢山ツラいことがあったけど・・・だからこそ、今日は楽しい日にしましょう!ここにいるみんなも、ここに来れなかったみんなの分も」


「みなさん準備はいいですか?」


「なんでもいいから手に持てよー!」


ジェーンとイワビーの音頭に、皆が思い思いの何かを手に持つ。

博士はこれ以上無いくらいのドヤ顔で杖を高らかに掲げていたが、助手は少しだけ恥ずかしかったのでテーブルの上にあったグラスを持つ。


「今日があるから明日もある!楽しい日も悲しい日も全部を生きていくことを誓って・・・」


「せ~の~」


「「「「「乾杯~~~~~!!!!」」」」」


ペパプ達の声と同時にフレンズ達の声が遊園地中に響き渡った。


今日を迎えた自分達の命、明日を迎える為の自分達の命

今日を迎えられなかった命、今日の命の為に生きてくれた命


その全てに感謝を祈る、今日は「明日の日のお祭り」。

パークを襲った未曽有の大地震から丁度一年後の日だった。



――――――――――


「さーて色々まわりますよ!助手っ!」


テンション高く目をキラキラさせながら、ふんふんと張り切る博士が手を差し出す。

助手が手を伸ばすとその手を握る前にぎゅっと掴まれて博士に引っ張られて行く。


「慌てると危ないのですよ~~はかせ~~」


助手はずるずると半分引きずられるようにして博士についていった。


「助手、これは長としての使命なのですよ!パークのフレンズがどういう出し物をしているかを楽しん・・・じゃなくて調査して、たくさん面白いものを持ち帰・・・じゃなくて観察するのですよ!!」


まず博士が止まったのは、メリーゴーランドの前。

止まったままの馬の上で奇怪な動きをするギンギツネの姿があった。


「アレはなんなのですか!どういう意味があるのですかー!」


テンションの高い博士の問いに、地べたに座っていたキタキツネがのんびりと答えた。


「アレはねーギンギツネの踊りー」


「ギンギツネの踊り!深いのです!」


「そのままですよ、博士」


「ギンギツネは踊りができたのですね!知らなかったのです」


「うどんのCMで鍛えたのー」


「キタキツネ!それ言っても伝わらないわよぉ!」


馬の上からギンギツネが叫ぶ。よく見ると顔は真っ赤で沢山の視線を浴びながら踊るという羞恥になんとか耐えているようだった。


「面白かったらジャパリまん欲しい」


キタキツネが目の前にカゴを差し出す。

後ろにはジャパリまんがぎっしり詰まったカゴがいくつも置かれていた。


「ふむ、合格なのです!ジャパリまんをあげるのですよ!」


博士がリュックからジャパリまんを二個出してカゴに入れた。

博士と助手の分、ということらしい。


ジャパリまんの交換システムは、ヒトでいう通貨としての価値は全く無いと言っていい。子供がおままごとでやるお買い物ごっこと大差ないものだ。

こうやって出し物側がもらった沢山のジャパリまんも、出し物側に飽きれば他の出し物を見に行ってそこで他の者にポイポイと渡っていくだろう。

お祭りに疲れてお腹が空けばその場で食べるし、最終的に余ったらみんなで食べよう、だ。


「わーい、ギンギツネのおかげでこんなにたくさんジャパリまんだよー」


「もうっ!私ばっかり踊らせて・・・あなたも踊りなさいよ!」


「えー、ボクめんどくさいー」


あくびをしながらキタキツネは遂にその場にごろんと足を伸ばして寝そべってしまう。その、伸ばした足を助手が見た。


「・・・もうなんとも無いようですね」


「うん、もう何もなかったみたいに平気」


「奇跡でしたね、折れただけで済んだのは」


「ラッキー」


「・・・はぁ、こっちは苦労したってのに気楽そうですねぇお前は」


「でも、ありがとう。あの時、ボクの足を見てくれたから・・・きっと治ったんだよ」


「どういたしまして。博士にもちゃんと感謝するのですよ、博士がいなかったら治療キットがあっても使い方がわからな・・・」


「助手ーっ!みてみて!ふふふふ♪ふふふん♪ふふふんふ~ん♪」


ギンギツネから教わったのか、違う馬の上で楽しそうに腰を振りながら奇怪な踊りをする博士を見て助手が静かに首を横に振る。

ノリノリで踊る博士の姿が、他人から見た自分の姿だと悟ったギンギツネは床で一人悶絶していた。


「さあ博士、恥ずかしいギンギツネをいじめるのはそれくらいにしておいて・・・次に行きますよ」


「いじめてないのですーっ!」


「私・・・恥ずかしい・・・恥ずかしい・・・ぶつぶつぶつ」


次の出店目当てに歩いていく二人の背中を、キタキツネがじっと見守る。

その胸中を察したのか、その肩にギンギツネが優しく手を置いた。


「大丈夫よ。あなたがもっともっと酷い怪我をした時も、あの二人は本当に力を尽くして私達を助けてくれたわ。そんな二人ですもの、心配しなくていいの」


「うん・・・、ボク博士と助手が好きだから、ちゃんと幸せになってほしい・・・」


「なれるわよ。フレンズは誰かと一緒にいれば幸せになれるわ。それが特定の誰かと隣り合うことでなくても、みんなの世界で生きていけるなら」


肩に乗せられたギンギツネの手に、キタキツネがすんすんと鼻を鳴らす。


「ギンギツネ、言うことはくさいけど、良い匂いする」


「あなた、いっつも一言余計なのよぅ!」



――――――――――


「おっ!来たなぁ博士と助手!」


「よ~~、ぜひ寄っていってよ~」


突如現れたヘラジカとライオンに肩をがっちり掴まれる。


「おおー!これはどういう出し物なのですか!わくわくわく!」


「な、なんなのですかいきなり!これ、連れ込んでドリンク一杯で法外なジャパリまんを要求するやつじゃっ・・・、離すのですよ!筋肉!おい!」


ジタバタと暴れる助手はライオンに担ぎ上げられ、博士は借りてきた猫のように丸くなりヘラジカの脇に抱かれ連れて行かれた先には・・・


「「けもの腕相撲!一本勝負~~!」」


筋肉二人が高らかに叫ぶ。


「勝てるわけないでしょおおお!?私は重くても3キロ!博士なんて1キロくらいなのですよ!お前200キロくらいあるじゃないですか!?」


「まあまあ、フレンズの力ならわからないよ~?」


「よーっし!勝つのですよー!」


「なんで博士はそんなにやる気マンマンなのですかあぁ!!ユー1キロ!ヘラジカ700キロ!勝てるわけ・・・」


「ふんっ!」


パッカーン!!

ヘラジカの気合いと共に博士の腕が光の速さで台に叩きつけられた。


「博士ええええーーーー!!!!」


「うぅ・・・惜しかったのです、もう少し粘れれば・・・」


博士が悔しそうに手をプラプラと振る。

博士の中ではどういう手に汗握る戦いが繰り広げられていたのだろうか、助手が呆然としているとその腕を握られ、無理矢理椅子に座らされる。


「さぁ助手の相手は私だよ~、負けないからね~」


ニコニコと笑うライオンの手のひらに血管が浮かぶと、助手は自分の骨が軋む音を聞いた。周りからはフレンズ達の歓声や応援が聞こえていたが、すでに助手は気を失いかけている。


「そ、そうなのです!私には憤怒助手の迸りという特技が・・・っ」


「一撃破砕の拳」


「へ・・?」


「私の必殺技。一撃破砕の拳」


「ひえっ」


「この勝負でも活かすから、一撃破砕の拳。覚悟しろよ?おお?」


自分の手がスローモーションのように斜めに倒れていくの見た時、助手はすでに気を失っていた。



――――――――――――



「ったく、酷い目にあったのです!」


モザイクのかかった腕をプラプラしながら助手が憤る、それは手首と肘の中間のありえない位置からブラブラと揺れていた。


「いやぁごめんごめん、ちょっとやりすぎちゃったよお」


ベンチの上で助手を膝枕したライオンがニコニコ笑った。そのニコニコ笑顔は助手には見えなかったが。


(胸で顔が見えないのです・・・)


頭を横にすると、そこのテーブルで博士がヘラジカにリベンジを仕掛けているのが見えた。ヘラジカは露骨に手加減しているようだが、博士はそれに気づいてないのか、きゃっきゃと楽しそうにその小さい手を震わせていた。


「もう、勝てるわけないのですよ・・・」


「あんた達、手ちっちゃいし細いもんねぇ。さっき握って初めて知ったよ」


「そう思ったなら手加減するのですよ全く」


「いやぁ・・・そこはほら、恨みとかちょっとあったし、この機会に晴らしちゃおうかな~って」


ライオンがもにょもにょと何かを言うが、博士の奮闘を見守る助手の耳までは届かなかった。


「あんた達さ、そんなちっちゃな体で背負い過ぎなんだよ。たまには仲間を頼ってよねぇ」


ライオンが助手の羽をわしゃわしゃと撫でる。


「・・・・・・そうですね、あの日・・・我々が皆に頼っていれば」


「そうそう、私の一撃破砕の拳があればどんなことだってできるんだから」


「他人の手を壊すのは程々にして欲しいのですね。あと・・・図書館も」


「あ~、あはは。それは助手のせいだよ、助手が悪い」


「むむむ」


視界の先で、ついに諦めた博士がとてとてと歩いてくる。


「助手ぅー、ヘラジカには勝てませんでしたが参加賞でこれをもらったのですよ!」


それは、手のひらに収まるサイズの小さな人形。

どうやらヘラジカとライオンの姿を模しているものらしい。


「ほら、崩れたお城の片づけしてたらそうこ?からたくさん出てきてね」


かつてはパークのお土産だったのだろう。

助手はライオンの人形を受け取ると、それをポケットに入れて立ちあがる。


「では、我々は次の場所へ行くのですよ」


「うんうん、頑張りな~。私達はいつだってあんた達の、ううん・・・友達の味方だからね」


「そうだぞぉ!」


いつの間にか後ろに来ていたヘラジカが助手の背中をバシンと叩く。


「ぐげっ!・・・ぐぎぎ手加減・・・を」


「真っ直ぐ進め。そしてもし迷いそうになったなら私達に声をかけろ、助けを求めろ。私達はみんなで一つの群れなのだからな!はっはっはっは!」


「うぐぅ・・・人を叩いておいて何をかっこつけたことを」


ヘラジカの豪胆な笑いの横で、助手が背中を抑えながら呻く。

すると博士がヘラジカに向かって少し真剣な声で言った。


「もし、それでも道がわからなくなってしまったら・・・どうすればいいのですか?」


その問いに、ライオンとヘラジカが顔を見合わせてにっこり笑ってから助手に向かって言った。


「その時は一緒に迷ってあげるよ」


「おお!真っ直ぐ生きるも、真っ直ぐ迷うもみんなで一緒だ!」


助手が複雑そうな顔をして、少し目を反らしてしまう。

でも、その複雑な思いを優しく包むように博士の小さな手が助手の手を握る。


博士は何も言わなかったが、助手には全部伝わっていた。

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