ゆうえんち 1



博士と助手の二人が遊園地に降り立つ。

道中、博士が珍しい草だの綺麗な花だのに目を引かれては色々と寄り道をした為、空は少し赤みがかかっていたが、ラッキービースト達の働きによって電力が復帰した遊園地には燦々とイルミネーションが瞬いていた。

・・・所々電球が抜け落ちていたり点かなかったりはしているが。


「おお、もう始めてるのです!」


「全く長の私達が来る前から始めるなんて・・・、って博士!?」


隣にいたはずの博士が、ぴゅーっと風を切る音を立てて広場の方へ走っていく。


「おいしそうな匂いが!」


今日はパーク中のフレンズ達が集まるお祭りの日。


一体この遊園地内に何人いるのだろうか、建物や森にあるフレンズ達の縄張りの感覚からすれば大分広い敷地ではあるが・・・その中に数十人・・・いや、百人にも届くかもしれない。


様々なフレンズ達が遊び、歌い、踊り、元気に駆け回る。

そして多くのフレンズが「だしもの」をする側にもまわり、遊園地の中はもちろん、外部分にまでフレンズ達の無邪気な出店が広がっていた。

綺麗な石ころや貝殻から始まり、廃墟で見つけてきたであろう機械やら服やら・・・中には使い道のわからない何かの部品等を出品している小さなバザーが広がり、宝物もしくはジャパリまんとの交換で賑わっていた。


ステージやアトラクションの残骸の周りは、自身の特技を披露するタイプのパフォーマンス型の出し物をするフレンズが多く見えた。

いつかどこかで聞いた奇声のような歌声(?)も聞こえる・・・。


その中でも特に人だかりができていたのは空腹のお腹を刺激する匂いが立ち込める、遊園地の中心にある広場。

テーブルがいくつも並べられ、その真ん中でヒグマ達ハンター組が料理を振る舞っていた。

ヒグマの料理は相変わらず人気を博しているようで大勢のフレンズがわいわいと集まって行列もとい人混み団子を作っていた。


「はいはい、今日はカレーだけじゃないぞ!クリームシチューっていう新作もあるんだ、はいはい押さないでみんなの分あるからちゃんと並んで・・・」


「博士が一番に食べるのですぅぅ、むぎぎ」


団子の中に博士が飛び込むが、元々体が小さめのフレンズの博士じゃ・・・それなりに厳しい。

すぐにもみくちゃにされてしまい博士の姿が、精一杯に伸ばした腕しか見えなくなる。その手にはどこから出したやら、家で食事の時に使うスプーンがすでに握られていた。


「じょひゅー!たふけてーっ!」


「・・・・・・」


ちょっとこのまま放っておいてもいいかな、と思いつつ・・・助手はやれやれと溜息をついて人混みに勢いよく腕を突っ込み博士を引きずり出した。


「た、たすかったのでひゅ・・・くるくるきゅぅ」


「私が博士の分ももらってきますから、博士はそこで座っていてください」


助手が持っていた杖で地面をカンカンと叩く。


「はいはい、お前達。ヒグマが困っているのです、フレンズならちゃんと並んで順番こにもらうのですよ!ちなみに並べないやつは長的(おさてき)な、お仕置きがあるのですよー!」


それを聞いたフレンズ達がザっ!綺麗に一列に並ぶ。

長的なお仕置きはまさに伝家の宝刀だ。詳しくは説明できないがそれはもう嬉し恥ずかしのお仕置きで、いつかこのお仕置き経験者は「腰がくだけて一日中立てなかった、あの二人すごい」とうっとりとした瞳で語ったという。


「おおー、助かったよ助手ー」


「助かりましたー」


お礼を言うヒグマの後ろからリカオンがひょいっと顔を出す。

どうやら料理の手伝いをしている内に、人混みに飲まれていたらしい。


「長としてこれくらい当然なのですよ。・・・では感謝の印として私と博士の分を先に出すのです」


「最低だなお前ら・・・」


ヒグマが呆れながらも馬鹿でかい寸胴から二人分の料理をよそうとそれを小さな木の板に乗せて助手に渡した。

どうやらこの日の為に自作したトレイのようで、微妙に形がななめになっていたり端からトゲが出ていたり・・・実にぶっきらぼうなヒグマらしいものだった。


するとヒグマの隣で寸胴をかきまわしていたキンシコウが、琥珀色の液体が入った小さなグラスをトレイの端に乗せた。


「はい、これも一緒にどうぞ。これもヒグマさんの新作ハチミツクマクマドリンクですよ」


「なぁキンシコウ、その名前なんとかならないのか」


ヒグマが恥ずかしそうに頬をかく。


「ええー、いいじゃないですか。そもそもヒグマさんの必殺技もクマクマ・・・あい゛っ!!」


リカオンが言い切る前に頭にげんこつが落ちる。


「伝家のげんこつワンツーに改名してもいいんだぞ?対お前専用の必殺技にしてやろうか?ん?」


「いやー!大繁盛ですね!おしゃべりはやめて料理しましょう!ほらぐーるぐる」


漫才のような三人のやりとりに苦笑しつつ、助手は適当にお礼を言って三人に背を向ける。それを崩れ始めた行列の向こうからヒグマが顔を出して引き留めた。


「あ、助手!あのさ」


「・・・・・・ん?」


「いつもありがとね!長として色々してくれて感謝してるよ。博士にも言っておいて・・・、って・・・わわっちょっとみんな並んで並んで!長的なお仕置きされちゃうぞー!」


ザッ! 音を立てて綺麗な列になる。


「ふふっ、なんなのですかもう」


小さく呟いて今度こそ助手はハンターたちの料理場を後にした。


―――――――――――――


博士と助手が去ったあと、フレンズ達の行列はまるで時間が止まったかのように、すっと静かになる。皆が二人の背中をじっと見つめていた。


ハンター組の中で一番最初に口を開いたのがリカオンだった。


「博士達、何もなければあんな風に笑うんですね・・・」


「何かあってもああして笑ってりゃいいのにな、長だからって私達の知らないところで難しいこと考えて勝手に背負い込んで、それでしかめっ面ばっかりしてさ、そんなの疲れるだけじゃないか」


「それでも長として私達を想って苦労してくれたんですよ、ヒグマさんも感謝してたじゃないですか、ふふ」


「キンシコウはさっきから恥ずかしいことをサラっと言うなぁ」


「あら、クマクマドリンクのことですか?可愛い名前じゃないですか。それにお酒よりは健康にいいですよ」


「うーんムカつくけどなんかキンシコウにげんこつはできないんだよな」


「それ差別じゃないですかー!私のことも殴らないでくい゛ぬ゛っ!!また殴った!キンシコウさんにも殴られたことないのに!」


「幸せになれるといいですね、あの二人も」


「ああ、なれるさ。二人共自分が壊れるまでみんなの為に頑張ってくれたんだ、それだけの強さが二人にはあるってことさ」


「あの・・・いい話っぽくしめてますけど、私頭超痛いんですけど」


「うるせえ、さっさと料理手伝え。みんな並んでるんだから」


ヒグマの声を皮切りに、止まっていた行列がわっと動きだす。

パークを守るハンターの三人。彼女達は今日は皆の胃袋を空腹から守る為、お祭りの中でも戦い続けるのであった。


―――――――――――――


「ううぅーっ!!!うーまーいーぞー!なのですー!!」


「ああ、もう博士そんなに慌てて食べるから口元が」


助手がポケットからハンカチを出して博士の口元を拭う。


二人は広場から少し離れたベンチに座り、ヒグマの料理を食べていた。


「むむむ、このクマクマハチミツドリンク・・・カレーの辛さとちょうどいい感じなのです、やみつきなのです!」


「ハチミツクマクマドリンクですよ、博士」


「どっちでもいいのです」


そんな風に他愛も無い話をしながら二人はぺろりと料理を平らげた。

助手はハチミツドリンクを食後に飲んでいたが、途中で飲み切ってしまった博士が子供のようにじーっと見つめてくるので、結局半分は博士に飲まれることになってしまった。


「・・・なつかしいですね、この感じ」


博士が急にぽつりとつぶやく。


「・・・んん?そうですか?ご飯ならいつも一緒に食べてるじゃないですか」


「違うのですよ、こうして・・・外で二人並んで食べるのって、・・・もしかして覚えてないのですか?」


博士がぷーっと頬を膨らませると、助手があわあわとうろたえる。


「え、ええ?かばん達とカレーを食べた日のことですか?」


「違うのです、もっともっと前なのです」


助手が顎に手をあて記憶を必死で辿る。

そしてハっと気づいたように顔を上げる。


「もしかして・・・最初の」


「そう!そうなのですよ!私と助手が初めて出会った日のことなのです。それが、ずっと前の今日なのです」


「ああ・・・思い出しますね、感動的な出会いでした」


「・・・・・・むう」


助手がなつかしそうに過去に想いを馳せている隣で博士が再び頬を膨らます。


「・・・ジャパリまん食べてたらたまたま出会っただけなのです。別に感動とかそういうのありませんでしたよ。助手、絶対覚えてないのです」


「あれ・・・?」


遠い記憶の中で、まるで童話のような素敵な出会いが繰り広げられていた助手が首をかしげる。


「むむ・・・確かに言われてみれば。・・・でも、あの日私達が出会ったおかげで今こうしてまた一緒に並んでご飯を食べてるのですね」


「ええ、だから今日は私にとって特別な日なのです」


そう言ってから、博士は少し悲しそうに視線を下に落とした。


「沢山のことがありました。・・・でも、だからこそ私は今日をお祭りで迎えられて嬉しく思います。みんなにとって地震の悲しい日。長でありフレンズとしての私にとってはお祭りの日。そしてその前のアフリカオオコノハズクとしては、あなたとの大切な日だから」


「・・・うぅ」


助手の目にじわりと熱いものが混み上げた。

それを悟られないように、羽で横顔を隠す。


「今日が悲しい日じゃなくて、私は嬉しいのですよ。助手」


博士が寄り添うように助手の肩を抱く。

二人は長、現在のパークの群れの長。


でも・・・元々は二人きりの友人、今この場にいるのはあの日出会った時のままの二人だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る