第十章
じゃぱりとしょかん
「助手っ、私のリュックが無いのですよ!どこに置いたか知りませんか!?」
「昨日の夜、絶対に忘れないように入り口の前に置いておく、って博士が自分で言ってましたよ」
「その入り口に無いから聞いてるのですーっ!あーーもう時間も無いのです!」
「そもそも飲み物とジャパリまんくらいしか入ってないじゃないですか、なんなら手ぶらだって構わないんじゃ・・・」
「今日のすぴーちの台本が入ってるのです!昨日の夜一生懸命書いたのにぃぃ、うわああん!」
「台本ではなく原稿では」
「いいから探して欲しいのですー!」
あたたかな日差しが差し込む図書館の中から、いつもより賑やかな声が響いていた。
季節は春を迎えたばかり。
風は少しずつ冷たさをなくし、昼間はよく陽も差し、少し汗ばむこともあるくらいの過ごしやすい気温になってきていた。
冬の寒さは過ぎたが、夏までまだはまだ遠くしばらくはこの過ごしやすい気温が続くだろう。
「はっ!そういえば昨日寝る前に・・・」
季節の流れに思いを馳せる助手の隣で、博士が慌ただしく上の寝室へ向かってばさばさと飛んでいく。
「博士ーっ、室内で飛ぶと危ないのですよー、この前だって頭をぶつけて落っこちそうに・・・」
助手が勢いよく飛んでいった博士に声をかけつつ、図書館の入り口に置いてあるいくつかの小さなプランターの花に水をあげていた。
「ふふふ、この花の育成はもう完璧なのですね。本で得た知識がこう形になって実るというのは嬉しいものなのですよ」
一通り水をやり終わると、じょうろの中に残った水を辺りの雑草に向けて適当に撒く。季節が敷いた緑の絨毯がキラキラと太陽に反射して、その光景は助手の心に「今日も素敵な一日になる」と思わせた。
「あったのですー!!!」
助手の心配などよそに、ピンクのリュックを両手で抱えた博士が飛び出してくる。
「昨日寝る前に思いついた後に、更に思いついてベッドの横に置いたのでした。盲点だったのですよ、確か・・・東大イデオロギー?」
おそらく灯台元暗しと言いたかったのだろうが、面白そうなので助手は適当に頷いておくことにした。
「準備ができたなら出発しますよ」
「はい!一緒に行くのです」
博士が差し出した手を握る。
手のひらから伝わるお互いの熱、それを確かめるように助手がにぎにぎと手を動かす。
くすぐったそうにして博士も同じ動きを返すと、少しだけ何故か恥ずかしいような気分になった。
「「えへへ・・・」」
どちらともなく二人は顔を見合わせ照れくさそうに笑うのであった。
「「しかし・・・」」
二人で羽を広げて地面から浮き上がったところでもう一度お互いの顔を見る。
「「飛び辛いのです・・・」」
二人は大人しく手を離し、それでもお互いが近づけるぎりぎりの距離を保ってふわふわと飛びながら図書館を後にした。
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