隣同士に座ったトキとアルパカが、コンと小さくグラスをぶつけあう。


「おつかれさまぁ」


「あいたたた・・・腰と肩が・・・」


「トキちゃん転んだり滑ったりぶつかったりしてたもんねえ」


「私には向いてないのよ、カフェ」


「そんなことないよ?カフェの制服着てるトキちゃん、すっごい可愛いんだから」


「・・・・・」


いまいち噛みあってない返答のアルパカにトキが呆れて溜息をつく。


「でも、お客さん来るようになって良かったわね。少し前まで万年閑古鳥だったものここ」


「万年閑古ドキ?」


「別にうまくないわよ、それ」


「えへへぇ」


昼間に沢山のお客が来て疲れたからか、二人共今日は口数が少なかった。

もはや気心知れた二人の間では、お互いが何も話さない時間ですら心を通わせるのには十分なのだ。


「でも、また来てくれると嬉しいお客さんも、たーくさんいるねえ」


「・・・・・・そうね」


何人ものフレンズ達の顔が頭に浮かぶ。

それは、最近顔を見せていないだけの顔や、地震の日を堺に・・・二度と来れなくなってしまった顔・・・色々なフレンズ達の記憶が頭の中を巡っては流れていく。


「失くすの、つらいねえ」


「・・・新しい出会いがあるわ」


「もう会えない、ってつらいよお」


「私がいるわ」


「また会いたいねぇ」


「・・・・・・そうね」


アルパカの、ただの愚痴のような言葉にもトキは一つずつ自分なりの心を込めて言葉を返していく。


「新しいものを作っていけばいいのよ、ここはカフェ、フレンズとフレンズの出会いの場なんだから」


「・・・そっかあ」


アルパカが納得したようにウンウンと頷く。

夜の空気のせいか、昼の疲れのせいか、少し陰ってしまったアルパカの心のそれを少し拭い去ってやれたのかとトキも安堵の息をついた。


「作ればいいんだあ」


「ええ、新しい出会いを・・・」


「トキちゃん、あたしと赤ちゃんつくろうかあ」


「はぁあぁあっ!?」


アルパカのいきなりの提案にトキが思わず素っ頓狂な声をあげた。


「な、なななな、なにを言ってるのよあなたは、正気?」


「あ、でもフレンズって・・・赤ちゃん・・・、んん?」


自分達、フレンズという種族の増え方がいまいちわかっていないアルパカが、うーんうーんと首を左右交互に捻る。


「そもそも、私達女の子同士じゃない。あなたその辺りわかってるの・・・?」


ドキドキと早まる心臓を気取られないように、トキは思わず椅子を一歩後ろに下げてしまった。


「・・・??んん、ああ・・・そっかあ・・・そうなんだっけえ?」


それでもよくわかってないらしいアルパカは「また今度考えよお」と言うと、何事もなかったかのように空になったカップを持って立ち上がり、カウンターでカチャカチャと洗う。


「な、なによ・・・私だけドキドキしてバカみたいじゃない・・・」


アルパカに背を向けてトキは本当に小さな声で呟いた。

聞こえては欲しくなかったが、声に出さないとこの不思議な熱を抑えておけないからだった。



今日も変わらず、二人のカフェの夜は更けていく。

変わらないもの、変わってしまったものと、だから変わらないもの、だから変わるもの。それが・・・このカフェにはいつだってあるから。

だからここは、これまでもこれからも、出会いと別れが巡る素敵なカフェであり続けるのだった――――

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