過ぎ去った季節達へ



「くあぁぁっ・・・」


「あらぁ、スナネコちゃんおねむう?」


「いえいえ、ここは涼しいので外の暑さとちょうど良い感じであくびが~」


晴れ渡る空の下、カフェにはアルパカとトキ、そしてスナネコの三人の姿があった。


季節は真夏、外は少し痛いくらいの日差しが照り付けるが、高地ということもあってかカフェの中は比較的涼しかった。


そんな憩いの場で少女達がアイスの紅茶を飲みながら談笑する。


「それにしてもありがとねぇ、スナネコちゃんが下に来てくれてからもう大助かりだよお」


「いえいえ、その分ボクもここで美味しい紅茶を飲めますから」


あの日・・・呪いを断ち切ったスナネコは、高山の麓に用意されたフレンズ達の避難所へとやって来ていた。

一人で砂漠エリアで生きていくこともできたのだが、スナネコは誰かの為に生きたいと願った。誰かの為に生きることが何よりの自分の為になると。

それを、友人も願ってくれるはずだと信じて。


そして今は避難所での沢山のフレンズ達の共同生活を支える一人になっていた。

口下手で、決して人懐っこいとは言えないスナネコが、フレンズ達の中心になることはなかったが、それでも避難所の中ではなくてはならない存在の一人にはなっていた。


「わーざわざジャパリまんとかお茶の葉っぱとか下から色々持ってきてくれるんだもん、助かるよぉ」


「いつも思いますけど、紅茶の葉っぱってどこで作ってるんでしょうか、たまにボスが置いていくのを持ってきてるだけなんですが」


「あら、そんなのどうだっていいじゃない。そのおかげでここで美味しいお茶がこうやって飲めるんだから」


トキがグラスの底に残った紅茶をストローでずずずっと音を立てて飲み干す。


「アルパカ、おかわりくれるかしら」


「トキちゃんもう三杯目だよお?後でおしっこすごいことになるよ~」


そう言いつつも、にひひと笑いながらアルパカが嬉しそうに紅茶を淹れていく。


「暑いんだしいいじゃない。マスターが客の注文にケチつけないで欲しいわ」


「トキちゃんもお手伝いしてくれていいんだよお?スナネコちゃんを見習ってほしいなぁ」


「ああ、いい天気ね。今日も紅茶が美味しいわ」


澄ました顔でとぼけるトキを横目にスナネコがクスクスと笑う。


「いいですね、仲良しって」


スナネコのそんな言葉に、二人が少しだけ言葉に詰まる。


「あ、すみません・・・そういう意味じゃないんです」


慌てて取り繕うようにスナネコが続けた。


「ボクはもう、未来に生きていくって決めましたから。楽しかった日々に戻りたい・・・ではなくて、楽しかった日々のような明日に進みたいと。その目標だなあ・・・と、あなた達を見て思ったんです」


「えっへへ、あたしとトキちゃん仲良しだからねえ。ねートキちゃん」


「・・・なんだか暑いわね、ここも。私、ちょっと外の風を浴びてくるわ」


グラスの紅茶を一気に飲み干し、トキがカランカランとドアを開けて出ていってしまう。


「照れ隠しですね」


「だよねえ。トキちゃん素直じゃないから、二人の時はもうちょっと甘えんぼさんなんだけどねえ」


「・・・あはは」


今のは聞かなかったことにしてあげようとスナネコが苦笑する。

すると再びカランカランとドアが開いて、フレンズが何人か入って来た。


「アルパカさーん、お茶のませてー」

「マスター、いつもの甘いのー」


「あらあ、お客さんだ。はいはい、好きな席に座って待っててねえ~」


アルパカがにこにこしながら、ぱたぱたとカウンターの中へ駆けていく。

最近のカフェは少しずつお客さんが来るようになっていた。


地震の日から時間が過ぎたことで、麓の避難所のフレンズ達の中に少しずつ心の余裕を取り戻してきた子達も多かった。

そして何よりラッキービースト達の働きのおかげで、再稼働したロープウェイの存在が大きいだろう。


「アルパカ、ボクも手伝いますよ」


そう言うとスナネコが、慣れた動きでカフェの奥にある棚を開ける。


「いつもごめんねぇ、助かるよお」


「いえいえ。お世話になってますから・・・よっと」


棚から出したカフェ用の制服をサっと着込むと、スナネコがアルパカの隣に立ち、カップを用意したりスプーンや砂糖をテキパキと準備していく。


これは最近のカフェでは珍しくもない、よく見られる光景だった。


「もう一人のお手伝いさんはなにしてるのかねえ」


スナネコの動作に比べるとゆったりとした動きでアルパカがお茶を淹れながらぼやくと、もう一度入り口のドアが開きトキが入ってきた。


「あ、トキちゃあん。トキちゃんもちょっとてつだっ」


「わかったからちょっと待って」


トキは慌ててそう言うと足早に奥のトイレへと消えていった。


「だから飲み過ぎるとそうなるよって言ったのにねえ、トキちゃんたまーにぽんこつだから」


『ちょっと!聞こえてるわよ!』


トイレからトキが叫ぶ。


「おトイレから話すのは行儀悪いよお」


『それより、三人くらい外で見たわよ。来るんじゃないかしら』


「ええー、それは大変だあ」


声だけは慌てているが、動作は相変わらずゆったりのままのアルパカと、アルパカから渡されたトレイをスナネコが客席へテキパキと運ぶ。


「はいどうぞ、ゆっくりしていってくださいね」


洗練された仕草で客席にお辞儀をし、スナネコが去ると客のフレンズ達がキラキラしたまなざしをその背中に向けた。


「あの子かわいい~」

「いやいやいや、かっこいい、アレはかっこいいだよー!」


きゃっきゃと騒ぐ黄色い声が、自分に向けられたものだとは考えないようにしてスナネコはアルパカの隣に立ち静かに次のオーダーを待つことにした。


ざーっと水音の後に奥のトイレの扉が開き、トキがよろよろと出てきた。


「びっくりしたわ・・・おしっこってあんな長時間出続けるのね、ヒトの体って不思議だわ・・・。紅茶みたいな色だったし」


「トキちゃん最悪だよお」


「最悪ですね」



カフェは新しい客と、新しい店員を迎え、新しい時間を過ごしていく。

これから訪れる新しい客も、過ぎ去った季節の中にいたもう二度と訪れることの無い客も・・・


命が続いていく限り、いつまでもこの場所の時間として流れていくのだ・・・。

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