第六章

黒子 2



無人の建物の中に、散乱した瓦礫や細かく砕け散ったガラスをざくざくと踏み歩く音が響いた。


ここは、地震よりももっと昔に・・・パークからヒトがいなくなった際に廃棄された建物だった。


内部には多くの複雑な機械や、ヒトがかつて使っていたであろう寝床が多くあり、倉庫と思われる場所には非常用の食料や水、そして薬が多く保管されていた。


もちろん数に限りはあるが、続いているジャパリまんの配給に加えれば二季節分を過ごすくらいには役に立ってくれる量はあった。


かつてはパークのアトラクション施設よりも大きく、設備や人員が整った大事な場所だったが・・・かつての異変でここには他の場所以上に大きな何かがあったことは確かで、元々は三階か四階建てと思われる建物の上部分が大きな爆発にでも巻き込まれたかのように、本来の姿から大きく形を変えていた。



セルリアンの襲撃か、それともヒトの手による何かだったのか・・・なんにせよ甚大な被害を受けた建物の中で”その部屋”が地下に配置されていたことは幸運だった。

そして、その中のいくつかの機械が稼働可能な状態にあったことは、まさに奇跡だった。



小さな事務室の扉の前に立ち、鍵を差し込んだのは・・・助手だった。


元々フレンズが立ち寄るような場所ではないということに加え、この時間、この場所に誰もいないことを助手は確信しているが・・・それでも扉を開ける瞬間はつい周りを警戒してしまう。


誰もいない広い空間にカチャリと鍵を回す音が響く。

何の音も気配もしないことをしっかり確かめると助手が扉を開け部屋の中に入る。


いくつかの機械を迷いなく立ち上げ、意味のわかるボタンだけをパチパチと押していくと、機械の下部の平べったい穴が赤く点滅した。


助手はリュックから一枚のカードを取り出すと、慣れた手つきで穴へカードを差し込む。

すると短い電子音がしてから機械の声でアナウンスが流れた。


「リコさん。おはようございます、12月31日、月曜日です。今日も一日、パークの為に、フレンズ達の健康の為に頑張りましょう」


”リコ”は多分かつてこのパークにいたヒトであり、このカードの持ち主の名前だろうが、現在のこのカードの持ち主である助手にとっては全くの他人でしかない。

たまたまこのカードが必ず落ちている場所を見つけただけ、だからこうして勝手に使わせてもらっている、それだけだった。


12月31日の月曜日。これにも意味は無い。

機械が壊れているのか、数えることをやめて久しいのか、いつ何時に来てカードを入れても同じ内容しか返さないのだから。


カードを通すと壁のパネルのランプがいくつか点灯し、助手は迷わずその一つを押すと、地下の方からビーと少し長めの音が鳴った。


その音を確認し、助手がカードを抜いて地下へと向かう。

初めてここに来た時から、地表部分の建物の崩壊具合に比べ地下はかなりの清潔を保たれていた。


わざわざ掃除をしなくてもいいのは助手にとって助けとなった。

そんなことに何日も費やすわけにもいかないし、かといって不衛生なままではここでの目的を果たすのは不可能だ。


”その部屋”のドアを開けると、部屋の中にはすでに明かりが点灯して、いくつもの複雑そうな機械が電子音を鳴らしながら静かに稼働していた。


機械のパネルに視線を落とし、いくつかのランプが緑色に点灯していることを確かめてから助手が安堵の息を漏らす。


「大丈夫、ですね・・・」


・・・助手は、機械のことなどわからない。

事務室での行動も、ここでの機械の操作も「これを押せばこうなる」「このランプが緑なら大丈夫」といった、行動と結果を直結で理解しているに過ぎなかった。


全ては重ねた経験で知っているだけのことなのだ・・・。

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