シャクジョウの花 2


「ええーっ!」


「他のメンバーが迷子・・・ですか?」


飛び上がるアルマーの横でセンザンコウがふむ、と腕を組む。


「ええ、あなた達・・・心当たりは無いかしら」


「いえ、私達は向こうの住処からまっすぐここに来ましたが・・・それらしいフレンズとは誰も会わなかったですね」


「会ってたら先にサインとかもらってるよぉ~」


アルマーがプリンセスとコウテイのサインが書かれた紙をパタパタと掲げる。


「困りましたね、せめて三人一緒にいてくれればいいんですけど・・・」


「バラバラに迷子にはならないだろう、・・・フルルが迷子になってそれを二人が追いかけていって私達とはぐれた・・・ってところじゃないのか」


マーゲイの心配をよそに、コウテイが「いつものことだ」と言わんばかりに淡々と言った。

実際コウテイの言う通りの状況なのだが・・・マネージャーになる前の一年を断片的にしか知らないマーゲイはまだ心配の方が勝る。


「せめて怪我だけでもされてないといいんですが・・・」


「最近、この辺に大型のセルリアンが増えてるって聞いたよー?もしかしたら・・・あぎっ」


余計なことを言ったアルマーのお尻をセンザンコウが見えないようにつねる。


「いたいよう!センちゃん!」


「あわわわわわ、イワビーさーん!ジェーンさんっ、フルルさーん!!」


「あ、おい!」


マーゲイが最悪の事態を想像してわたわたと走りだそうとするのを見て、コウテイが

慌てて手を伸ばし、その尻尾を思いっきり掴んでしまった。


「ぎにゃああああああ!!」


「わ、悪い」


「何をやってるのよ、あなた達は・・・」


そんな二人のやりとりに呆れて大きな溜息をつくプリンセスの後ろで、アルマーとセンザンコウがひそひそ話をしていた。


(アルマーさんこれ、チャンスかもしれませんよ)


(そうだねセンちゃん!しかも最初の依頼人が・・・ペパプ!)


(この迷子事件を見事解決すれば、パーク中に私達の名前が轟くこと間違いなしですよ!アルマーさん!)


(よーし!そうと決まれば)


「ゴホンゴホン、・・・えーとプリンセスさん!」


アルマーがわざとらしく咳払いをしてからプリンセスに言った。


「も、もしよければこの迷宮事件、私達がババーンと解決しちゃいますけど・・・」


「へ?あなた達・・・何かそういう技があるの?」


「・・・・・・無いけど」


「人探しが得意だとか・・・?」


「初めてですけど・・・」


「・・・・・・・」


プリンセスがどんどん真顔になっていく。


「はぁ・・・、ともかく。森で人探しとなれば手は必要だわ・・・協力をお願いできるかしら?」


「任せてください!」


「やったねセンちゃん!私達の探偵デビュー第一歩だよ!」


「やりましたねアルマーさん!華々しいスタートですよ!」


一体何が華々しいスタートなのかわからないが、とにかく三人との合流を急ぎたいのでプリンセスもあまり深くつっこまないことにした。


「では作戦会議をしよーっ!」


「あれ、・・・ううん??」


元気に拳を振り上げるアルマーを見て、プリンセスが何かに気づいたような顔をしたかと思うと怪訝そうに首を傾げた。


「・・・プリンセスさん、私の顔に何かついてますか?」


アルマーがペタペタと自分の頬をさする。


「さっきからずっと気になっていたんだけど。あなた・・・、かばん救出の時にいたわよね。あの時は話す機会が無かったけれど」


「・・・・・・かばん?」


きょとんとするアルマーを見て、プリンセスが自分の違和感に納得したように小さく頷いた。


「人違いだったわ、ごめんなさい。気にしないで」


「ほいほーい、気にしないでーす!」


同じ動物を元とする別のフレンズが生まれることもあると、どこかで聞いたことがあったのを思い出す。


(こういう感じなのね・・・なんだか不思議な感覚だわ、そっくりなのに・・・違う)


この世界は面白いな。

とプリンセスが自分の柄でもない大層な感覚に浸っている内に、アルマーとセンザンコウがガリガリと地面に森の地図を描いていく。


ここは迷いやすい、ここは大きな穴がある・・・等、この辺りを住処にしているだけあって本当に力にはなってくれそうだった。


「とー言うわけで、私とセンちゃん、プリンセスさん達の二手に別れて・・・」


「ストップ、せっかく作戦立ててくれたのはいいけどそこだけは反対」


「ええーっなんでですか」


出鼻をくじかれたアルマーがぶーぶーと唇を尖らせる。

なぜなら、自分達の力だけで先に迷子をみつけてプリンセス達に引き合わせる・・・というかっこいい演出を狙っていたからだ。


「この辺りに大型のセルリアンが増えてるって言ってたじゃない、バラバラに動いて遭遇したら最悪よ」


「そうだな、私達はハンターじゃないし・・・みんなで一緒に動いた方がいいと思う」


センザンコウは、プリンセスとコウテイの意見にアルマーが渋るかと一瞬心配したが・・・アルマーが「さすがペパプの皆さんは頭がいい」とあっさり納得したので安心した。

センザンコウも自分達が強くないことをちゃんとわかっている。

二人が止めてくれなければ、自分が止めていた。


突っ走ろうとするアルマーのブレーキ役を奪われてしまった事が、ちょっぴりだけ悔しかったが・・・


「では全員で動きましょう、アルマーさん、それでいいですね」


「アルマー探偵団withペパプ!しゅっぱーつ!」


(私の名前が入ってないし、二人で「団」・・・)


これから先もずっとアルマー探偵団が採用されてはたまらないので、何か別のかっこいい名前を考えておこう、とセンザンコウは胸に誓った。




そして、この事件は捜索開始から一時間も経たない内にあっさりと解決してしまうこととなる・・・。

それも、イワビーの高いびきが聞こえてきて発見・・・というなんとも情けない幕切れであった。



――――――――――



「ああーーん、もーっ!!」


ベッドの上から投げ出した足をアルマーが横になったままジタバタと動かす。

もうすっかり外は暗くなっていた。


「まあまあアルマーさん、最初ですからこんなものかもしれませんよ。探偵の仕事の多くは浮気調査と犬猫探しといいますし」


「うわき?ってなに?」


「・・・いえ、私も意味は知らないのですが」


どこかで聞きかじっただけの言葉を得意げに並べてしまったことに、センザンコウが少し顔を赤くした。


「ま、いっか。次はもっと活躍するぞー!」


「切り替え早いですね・・・、アルマーさんがうじうじしてるから励ましたのに」


「センちゃんが励ましてくれるからうじうじしただけだもん」


「むむ、恥ずかしいことをサラっと言いますね・・・」


「???」


アルマーはわかっていないようだったが、微妙な空気を振り払う様にセンザンコウがぱちんと手を鳴らした。


「そうだ、名前・・・考えたんですよ」


「なまえー?」


「私達の、探偵としての名前です。・・・アルマー探偵団だと私がおまけみたいじゃないですか。助手みたいな」


「えー!かっこいいと思うんだけどな、アルマー探偵団」


「そもそも、二人しかいないのに団って名乗るのもなんかおかしいですし」


「じゃあ団員を増やせばいいんだよ!」


それはそれで・・・センザンコウ的にはちょっと面白くない。


「ともかくアルマー探偵団は却下です、私がもっとかっこいいのを考えましたから」


センザンコウはちょっと偉そうに腰に手を当てて、どや顔なんかをしてみせる。


「なになに、教えてよー」


「むむ・・・」


こう改まって言うとなると少し気恥ずかしさを感じたが・・・それでもアルマー探偵団よりはマシだと思う。

センザンコウが覚悟を決めて、すぅっと息を吸い込む。



「これからの私達の名前・・・それは・・・」




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