シャクジョウの花
「センちゃんセンちゃんセンちゃーーん!たいっへん!」
「アルマーさん落ちついてください」
血相を変えて飛び込んできたアルマーの顎をセンザンコウがからかうようにくすぐる。
「ほれごろごろ~」
「ごろごろごろ・・・って私ネコじゃないよ!」
「それでも一回ごろごろ言うんですね」
「そこはほれ、ノリで」
「で、どうしたんですか」
大変と言いながら飛び込んできた割には、大人しく撫でられてごろごろ言うくらいなのだし・・・大した”大変”ではないのだろうとセンザンコウは察していた。
「ペパプ!ペパプが近くに来てるらしいよ!」
ほら、でしょ?
いやそれは嬉しいし凄いことだけど。
「じゃあ一緒に会いに行きましょうか、アルマーさんペパプの大ファンですもんね」
「センちゃんだってファンでしょー!?」
勿論そうなのだが、なんというかこう・・・ファンとしての動きのベクトルがアルマーとは違うというか・・・
「とにかく行こっ!」
屈託の無い笑顔で手を伸ばすアルマーの手をセンザンコウがとる。
急いで急いでとひっぱるアルマーだったが、センザンコウはのんびりと自分のペースで歩いていた。
「引っ張ったら痛いですよー、アルマーさーん」
「もー!センちゃんなんでそんな落ちついてるのー、ペパプなんだよー!?」
「なんだよー、言われましても」
もーもーもー!はいはいはいー、と二人の声が外へ消えていく。
二人が住処としているこの建物には二人以外にも10人近いフレンズが住んでいた。
元々はパークの人間の簡易宿舎施設だったので、ある程度の部屋数があり、シーツ等は片づけられてしまっていたがベッドの骨組みの部分が何台か残っていたので各自集めた布きれだったり葉っぱだったりをシーツ布団代わりにして、なんとも野性味の溢れる寝床として使っていた。
文明の残滓と野生のアンバランスなコントラストが、まるでここがすでにヒトの世界でも動物の世界でもないことを物語っているようにも見えた。
アルマー達の部屋とは違う部屋にラッキービーストの姿があった。
どこから取り出したのか、小さな箒を耳で器用に挟み部屋の床に溜まった埃をぱさぱさと払い、それを廊下に出してから隅の一か所に集めて、今度はどこからともなく塵取りをだす。
「ソウジ、ソウジ」
しかし溜まった埃は、バタバタと廊下を駆けていく別のフレンズ達のせいで一面に巻き上がってしまった。
「あー!ボスお掃除ありがとね!」
「ペパプペパプ!」
言いながらドタドタと何人かが外へと出ていく姿をラッキービーストは何も言わずに見送った。
「ソウジ、ソウジ」
もう一度小さな箒を耳で掴み、散った埃達を集めていくのであった。
――――――――――
森の中に三人のフレンズの足音がした。
「あーー、もうどこにいんだよ全く」
歩き疲れたイワビーが地面にどっかりと腰を下ろす。
「プリンセスさん達、見つかりませんね」
「フルルは探検たのしーよー」
ジェーンとフルルがそれに続いて座り込む。
「普通、迷子になるか?そんな迷う程深い森じゃないだろー、ここ」
「プリンセス達、たまにうっかり屋さんだからね~」
「あ、あはは・・・そ、そうですね・・・」
歯切れの悪いジェーンの苦笑の理由は、そもそもこんな状況になったのが、「あそこでなんか光ったような気がする」という理由で道を外れて歩き出したフルルを慌ててイワビーと一緒に追いかけたからだった。
こういう時だけ機敏に動くフルルを追いかけて、捕まえた頃にはもうプリンセス達とははぐれていた。
正直、迷子という言葉が当てはまるのは自分達の方なのだ。
「お~~~~い、ぷりんせす~~~~、こ~~~て~~~~、ま~~~げ~~~」
やる気無さそうにイワビーが仲間の名前を呼ぶ。
「まーげー、ふふふ、まーげーってなんかおもしろいかもー」
言葉の響きがツボに入ったのか、フルルが「まーげーまーげー」と繰り返す。
そんなフルルを見てイワビーも呆れたのか、ついに後ろにゴロンと倒れて大の字になってしまった。
「あーーもーー、つかれたつかれたつかれたーっ!!」
「フルルもおひるねしたーい」
そう言うとフルルがハイハイするようにイワビーの隣まで行き、そのままべちゃっとイワビーの隣に寝転がった。
「イワビーまくらー」
「んあぁー。重いぞーフルルー」
そうは言うがイワビーも別に振り払おうとはしない。
「これねー、腕枕って言うんだよ」
「腕を枕にしてるもんなー、そりゃそうだろー」
すっからかんな二人の会話にジェーンがくすくすと笑う。
「確かに歩き疲れましたもんね、少し休憩してからまた皆さんを探しましょうか」
「おー、そうしよそうしよ、オレは寝る」
「フルルもー、すやり」
「はやっ!・・・勝手に一人で歩き出したり人の腕を枕にして速攻寝たり・・・フルルはほんと自由だなー」
「私もちょっとお昼寝しますね、ふあぁ」
ジェーンが近くの木に寄りかかろうとすると、イワビーが寝そべったまま「来い」と手招きした。
「ええっ」
ジェーンも意味することがわかって、ちょっと照れて戸惑う。
「こーなりゃ一人も二人も一緒だ、むしろ片方だけだとバランスが悪いぜ」
「で、でも」
「布団が無いからちょっと寒い」
春の陽気が肌に心地いい温かさをあたえてくれる気温だった。
むしろほんのり汗をかいている程なので、寒いわけなんてない筈なのに。
これは、自分から呼んでおいてのイワビーなりの照れ隠しなのだろうと察したジェーンは、その好意を無碍にしないように結局はイワビーの隣に寝転がる。
そして、そーっと頭をイワビーの腕に乗せた。
「・・・えへへぇ」
腕の柔らかさと芯のほのかな固さは、思ったより何倍も心地いいものだった。
思わずだらしない笑みが漏れてしまい、ジェーンはハっとしてすぐにいつもの可愛らしくもシュっとした笑顔に戻る。
イワビーも見てなかったフリをして目を閉じたが、その頬が赤く染まっているのでジェーンもしっかりと見られていたことに気づいていた・・・、でもお互いに特に何も言わなかった。
「たまにゃーいいな、こんなゆっくりも」
「はい、いま私・・・フルルさんにちょっと感謝しちゃいました」
「あー、うん、おう」
「ふふっ、なんですかぁそのお返事」
ジェーンが少し甘えたような声で言うと、イワビーはますます顔を赤くした。
「おう」
「それ・・・ふるるの・・・」
フルルがむにゃむにゃと言いながらイワビーに抱き着く。
「ぐえ、まったくこいつはよ・・・」
フルルの頭が乗ったままの腕を少しだけ曲げてフルルの頭を撫でてやると、もぞもぞ動いていたフルルの寝息がすーすーと静かなものに変わった。
イワビーが安堵の息をつくと、イワビーの胸にジェーンの手がそっと乗せられた。
「あんだよ」
「ぎゅー、は、その・・・恥ずかしいので。私はこれで。ふふふ」
「勝手にしろー」
それだけ言ってイワビーの呼吸もゆっくりと一定のリズムになっていく。
イワビーが眠ったのを見届けてから何秒も立たない内に、ジェーンの意識も心地よい眠りに落ちていくのだった・・・。
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