第四章 

狩り




一匹のセルリアンがバキバキと音を立てて、木々を薙ぎ倒しながら走る。


そいつはチョウチンアンコウの”アレ”を想起させるような細長く垂れた頭部を持ち、ずんぐりとしたキューブ状の胴体から前方にだけ揃って生えた四本の短い脚をがちゃがちゃとカニの様に動かして森を爆走していた。

身の丈はフレンズ達よりは遥かに大きく、細長い頭を真っ直ぐ伸ばせば周りの木よりも高いかもしれない。


そして、その少し後ろにそれを追う二つの影――


木々を飛び移るようにして追う金色の人影が・・・キンシコウ。

そして地上をものすごい速さでドスドスと走るヒグマの姿だった。


「キンシコウ!!このまま追いこめっ!先に川がある・・・!」


ヒグマの指示でキンシコウがセルリアンの左側を詰めるように追う。

小さな如意棒を足元に投げると、飛びのいて避けたセルリアンがバランスを崩し

走っていた勢いのまま滑るように横に大きく傾く。

しかし四本の脚で地面を何度も引っかくようにして踏ん張り、転倒することはなく持ち直した巨体でそのままがむしゃらに爆走を再開した。


もう一本、セルリアンの体に当たって宙に跳ねた如意棒をキンシコウは空中でキャッチし、そのまま前方の木に飛び移り、次々と跳ねるようにしてセルリアンを追う。


ヒグマもドスドスと音を立ててセルリアンを追っていく。

キンシコウの素早い追跡と違って、ヒグマのそれはまさに威圧。

セルリアンですら畏怖し、本能的な逃亡をする程の圧倒的な空気をまとっていた。


「よし、こっちに誘導できれば・・・っ」


走るセルリアンの先に小さな小川があった。

膝よりも低い水深なので、もちろん沈められる程ではないが・・・幅だけは10m近くある。


「アレだけ弱ってれば・・・!」


木々が開け、目的の小川が見えるとセルリアンの速度が急に落ちた。

自動車の様な速度を四本の脚で地面を乱暴にえぐるようにして無茶苦茶なブレーキをかけて急停止した。


「逃がしませんっ!!」


セルリアンが他の道を探そうと頭部を上げた時には、もうキンシコウが木々の隙間から目いっぱい太く長くなった如意棒を振りあげて飛びかかっていた。


「でえええーーーいっ!!」


重い炸裂音と共に、如意棒ごとセルリアンの体がぐにゃりと歪む。

抑えつけられたゴムボールが反発で勢いよく膨れ上がる様にしてセルリアンの胴体が膨らみ上がりそのまま細かな破片をまき散らす様にはじけ飛ぶ。


弾け飛んだ箇所はボロボロに削れ、中に鈍い光を放つ石が見えた。


「ヒグマさんっ!!」


「おうよ!!」


ヒグマがドスの効いた声で叫び、血管が浮き出る程に拳に力を込めると疾走の勢いを乗せてそのままセルリアンにぶつけた。

横殴りにされたセルリアンの巨体が数メートル向こうへと吹き飛ぶ。

何本もの木々をへし折りながら、崩れ落ちたセルリアンだったが、それでもまだ立ち上がろうと足をバタバタと動かしていた。


「捕まえた・・・!!」


ドンっとヒグマが倒れたセルリアンの上に着地する。


「お前でかいな・・・何人食った・・・?」


柄の部分を両手で持ち、まるで地面に剣でも突き刺すような形で熊手の爪先部分をセルリアンの露出した石部分に突き立てる。


「今お前達にかまってる時間は無いんだよ、消えてろ・・・!!」


ぐぐっと押し込むようにして石の中心まで熊手を押し込むと、パキパキと石が割れる音がしてからセルリアンの体全体が派手な音を立てて砕け散った。


「おっとと・・・と、サンキュ」


飛びのいたヒグマをキンシコウが受け止めた。


「お疲れさまでした」


「おう、キンシコウも」


お互いに拳をコツンとぶつけ合う。


「大型の個体ばかりで大変ですね・・・」


「ちっこいのが沢山出てくるよりは大物狩りの方が性に合ってるさ、ていうか地震の日から小さいのはしばらく見てないだろ。・・・ぷはーっ」


言いながら、ヒグマが腰にぶら下げていた小さな瓶の中身を一気に煽る。

ヒグマの物言いに、せっかく労ったのに・・・とキンシコウがやれやれと肩をすくめた。


「さて、大分遠くに来てしまいましたね、留守番を頼んだリカオンは平気でしょうか」


「あいつなら多分平気だろ、・・・だけどさっさと戻るぞ」


「ええ・・・」


スタスタと歩き出すヒグマの後をキンシコウが追った。

二人は来た道を歩きながら、倒れた木々や滅茶苦茶に削れた地面を見て、少しだけ表情に影を落とすのだった・・・。

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