ボク達の日


「おー!」


嬉しくてつい、大きな声をあげてしまった。

ボクが少し恥ずかしくなったのを察したのか、後ろでツチノコがニヤニヤと笑う。


「はしゃいでんなぁ」


「・・・ふーんだ、そんなこと言っていいんですかあ」


「んだよ、もったいぶるなよ」


手のひらに乗せたジャパリコインをツチノコに見せる。


「ふふん、また一枚発見です。」


これでまたツチノコの命の時間が伸ばせる。


「つってもコインだけじゃその内ムリが来るだろ」


「大丈夫です、パークがある程度落ちつくまででいいんです。それまでツチノコがみんなの中にいてくれれば・・・」


後は、今まで以上に人目につかない生活をすることになった。それだけでいい

なんなら命の証をコイン以外の違うものに変えてしまってもいいかもしれない。


ツチノコの命を、悲しみの対象になんてさせない。

だって・・・いなくなって、悲しんだら・・・それに慣れていくから。


いずれ、みんなはかばんの死に慣れていく。

あのお墓に立ち寄る人も、その供え物も、そしてそこにいた当の本人も、やがては無くて当たり前のものになっていくのだろう。


・・・・・・・ボクがさせない。


みんなの中のツチノコとの思い出を、命を。

これまでもこれからも、ずっと楽しいもののままにするんだ。


それは一生無くならないもの。

それはどこにもいかないもの。

だからそれは永遠のもの。


ボクの、永遠の友達。


「オレは死んで悲しんでもらうこともできねーわけだ」


「はい。生きていますから」


「・・・なぁスナネコ、それは・・・お前自身の未来に繋がるのか?」


「そんなのわかりません。ボクはもう始めたことを精一杯やるしかないんです。それが・・・あの日に、ボクがツチノコを助けられなかったことへの罰ですから」


「オレが・・・望んでないとしてもか?」


「じゃあ望んでください、ボクと生きることを」


「ま、お前無しじゃオレはどこにも行けないし、生きてもいけないわけだがな」


「・・・・・・ここから出してあげられなくてごめんなさい、でも何か方法を考えます」


ツチノコがここを出る為には、ボクのいないところにツチノコが存在しなければいけない。

つまり、ボク以外の存在がツチノコを認めないといけない。


それは・・・ボクと同じウソつきになってもらうということ。


一瞬だけサーバルの顔が浮かぶ。

・・・似ているかもしれないがダメだ。

そもそもウソをついてくれる子じゃないし、そんな状態じゃない。


博士、助手・・・?

いやダメだ、あの二人は大地震の日からパークのみんなの為に飛び回ってるらしい。

・・・こんな形で悲しみを背負わせたくないし、今のタイミングだけは絶対にダメだ。


「・・・意味の無い考え事はやめろ」


「ボクが考えてることがわかるんですか?」


「全部そのままわかって当たり前だろ」


「・・・それもそうですね」


少なくとも、今すぐ考えなきゃいけないことじゃない。

とりあえずは当面の為にもコインを多く探すこと、それに集中しよう・・・。


「ちょっと寝ます、疲れました」


目を閉じると、疲れた体はすぐに心地いい浮遊感に包まれた。



起きたら、もう一度これからの事を考えよう――

ツチノコをみんなの中から消さない為に、ボクに何ができるのかを。





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