友達の日
最初は、どんどんどん、と地面が叩かれるような感覚だった。
数秒間の間にそれを何度か繰り返し、頭が危険への対処へ切り替わる前にいきなり体が宙に浮く。
おっ、と無意識に声が漏れた時には上下がひっくり返っていた。
次に、頭を強くどこかにぶつけた衝撃が走り、痛みと混乱でまず目を開けることができなかった。
砂山の上にぼーっと座っていたので、バランスを崩して転がり落ち石に頭をぶつけたのだと理解するまでに少し時間がかかった。
頭が追いついてきても、体が動かない。
いや・・・地面をどんどんと叩く衝撃が強すぎて動くことができない。
地震は何度か経験したことはあった。
地面が揺れる、寝ていたり立っていたりするとぐらぐらと揺さぶられるあの不思議な感覚。
だから、地面から叩きあげられるようなこの現状が、自分が知っている地震と結びつかない。
「うわあぁあーーっ!!」
何が何だかわからず声をあげた。
両手で頭を抑えて丸まり、ひたすらに叫ぶ。
「いやだいやだいやだ・・・っ!!」
ここは自分の家。
自分が一番落ちつけるはずの場所にいるはずなのに、・・・自分が家の中のどこにいるのかがわからない。
目を開けることもできないまま、長い長い時間をスナネコは耐え続けた。
いやだいやだ、という本能的な拒否の叫びを続けたが、それすらも地面を叩く音が描き決してしまった。
後になってわかるが、強い揺れ自体は十秒程のことだったらしい。
「いやだいやだいやだ・・・いやだいやだ・・・・・・、・・・っ?」
スナネコは自分の声がハッキリと聞こえることに気づいて、ようやく動けるようになったことを実感する。
地面を叩くような音が消えて、・・目を閉じていれば、いつもの昼下がり。
ただ、目の前の光景に絶句する。
テーブル代わりに使っていた平たい石が、壁の隅っこに転がっている。
あの石は重くて、ツチノコに手伝ってもらってそれでも動かすのに苦労したのに。
そしてジャパりまんを埋めて保管しておいた場所が「無くなっている」。
洞窟の上部が少し崩落したようで、まるで元からそういう形の石が積み上がっていたのかと思ってしまうくらいに、綺麗に埋まってしまっていた。
そこにいなくてよかった、と実感すると冷や汗が垂れる。
セルリアンに食べられるのも怖いけれど、重い物に潰されて死んでしまう方がもっと怖い。
「・・・痛い」
ぶつけた頭を撫でると手に生温かい感触があった。
結構派手にぶつけたらしく、髪の隙間から少し血がにじんでいた。
「ど、どうしましょうか・・・」
現状に全然思考がおいついていかない。
ええと、こういう時は・・・とりあえず。
もう一度、テーブル石が目に入った所ではっと気づく。
「ツチノコはっ・・・?」
ツチノコは少し前に遺跡の方へ向かったはずだ。
最近よく一緒に遺跡を探検するのだが、今日は眠くて動きたくなかったので、お昼寝していますと言って見送って・・・
外の様子も気になったが、まずはツチノコだ。
スナネコは頭の痛みを忘れて、奥の穴へと駆けだした。
――――――――
見つけるのは想像していたより簡単だった。
崩れた遺跡の瓦礫の下にツチノコはいた。
「よ・・・ぉ、無事だったか・・・よかった」
か細い声でツチノコが言う。
ツチノコはお腹から下が完全に土や瓦礫に埋まってしまい身動きがとれない状態だった。
「今助けます」
とりあえず、手で持てそうなサイズの瓦礫を横によけていく。
「すまねえな・・・世話、かけた」
口の中を噛んだのか、ツチノコの口元には血がにじんでいた。
「喋らない方がいいです、じっとしててっ」
その口元から零れる血が、噛んでの血ならいい。
そうじゃなかったら・・・喋ることすら命を縮めてしまいかねない。
木の破片や小さな石は何とかなる。
瓦礫さえ避けられればツチノコの上の土や砂も、なんとかなる。
だって私は掘るのが得意なスナネコだから。そう自分に言い聞かせてスナネコが瓦礫をよけていくが・・・
「これは・・・」
大きな瓦礫がいくつか複雑に絡みあって重なっていた。
ごくり、と唾を飲み込んで体に力を集中させる。
さっきぶつけた所からじくじくと血が染み出るのを感じたが、今はそんなの気にしている場合じゃない。
――野生解放。
怪我で消耗したサンドスターで何とかなるかわからない。
でも今ここで何かできるのは自分しかいない。
「ふっ・・・んぐぐぐぐぐ・・・」
大きな瓦礫に手をかけ、スペースがある方へ倒そうと力を込める。
そちら側に倒れてくれれば、絡みあった瓦礫もどかせそうに思えた。
「なぁ・・・スナ・・・ネコ、オレさ」
「必ず助けます、喋らないで」
「ずっと・・・一人、だったけど・・・、アイツらが来てから・・・」
「ツチノコっ、喋っちゃだめです!お話は後で聞きますから!」
もうひと踏ん張り、と力を込めた瞬間、もう一度地面から衝撃が走り、バランスを崩したスナネコが後ろに倒れる。
どん!どん!と同じように大きく揺れたが、それは最初の数回だけでその後は横に揺さぶられるいつもの地震のようになった。
足が動かせることに気づいたスナネコが、慌ててツチノコに駆け寄り彼女の頭の上に覆いかぶさるようにしてうずくまる。
先程の様な衝撃ではなくとも、平時の地震よりは遥かに強く長い。
――しばらくして揺れが収まってから、恐怖で荒れた呼吸を整える。
目を開けると、周りが少しだけ明るくなっていた。
天井が崩れ、そこから地下に光が差し込んでいる。
それはまるで二人にだけ当てられたスポットライトのようだった。
「揺れが収まりましたね、・・・もう少しだけ、待っててください」
再び立ち上がり、瓦礫に手をかける。
揺れている間も野生解放したままだったので、体の消耗が酷いのを感じる。
「んん、んんんん!!」
少しずつ、本当に少しずつだが瓦礫が横へズレていく。
「もう少しです、もう少しだけ頑張って、ツチノコ」
汗と、血と、噛みしめ過ぎて口元から涎も零して、それでもスナネコは力いっぱいに瓦礫を横へ押し倒していく。
「・・・・・・・、すな、ねこ」
「はい、ここにいます。大丈夫ですから」
「・・・、オレよ・・・おまえと、あえて・・・」
その続きを言わせない為にもスナネコが大きく声をあげて、全身を瓦礫にぶつけた。
「うあぁあああああーーーっ!!」
そこでスナネコの意識はぷっつりと途切れてしまった。
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