第三章

呪いの日


「ただいま戻りましたよー」


ここは、ボクのおうち。

今はボクとツチノコと二人で暮らすおうち。


大分前に、散歩していたらたまたま見つけた小さな洞窟。


「おー、遅かったな」


椅子代わりにしている丸い石の上にツチノコが座ったままボクを迎えてくれた。


「ちゃんと行ってきましたよ、かばんのお墓」


「そうか、疲れたろ」


「そうですね、ずっと歩きっぱなしでしたし。これお土産です」


帰り道にもう一度ボスと出会って、もらった二つのジャパリまんをポケットから取り出して、ツチノコの隣のもう一つの丸い石にボクも座る。


ツチノコの白くて細い足を見ると、足首にはじゃらじゃらと重たそうな鎖が巻きつけられそれが椅子代わりの石にしっかりと絡みついていた、ツチノコがどこへも行けないようになっている。


「一緒に食べましょ?」


「いや、オレはいいよ。腹減るもんでもねーしな」


「ですね」


残念だけど、こればっかりは仕方ない。


「はむはむ」


たくさん歩いて疲れたから、今日は二つくらいならペロリといける。

・・・元々そのつもりでもらった二つだし。


そんなボクをツチノコがじっと見つめていた。

・・・太るぞ、とか言わないで欲しいので目で訴えてやる、ヘンなこと言ったらひっかきますよ、と。


「サーバルはどうだった」


「前と変わりませんでしたよ。あの子が死んだことを受け入れられないままみたいです」


「なんだ、じゃあお前と一緒か」


ツチノコがバカにするように笑う。

そんな言い方しないで欲しいのに。


「違います、ボクは受け入れてますから」


そう、ボクはサーバルのように自らの心を歪めてしまったわけじゃない。


ツチノコの足を縛っていた鎖が、いつの間にか細く柔らかい糸に形を変えていた。

それはさっきまでの石ではなく、ボクの尻尾と結ばれている。


これはボクの呪いの証。


ボクが、友達をここに縛りつけてしまった呪いの形。


「・・・そうだったな」


「はい、そうなんです」


おなかいっぱいになってから、少し休んで・・・奥が崩れてしまった洞窟の瓦礫をどけては掘って、また瓦礫がでてきてはどけて・・・掘って、それを繰り返す。


「もうそろそろ、コインの残りが大分少ないんですよ」


「そりゃ大変だ」


「何を他人事みたいに言ってるんですか、これが無いとツチノコが消えてしまうんですよ」


「・・・そうだな」


「安心してください、ボクがツチノコをみんなの中から消させません。ボク達はずっとずっとここで生きるんです」


そう、今日会ったジャガーもカワウソもトキも・・・決して疑ったりしない。


だって、あの日脚を怪我したツチノコは動けないから。

だからツチノコが大事にしてるコインを、ボクが代わりにお供えとして持っていく。

ツチノコにそうしてくれと言われたから。


そんなツチノコが今も、今日会った三人の中で生きている。



生きてる。


ここにいる。


「一生ここで隠れて生きていくのは厳しいんだけどな」


「ツチノコって元々珍しいけものだったそうじゃないですか、ヒトの前には絶対出てこないような。変わりませんよ」


「いやいやそれがよ、昔はこう・・・たまーにヒトを脅かしてやったりしたんだぞ?珍しいオレの姿を見るとみんな驚いて・・・」


「へえ、それはすごいですね・・・あっ」


土の中で爪の先が固い何かに当たる。


「・・・なんだ」


期待して慎重に掘り起こしてみたのに、出てきたのはただの石。


「コインかと思ったのに、残念」


「ま、程々にしとけ。そんな簡単に出てくるもんならオレが見つけてたはずだって」


「・・・まあ、しばらくは誰かと会うことも無いでしょうし」


瓦礫を掘るのをやめる。


「あー・・・疲れました!」


わざと大きな声で言って目を閉じる。

だって、これは話しかけてるのだから。



例えツチノコがどこにも行けなくても、どこにもいなくなってしまうよりはいい。


ボクの大切な友達が、どこにもいなくなってしまうなんて。

ツチノコの存在はもうボクにかかっている。

ボクの呪いがどこまで届くのか、もうそれだけだ。


ボクはサーバルとは違う。

壊れたりしない。


いつまでだってみんなの中にツチノコを生かしてみせる。



この呪いだけは、絶対に飽きなんてこない――――


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