墓前


サーバルとかばんの家の裏手を少し歩くと、小さな花畑があった。


その花畑の真ん中に、小さく盛られた土の山がある。

土の山には花で飾られた木の棒が立てられていた。


周りには綺麗に石が並べられ、色とりどりの花。

そしてここを訪れたであろう者達が置いていった様々な品が添えられていた。


これは、――――墓。

命を失った者が眠る場所、もう存在しない者が、確かに存在したことを生き残った者達が確かめ合う為の場所。


「来るのが遅れてごめんね。これ・・・ハンター一同から。」


リカオンが少し大きめの花束を墓に供える。


「ヒグマさんもキンシコウさんももう忙しくて手一杯でね、なかなか手が空かなくて」


人は墓に言葉をかける。それは死を受け入れる為に。

生前かけられなかった言葉を。もっと沢山話しておけばよかったという悔やみを、後悔を、呪いに変えてしまわない為に。

元が動物だとしても、人の形と言葉を手に入れたフレンズ達もそれは同じだった。


いや、もしかしたら、彼女達が動物だった頃にも死者を悼む思いはあったのかもしれない。


「ようやく私だけ手が空いたから、今日来れたんだ。だから聞いてほしいことが沢山あってさ・・・瓦礫の掃除中にヒグマさんが」


リカオンは話し続けた。

生き残った者がこれから先を後悔せずに生きていく為に。


墓参りは、命への宣誓と懺悔。


「・・・・・そろそろ行くよ。ゆっくり休んでね・・・かばん。また来るから」


墓に添えられた茶葉や小さなコイン、キラキラした石やどこかで見た何かのカケラのような物達を見てリカオンがふっと微笑む。


ここには沢山の人が来てくれるのだ。

それは、逝ってしまった者ではなく、ここにいる生者を何よりも安心させた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る