28.「何でそんな『計画的な』ことが何年も起こっている?」

「まず何で日名が殺されたか」


 高村は首を横に振った。


「これはさっぱり判らない。君には判るか?」

「いいえ」


 山東も同じ様に首を横に振る。


「ただ、週末、大学の友人達に聞いてみたんですよ。ざっと二十人位」

「すごいな」

「と言っても、クラスメート、ですがね」


 日名や遠野の様な親しい友人ではないのだ、と彼は暗に含めていた。


「やっぱり何処の学校でも、一年に一人は、何処かの学年で、『転校』する奴が居たそうです。それはまあ良くあることだ、と皆そう気にはしなかったんですが、ただ」

「ただ?」


 ぐい、と高村は身を乗り出した。


「目立つ奴だった、ということです」

「目立つ奴? 君みたいな?」

「と言うか…… 何って言うんでしょうね……」


 山東は言葉を探す。高村は何かヒントになる言葉は無いか、とまた言葉を探す。


「例えばさ、遠野さんは『スタア』で『ファン』が多かったじゃない。そういう感じ?」

「そうですね…… うん、多少それもある。ただ、それだけじゃないんですけど」

「と言うと?」


 高村は眉を寄せた。


「日名は遠野程には人気は無いです。まあ、男にはもてましたがね。ただ、あいつがクラスで何かやらかすと、同じことがぱーっ、と広まるんだ、と自慢…… してましたね」

「ファッション・リーダー」

「あ、それです。そういう感じ」


 そういうものなのか? と自分が口にしたに関わらず、高村はやや首を傾げた。


「ファッション、じゃないかもしれないけれど、クラスや部活の、何かそういった、良くも悪くも、そういう流行りを作り出してしまう奴…… だったそうですよ。その『転校』した奴と直接知り合いだった奴に聞くと」


 何か呑みますか、と山東は言った。さすがに喉が乾き掛けてきたのだ。お茶がいいな、と高村は答えた。ふとその時、彼は森岡のことを思い出した。


「そう言えば、森岡先生と島村先生、って、同じ趣味持ってるんだなあ」

「同じ趣味?」

「折り紙」

「ああ、折り紙ですか」

「知ってた?」


 はい、とコーヒーカップに緑茶を入れて渡しながら、山東はうなづく。


「そうですね…… 森岡さんの折り紙好きは有名ですから。で、それにあの珍しいもの好きの島村さんが」

「面白い、と」


 ずず、と高村は茶をすすり、なるほどね、とつぶやいた。


「それでですね、高村さん」


 再び座った山東は、ぐい、と身を乗り出した。


「その『転校』した奴の傾向が『ファッション・リーダー』だとすると、遠野はそれには当たらないんですよ」

「当たらない? でもファンは多いじゃないか。実際ボイコットする連中も」

「でもファン、って言うのは、所詮ファンですよ。それを好きな自分、って奴は忘れていません」


 そう言えば、と高村は元部の態度を思い出す。遠くから見ているだけの「ファン道」もあると言った。


「だけどファッション・リーダーの場合、その人物を好きである必要はないんです」


 そのあたりが日名と遠野の違いなのかもしれない、と山東は表現した。


「『転校』―――つまり、その場所から移動させられているのは、そのファッション・リーダー的な生徒です。だとしたら、遠野の『転校』は、もしかして、他のそれとは違うんじゃないでしょうか?」

「違う?」


 と言うと? と高村は切り返した。


「例えば、口封じ」


 さらり、と山東は言った。


「口封じ」

「ええ。『いつものこと』で終わらせようとしたのに、遠野が騒ぎ立てて、『いつものこと』にならなくなってしまった。俺達の関係を甘く見ていた向こうの『失敗』じゃないですか? これは」


 うーん、と高村は腕を組んだ。


「遠野は『予定』に入っていなかった。だから、あいつのご両親は、学校に押し掛けてくるだけの時間があった。そう考えると、結構つじつまが合いませんか?」

「……かも、しれない。……ただ」

「ただ?」

「どうして、だろう?」


 その言葉を、高村は吐き出した。


「誰が、だ? 何でそんな『計画的な』ことがあちこちで、何年も、起こっている? どうしてだ?」


 山東は首を振り、真っ直ぐ高村を見据えた。


「高村さん、今はそれを考えては動けませんよ。その理由は、俺達が無い頭を絞って考えるより、相手に直接聞いた方が早い、と思いませんか?」

「相手に」

「おそらく、次の標的は、俺です」


 おい、と高村は腰を浮かせた。だが淡々と、山東は続けた。


「それに、俺の場合、家族は遠方に居る。その位、きっと『向こう』は知っているでしょう。だったら、もう後は俺一人消せば、今回の件で騒ぎ立てる奴も居なくなるだろう、と思うんじゃないですか?」

「だけど生徒達は」

「『ファン』は、結局、自分のために相手を好きなだけですよ。泣いて、騒いで、それで終わりです。それでいい。だけど」


 自分達は、そういう関係では無かったのだ、と山東は暗に含める。


「だから、こっちから仕掛けてみるつもりです」

「危険だ」


 即座に高村は言った。


「承知です」


 何を言われても。どう説得されても自分はてこでも動かない。そんな気迫が、山東の静かな口調からは、感じられた。


「OK。じゃあオレも何も言わない。オレは、何を手伝える?」

「いいんですか?」

「オレの問題でもある、ってさっき言ったろう?」


 そうですね、と山東は笑った。共闘ですから、と。


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