第16話 洞窟にて

 ナッシュが山間部に潜む、山賊を打倒したという噂がライズ・ウォーランド国内に知れ渡る頃。勇者アオイ一行は国内の隠された洞窟にやってきていた。目的は先代勇者が使用していた武具の回収である。 

 洞窟の内部はに、様々な罠や足止めなどの妨害が待ち伏せていた。


 その多くは、力を持たない者や武具を邪なことに使用しようとする者を遠ざけることが目的だが。現勇者であるアオイの訪れで予め仕掛けれれている罠は解除されていた。

 アオイたちを妨害しているのは、異族の悪魔の少年マドカのものだった。マドカは異族の国のベリウッドから勇者アオイ一行の武具集めを再三妨害、足止めをしてきていた。

 勇者一行は大人数になっているが故に単体で行動しているマドカが先回りをすることは容易かった。罠を仕掛け、警戒させて進行を遅らせていた。


 現在アオイ達が進行している洞窟内にも、マドカが神加護≪血の支配≫によって仕掛けられて罠が数多く散りばめられている。一行は勇者アオイを先頭に仕掛けられた罠を魔術障壁や物理障壁の防御で掻い潜りながら進んでいる。

 先頭のアオイから一歩後方には神加護≪炎姫≫を授かるライズ・ウォーランド国第三王女のアリヤが付いていた。


「アオイ殿。やはりここの洞窟にも例の罠が多く仕掛けられていますね。」


 先頭を行くアオイにアリヤが声をかける。


「うん。でもまぁ。これくらいならおれの魔術障壁でどうにかなるかな。」


「おぉ!さすがの強固さです。いつ見ても頼りになりますね!」


「いやー。そんなそんな…」


 このような調子で洞窟内を進んでいくアオイとアリヤをさらに後方からため息交じりで見つめる者が4人。

 先日、山賊出現の報告を受けて、見事に討伐したアリヤの付きビトで王都守護隊副隊長のナッシュ。

 その横に、まだ10代前半程度に見える暗く多数の罠が仕掛けられている洞窟には不釣合いの女の子、≪氷神≫のヨウセイ。

 女の子の2倍は大きいであろう大男、大槌を背負い糸目で筋肉質の肉体が服の隙間から見て取れる。獅子卿と呼ばれている神加護≪獣化≫のミルガス。

 ミルガスの横、ナッシュより少し後方に豊満な体を揺らす美女。≪死人渡し≫のイルマの4人である。

 

 勇者アオイとアリヤのやり取りを見ながら再度ため息をつくナッシュの横からヨウセイが冷静に声をかける。

 

「気苦労するね」


「ヨウセイさん…そうですねぇ。勇者殿の防御力は目を見張るものがありますが、どうも一番重要人物の彼があれだけ前に出るというのも…些か危険な行為かと。ただ、…」


 ナッシュが言葉を続けようとしたところを後ろにいるミルガスが被せて言葉を発してきた。


 「アオイが先頭を歩くのが一番効率がいいもんな」


 「獅子卿あなたもそう思いますよね。」


 三人のやり取りを後ろから聞いていたイルマがあらぁ?と声を上げる。


 「ヨウセイちゃんが言いたいのはそういう事じゃないわよねぇ」


 「?どういうことですか?」


 ヨウセイにナッシュが問いかけるが、問いかけられたヨウセイはアオイとアリヤが歩く正面を見ながら答えた。


 「…いや、君が気づいていないなら、というか気づきたくないみたいだしいい。」


 「??」


 「ヨウセイちゃんはナッシュ君より少し大人ってことよ」


 余計にわからないとナッシュは首をかしげている。後ろで聞いていたミルガスも同じようなポーズをとっている。


 先頭の二人が洞窟の曲がり角を曲がろうとした瞬間、赤色の槍が天井から二人めがけて降り注いだ。

 驚いたナッシュがアリヤの名を叫んで前方へ駆け出す。土煙が立ち込めていたが、中から勇者アオイとアリヤが無傷のまま姿を現す。

 ナッシュがホッとした表情を浮かべて駆け寄る。


 「アリヤ様!お怪我は?」


 「うむ!ナッシュ。全然問題ないぞ。さすがはアオイ殿の魔術障壁だ。」


 アリヤはすぐにアオイに向き直った。


 ナッシュに遅れて後方の3人もナッシュに追い付く。再度歩を進めるアオイとアリヤの背中を心配そうに見つめるナッシュに、再度ヨウセイが声をかける。


 「…気苦労が続くね」


 「ヨウセイさん…、そうですね。全く。」


 ナッシュの内心をよそ眼にすたすたと先を急ぐアリヤが振り向いて手を振る。


 「皆遅いぞ。早くこの洞窟も攻略してしまおう。先頭はアオイ殿が任されてくれているぞ。安心してついて行こう。」


 そう言い終わると、アリヤはアオイの背中に着かず離れずの位置にそそくさと着いていく。


 アオイとアリヤ、二人の背中を交互に見て、ナッシュは本日何回目かわからないため息をついた。


 「言葉を変えるよ、…気苦労が絶えないね」


 「…ヨウセイさんから危ないから後ろに下がれって言ってくれません?」


 「ボクは巻き込まれたくない」


 ヨウセイは冷たくあしらった。




 

 

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