第10話 村にて
ライズ・ウォーランド王国・王都ウォーランドから西の国境では、戦時中ではないものの、日ごろからヒト族と異族との間で小競り合いが繰り返されていた。
その国境近くに位置するの村【カリフ村】。小さな村でありながら、国境と王都を結ぶように位置することから、国の軍隊や商人の通り道となっている村である。
村では、ヒト・鳥族・猫族・犬族・人魚族など、ヒト族の中でも多彩な種族の住人が行き来している。
村の中央から少し外れた通りをある人物が足早に歩いている。上半身前かがみに、腕には本日の夕食であろう食材を入れた籠を抱えている。足早に歩いているから前かがみになっているのではない、もともと猫背なのだ。
道を行き来する中で、その人物はすれ違う人々の世間話に耳を傾ける。大通りに沿った道を歩くと大通りからの声がよく聞こえる。この情報収集はこの人物の日課である。他人と軽く世間話をして、世情を把握することなぞ、そんな器用な事は出来ないと思っているからである。人間関係を広く保つことに価値を見出しておらず、友人も少ない。
「最近国境あたりが騒がしいよな?」
大通りからの声を聴く。
「なんだい?お前しらねぇのか?西の国境を守ってた獅子卿ミルガスが王都に召集されたから、異族の連中が調子に乗ってるって話さ」
「ああ、勇者のパーティに入るとかなんとか?これで、異族の連中追っ払ってくれれば文句はないんだけどな」
「その辺はやってくれそうだぞ?なんでも、守護隊のナッシュと戦って完封したとかなんとか…」
「そうなのか!?あの副隊長は神加護持ちだろう?」
「なんでも、勇者の方も神加護を貰ってて、それがめちゃんこ強いらしいぞ?」
「期待できるなぁ。早いところ異族の奴らをやってもらいたいな」
「すぐには難しいんじゃないか?勇者一行は、前の勇者の武具?なんかを回収する旅に出たとか。」
「そうなのか…。早く来てくれるといいな」
そんな話を聞きながら、人物は帰路を急ぐ。大通りの人々の声は人物には聞こえない。人物の背中を見ながら先ほど話していた大通りの商人がこそっと話す。
「なあ、あいつ。」
「あー。あいつな。村に一人だけの、薬師だぞ?」
「そういう事じゃなくて、よく見かけるんだけど、村のヒトと話してるところ見たこと無いんだが」
「まあ、そういうヤツなんだよ。腕は確かなんだがな。神加護ももらってるし」
「ええ!?じゃああいつも戦えるのか?」
「んー。戦う力はないみたいだけど…。薬の調合で魔術を使ってるらしいぞ。」
「そうだったのか。」
「そのうち、お前の所にも薬草調達の依頼が来るさ。その時に話せよ。」
「まあ、それもそうか。」
そういって、商人の男は背中の翼を広げる。鳥族の商人だった男は別れを告げて飛び去った。
大通りから外れた平屋に先ほどの猫背の男が入る。手の荷物を机の上に置き、あたりを見渡す。そこに、居るはずのヒトが見当たらない。
「…?リリ?」
人族の男エル。村で唯一の薬師である。その愛娘リリの姿が見えない。寝室、書斎、台所を探すが、居ない。
「…」
エルの思いつく限り家の中をここまで探して居ないとなると、あそこしかない。
エルは、仕事場である診察室に入る。診察室といっても、病人の話を聞いて薬を渡す事しかしていないが、エル自身と愛娘のリリの二人を養っていくには問題ない収入が手に入る仕事だ。
エルは診察室の机の下、少し大きな籠の中をのぞく。その中にリリの寝姿を見つけた。生まれて10年にも満たない少女が入るくらいの大きさの籠の中に、全く使用しない白い包帯に包まれたリリを見つめる。
「…リリ。またかい?」
エルは、寝ているリリに声をかける。エルの声に反応して、リリが目を覚ます。目を開けて、ゆったりと体を起こす。
「んん、ああ、パパ?…。」
「リリ、またこれにくるまっていたのかい?」
エルはリリの頭にかかった包帯をどかしながらやさしく話しかける。
「うーん。これね。あったかいよ?」
そうか。とエルはつぶやく。『あたたかい』か、最後にリリを抱きしめたのはいつだろうと加えて考えた。
リリは母親の暖かさを知らない。リリを生む前に体調を崩し、男のエルには想像もつかないほどの体力を消耗する出産の末、リリの母親は命を落とした。
リリが白い包帯に包まれて眠るのを好むのは母親の暖かさを求めているのかもしれないとエルは考えていた。父親であるエルは、白い布が与える暖かさ以上の安らぎを愛娘に分け与えることが出来ないと悟り、娘を抱きしめることは格段に減ってしまった。
「パパは今日、お仕事おしまい?」
籠の中からリリが語り掛ける。
「いいや、今は薬の配達が終わって一旦帰ってきただけだよ。また、出かける。」
この村は国境近くということもあり、稀に秘密裏に国境を越えてきた異族と戦闘になることがある。そうなると重症のケガ人も出てきてしまうため、出張で薬を届けるのだ。配達の鳥族が来ることもあるが、ヒト付き合いが苦手なエルは自分の足で届けることが多い。今日もその配達が終わって一時的に帰宅しただけだ。これから、村近くの山に行き、薬の原料になる薬草を採取しなければならない。
「・・・・・・」
エルが言い終わってもリリは黙ったまま俯いている。
「?リリ?どうかした?」
そう問われて、リリはゆっくり顔を上げた。
「ううん。パパお仕事頑張ってね。」
どこか寂しそうに笑う娘を見て、エルは何とも言えない気持ちになった。家に居てほしかったのか?いやでも、毎日のように薬草の採取や薬の配達で家を留守にすることが多かったから、家に一人で居ることは慣れてるだろう。
「ああ。…それと、包帯は片づけておきなさい。」
「ええー。これあったかいのに…」
エルが振り返る背中にリリが口を尖らせてつぶやく。
「それは本当はケガをしたヒトが付ける物だからね。」
「はぁい。…いってらっしゃい。」
『ああ』と告げて、自宅を後にする。
自宅から大通りの横の道を通り抜けて村の出入り口を目指す。そこから見渡しのいい草原を抜けると山の入り口が見えてくる。暫く上ったところに村が上から見下ろせる開けた場所に出る。そこまで出れば薬草の取れる場所はすぐそこだ。
薬草を取り袋に詰めていく。この薬草を石ですり潰して液状にしていく。そこに、エルの神加護である≪調合≫の魔術をかける。そうすると、薬草の種類とかける魔術の調整によって、飲み薬・塗り薬と自由に調合することができる。
戦闘には役立たないが、今では娘と2人で生きていく上で欠かせないスキルになっていた。
エルはリリの将来について一人考える。母親の居ない娘が健全に大人になっていくためには父親である自分に何ができるのか?答えは見つからないまま、長い時が過ぎていた。
「・・・・」
しばらく、薬草を取っているうちにあたりが暗くなってきた。考え事をしながらの作業は時間の流れを早める。
もと来た道を戻っていくと、村を一望できる広場に近づく。
しかし、開けた場所に近づくにつれて、段々と明かりが見えてくるようになった。村の明かりにしては強すぎる。振り返っても太陽は見えず、黄昏も終わりに近い。
明るすぎる。エルは村の方角から見える明かりを確かめようと広場に出る。
明かりの正体はすぐに判明する。火だ。
村が燃えている。家々に火が燃え移りその火がエルの居る広場まで光を届けていた。
「!!」
すぐに、エルは走り出す。山を下り、草原に出る。草原には、エルが山に登るときには見られなかった様々な足跡が草原の草を踏み倒した跡が無数に広がっていた。エルは、西の国境が騒がしいという話を思い出して心臓が高なる。
村の入り口にたどり着くころには、村ヒトの悲鳴や叫びも聞こえてきていた。いや、それに交じって怒号や罵声も耳に届く。鉄と鉄が打たれ、擦れるような音もだ。
「や、やめてくれ!!」「いや!あんた!あんたぁ…」「ぐぉお、だ、だれか」
「戦える奴は応戦してくれ!」「だめだ…このままじゃ殺される。」
「あははは!殺せ殺せ」「奪えるものは奪っていけ!」「邪魔する奴は殺せ!」
赤く燃える火の中に、より一層赤を強調させる、ヒトの血液の色。熱を帯びた家々からは物が倒れる音、ヒトの断末魔が飛び交っていた。
エルは大通りを少し外れた道を駆け抜ける。途中で助けを求める声を聴いたが、かまっていられない。家には10歳にもなっていない娘が一人。
(どこかに隠れていてくれれば)
「おおっと、おめー。止まりな。」
大通りから斧を掲げた大男がエルをにらみつける。
「ヒト…族」
異族の仕業と焦っていたが、この地獄を作り出していたのは自分と同じヒト族だった。大男の斧は人の血液だろうか、赤い液体がしたたり落ちている。
「死ねや」
大男は斧を振りかぶって突進してくる。エルは咄嗟に薬草を入れた袋に調合の魔術を流し込んで大男に投げつける。
「ああ!?」
大男はエルの投げつけた袋を一刀両断する。と、同時に袋から眩い光が漏れ出した。
エルの神加護≪調合≫は、物質に魔術を送り込んでその性質に類したものに作り替える。調合途中で別の刺激が加わると突然変異を起こして、魔術があたりに拡散する。
つまり、爆発する。
「-っな!」
大男が声を発すると同時に、魔術が炸裂する。ヒトを殺めるほどの威力はないが、目くらましと脅かし程度には使える。事実、エルも何度か体験しているが、少し痛い程度だ。
大男が爆発の光に包まれている隙にエルは駆け出して小道を抜ける。自宅が見えてきた。火の手はまだまわっていないが、扉や窓は無残にも叩き壊されていた。
「・・・・リリ?」
エルは恐る恐る、娘の名前を呼ぶ。まだ、あの大男のような悪漢が潜んでいたらひとたまりもないない。
家の中をゆっくりと見回る、どうやらヤツらはいないようだ。家財や金目の物は根こそぎ持っていかれたようだ。
あらかた家の中を見回ったがリリの姿が見えない。まだ見ていないのは
「診察室・・」
エルが家を後にする前にリリと最後にあった場所だ。まだ、あの籠の中に隠れていてくれれば希望はある。悪漢共はリリに気が付かず去ったかもしれない。
「・・・リリ?いるかい?」
ゆっくりと診察室に踏み込む、心臓の音が耳に届くほど高鳴っている。
「・・ん。・・・パパ?」
小さく本当に小さくリリの声がエルの耳に届いた。よかった居てくれた。エルはそう思って安堵する。
「ああ、リリ。居てくれたか。」
リリは案の定診察室の机の下の籠の中で小さくなっていた。あの包帯たちに包まっている。
「・・・ん。・・・こわい人たちがね」
「ああ、わかってるよ。隠れていたんだね。」
よかった。本当に良かった。エルは愛娘に近づき籠の傍に膝をつく。
リリが上半身を持ち上げて包帯の中から顔を出す。恐怖と不安に染まっている瞳を見つめて、エルはリリを思わず抱きしめた。
(ああ、よく生きていてくれた。まだ幼い子が泣きもせずに・・・)
「・・・パパ。・・・パパはあったかいんだね。」
エルに抱かれたリリが耳元で小さくつぶやいた。
「ああ。ごめんな。怖かったよな・・・」
少し安堵したエルは少し冷静になる。娘をこのままどうやって村の外まで連れていくか。抱きかかえたまま連れていくか、走っていけるか、などと頭を回している時に、ふとリリを抱きしめている両手に違和感を感じた。
「あのね。・・・パパ、リリねとってもさむくなったの。・・・それでね」
リリが小さくつぶやく言葉を聞きながら、エルは両手をリリから離し凝視する。両手には村に入ってから嫌というほど目にしてきた赤色の液体がべっとりと付いていた。
「パパがね。・・・これは、ケガしたヒトがつけるんだよっていってたからね。・・・リリ。がんばって、つけてみたんだ。・・・・でもね」
「っ!?」
赤色の液体はリリの背中から滴り落ちているものだった。見ると、背中に大きな刀傷がリリの衣服と皮膚を切り裂いていた。
「・・・でもね・・・リリじょうずにできなくてね。・・・いたいのなくならないの。・・・いっつもこれにはいってるとあったかいんだけど・・・だんだんさむくなってね・・・ゴホッ」
語るリリの口から、血が噴き出す。
「リリ!?・・・痛い・・・よな。ごめん。ごめんな。大丈夫だから」
『大丈夫』と言ってみたものの、この傷では薬は意味を成さない。幼子の命を終わらせるには十分な傷だ。それでも、少しでも安心してくれればと、口からでたでまかせだ。いや、この状況を受け止められないエル自身が安心したかったのか。
「うん。・・・とってもいたい。・・でもごめんねパパ。」
「リリが誤ることじゃないんだ。お父さんが・・・お父さんが家にいなかったから・・・」
エルはもう一度リリを抱きしめる。
「ううん。・・・リリね。パパの子なのに・・・じょうずにできなかったの・・・これ、じょうずにできなかったんだ・・・」
リリは身に包んだ包帯を掴んだ。包帯では傷はふさがらない。が、リリはエルが言った『けがヒトにつける』という言葉を真に受けて、襲撃者から受けた傷をどうにかしようとこの籠になんとか辿り着いたのだろう。
「そんなっ・・リリ・・・」
エルは言葉が出なかった。もう何も言っても『嘘』しか言えない。そんな気がした。『大丈夫』も『治るよ』も何も言えない。それほどに混乱していた。
「リリがもっとじょうずにできたらなぁ・・・・でもね、・・・とっても・・さむ・・かったけど、・・・いまはパパ・・・・があったかいよ・・・」
「あああ。リリ。・・・リリ。」
どんどん娘の声が小さくなっていく。言葉は耳元で発せられているのに、集中して耳を傾けないと聞き取れないほどに。エルは必死に名前を呼ぶ。もう、それしか言葉が出ない。
「・・・パパ・・・あったかいよ・・・でも・・また・・・さむく・・なって・・・きて・・・・・・」
パタッと、包帯をつかむリリの手から力が抜ける。エルが抱きしめる娘の体ががくりと重くなる。
「リリ?・・・っリリ!」
エルは愛娘の名前を叫ぶ。ようやく、抱きしめることができたが、それはあまりにも遅すぎたのかもしれない。
エルはまだ、村を襲った襲撃者が暴虐の限りをしつくしていることなど気にせずに、大声で悲鳴にも怒号にもならない叫びをあげた。
まだ、年端もゆかない娘の死はあまりにも現実味がない。本当に死んだのか、悪い夢だ。そう思うが、目の前の現実は何の変化もない。目の前の光景は残酷な現実をエルに突きつける。
それからエルの記憶は曖昧だった。いつの間にか、森の中で小さく蹲っていた。リリの死後、叫び声を聞いたからか、エルの後を追いかけてきたのか、小道で襲ってきた大男が乱入し、再度襲ってきた。斧の斬撃を必死に避けつつ、身体に傷を負いながらなんとかこの森まで逃げ延びてきた。
少し落ち着いてきたが、リリの言葉が頭から離れない。何度も何度もリピートしている。膝を抱える手に何かを握っていることに気が付いたのはそんな時だ。
手を開くと、血液を吸って半分赤く染まった包帯を握りしめていた。気が付かずいつの間にか持ってきていたようだ。
エルはその包帯を再度握りこみ小さく泣いた。娘の死、守り抜くことができなかった不甲斐ない自分、生きていたころにもっと抱きしめていればという後悔、死後弔ってやれず置いて逃げてきてしまったことなど、様々な感情がこみあげてくる。
「・・・リリ・・・くそぅ・・」
エルには何もできなかった。戻って悪漢たちに立ち向かうことも、村のヒトたちを治療することからも逃げてきた。何度も自分を責め立てる。
「痛ぁ・・」
それでも、自分の身体についた傷の痛みがエルに『生』の実感を訴えてくる。この痛みの何倍もの痛さを娘が受けていたことを考えると、また落ち込んでくる。
痛みに耐えきれなくなってきた。
ゆっくりと顔を上げて、自分の身体の状態を確かめる。骨は折れていないが、切り傷や打ち身がひどい。
辺りを見渡して目につく傷用の薬草を見つけた。それをそこら辺に落ちていた石でつぶして魔力を流し込む。薄紫色に発行し塗り薬になる。それを、目につく傷に塗り込む。かなり染みる。
こんな時でも、自分の命が大事かとまた自分で自分を貶める。それでも、薬草を取って神加護を使っているときは、少し喪失の悲しみを紛らわせた。
しばらくそれを繰り返していると、エルの後方から草木を揺らす音が鳴る。
「!!」
身構えて振り返ると、一人の男が木の陰からこちらを眺めていた。小汚い服装、汚れた皮膚、筋肉質で鋭い目つきをしている。村を襲った連中の仲間かとエルは考えた。
「お前・・・今、何してた?」
男がエルに語り掛ける。かなり驚いているような声色だ。エルは男が呆然としているすきに、落ちていた木の棒を拾い上げて構える。
「なんでもいいだろ。この極悪ヒトめ!・・・殺してやる」
相手は一人、勝算はある。が、復讐心と同時に娘のリリの後を追いたいという気持ちもあった。このままリリのいない世界で生きていくより、最悪この男に殺されてリリのもとへ行きたい。そんな気持ちだった。
「あん?お前、あの村の生き残りか。・・・その、大変だったな。だが、俺はあいつらの仲間じゃねぇ。」
「嘘つくな。山賊みたいな恰好じゃないか。」
「山賊・・・まあ、俺は賊みたいなもんだが、あの村には手を出しちゃいねぇ。あの村を襲ったのは別の賊だ。俺は知らせを受けてその賊らをぶちのめしてきたんだぜ。」
山賊の男はそういうが、エルには信じられなかった。
「そんなこと、信じられるか?」
「信じなくてもいいけどよぉ・・・俺はお前に頼みがある。だから、襲ってくるならそのあとに相手になるからよぉ。俺について来てくれねぇか。」
男はエルに背を向けて歩き始めた。そのまま襲い掛かってもいいが、目の前の男が村を襲った賊なら問答無用に襲い掛かってきただろう。とエルは考えた。斧の大男はそうだった。
棒を構えながらエルは男の後を距離を開けてついていく。
この森はエルが普段薬草取りに通っている森のさらに奥の奥、別の山の中のようだった。見たことがない地形が広がっている。
少し進んだところに人ひとり通れるくらいの崖の切れ目が現れた。しまった、仲間のいるアジトか何かに誘導されたか、と考えた。
しかし、目の前広がった開けた場所には傷を負った賊の仲間たちが横になってうめき声を挙げていた。
「これは・・・」
「お前、さっき光で何か作って、傷に塗ってたよな。それをコイツらにもやってくれねぇか。」
男は横たわる仲間の横に立つ。倒れている別の男が『お頭』と男に語り掛ける。
「お、お頭・・・こいつぁ」
「心配すんな。寝てな。」
『お頭』と呼ばれた男はこの賊のトップのようだ。倒れている賊の周りにはまだ傷の浅く、身動きが取れる賊たちが突っ立っている。
村を襲った賊とは別と言ったのは本当かもしれない。この男たちはあまりにもけがヒトが多すぎる。村ヒトが抵抗しても、一方的な虐殺になっていたのはエル自身も目の当たりにしてきた。明らかに、同じレベルかそれ以下の武装、戦力で戦った後だ。
お頭の男はエルに再度話しかける。
「この連中は、お前の村みたいにアイツらに自分たちの大切なものを奪われてきた連中だ。お前は俺たちを賊って言ったがおよぉ。どちらかってぇと。帰るところがねぇ、復讐集団さ。アイツらの後を追ってたんだがよぉ。お前の村に現れたって知らせを聞いて駆け付けたってぇことだ。」
「・・・そう・・なのか。」
「ああ、だからって言っちゃぁなんだけどよぉ。お前の薬?を作るのをこいつらにもやってくれねぇかな。」
エルは棒をその場に落として、ちいさくうなずく。
リリごめん。お父さんしばらくはそっちに行けそうにないや。
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