194. おしまい

 昨晩も木の枝の上で寝ていたはずなのに、目が覚めたらまた地面に転がっていた。


「全然慣れないなぁ……」


 僕の今の拠点、フルーツフォレストの村の住民は、自分の家になる木の上で寝食を過ごす文化がある。

 友達の紹介でやってきたこの村で、果樹を1本分けてもらって以来、なるべく馴染めるようにと毎日挑戦してるんだけど……なかなか上手くはいかないものだ。


 そんなことを考えながら周囲の木々を見上げると、ご近所さんが青葉の陰から、びくびくと僕の方を窺っているのが見えた。視線が合うと、素知らぬ顔で目を逸らす。

 あっちも全然慣れてくれないなぁ……。



 フルーツフォレストの村はネック森国の南端付近にある田舎村だ。

 他所の国から見れば森国なんてどこも田舎に見えるのだけど、その辺は、森国内だと感覚が違うらしい。

 カタロース王国の北西、カタ山脈を超えた先のネック森国は、角エルフの治める単一種族国家で、僕以外の住民はみんな角エルフの人達だった。


 目覚めた時に傍らに転がっていた美味しいリンゴを朝食にする。

 じんわりと広がる甘さで、徐々に頭が回り始めた。


「そういえば、今日辺り来るって言ってたっけ?」


 魔王討伐後、路頭に迷って各地をうろついていた僕を見かねて、自分の故郷に呼んでくれた友達は、まだカタロース王国での兵役が残っているとかで、最近も復興だの開拓だのに駆り出されているらしい。

 その友達が今日、近く(※250キロ圏内)に寄ったついでに里帰りをするって、手紙が来てたんだけど。


「何だ、居ないと思ったら地べたに転がっていたのか、異世界人」


 声と共に上から人影が振って来て、しゅたっと見事に着地する。


「あ、おかえり。待ってたよ」


 学生時代、授業で一緒に戦闘班パーティを組んでいたモリノさんだ。

 学生時代は心の中で「角エルフの人」と呼んでいたし、相手は僕を口頭で「異世界人」だの「中等種族」だのと呼んでいたけれど、1年以上ぶりに再会した時も変わらず話せた、良い友達だ。口は悪いし人間は嫌いだけど、義理堅い所もある。


「それとも、今は森枯らし・・・・と呼んだ方が良かったか?」


 鼻で笑いながらそんなことを言えるのは、大陸中の角エルフの中でも彼女だけだろう。

 あちこちの森を一夜にして荒野に変えて回った僕の所業は、角エルフやエルフ、フェアリーといった、森林を愛する(※愛さない人もいる)妖精種の中では有名で、どうも魔王並に恐れられているらしい。


「森枯らしはやめてよ。野山どころか海だって枯らしてるし」

「フン」


 こんな不謹慎ジョーク、鼻ででも笑ってくれるのは、この人くらいだからね。


 森枯らしの僕が何故森に、それも森が大好きで国名にまで「森国」とついている角エルフの森に住んでいるのかと言えば、単純に、他に居場所がなかったからだ。

 宗教関係者の間では救世主扱いされてるらしいし、貴族制度のない国からは幾つか勧誘も受けている。でも、無理な物は無理だ。


 というのも、ステータス補正がね。高すぎてね。人里では、まともに日常生活も送れないんだよ。

 ちょっとでも気を抜くと、舗装路は砕けるし、ドアも砕けるし、家は崩れるし。


「ところで、お前、まだ寝惚けて自分のいえを破壊しているのか?」

「みたいだね。またドロップアイテムのリンゴが落ちてたから、やっぱり、ただ枝から落ちただけじゃないんだろうなぁ」


 その点、朝になったらいえ再発生リポップしてるこの村は便利だよね。



 モリノさんが見せろと言うので、一緒に今の僕のステータスを確認してみることになった。

 諸々の補正込みのステータスがこんな感じ。

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■ステータス ※()内はスキル・装備込

 体 力:1.3(115.43) 魔法力:3.1(269.76)

 攻撃力:2.2(103.62) 防御力:1.2(57.13)

 敏捷性:0.9(87.68)  器用度:2.1(197.72)

 精神力:0.9(42.08)  幸運値:5.3(248.89)

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「何だこれは。ドラゴンより酷いぞ」

「器用度197.72のお陰で、僕はそれなりに人らしい暮らしを送れてるんだよ」

「私の前では、絶対に気を抜いたり眠ったりするなよ」


 どうすればこんなステータスになるのか、ということで、スキルや装備も見せておく。

 魔王討伐後、ガチャシステムに修正アップデートがあって、ヘルランクの【爆死】が撤廃されたらしいんだけど、僕はあれからガチャは回していない。

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■スキル一覧

 LegendRare(★★★★★)

 ・【ガチャでノーマルしか出ない呪い】

 Normal(★☆☆☆☆)

 ▼能力強化スキル

 ・【体力上昇:下級】×4579  (上昇率+4579%)

 ・【魔法力上昇:下級】×4532 (上昇率+4532%)

 ・【攻撃力上昇:下級】×4610 (上昇率+4610%)

 ・【防御力上昇:下級】×4661 (上昇率+4661%)

 ・【敏捷性上昇:下級】×4559 (上昇率+4559%)

 ・【器用度上昇:下級】×4590 (上昇率+4590%)

 ・【精神力上昇:下級】×4570 (上昇率+4570%)

 ・【幸運値上昇:下級】×4596 (上昇率+4596%)

 ▼状態異常耐性スキル

 ・【毒耐性:下級】×4730   (蓄積値-47300%)

 ・【混乱耐性:下級】×4636  (蓄積値-46360%)

 ・【転倒耐性:下級】×4611  (蓄積値-46110%)

 ・【病気耐性:下級】×4655  (蓄積値-46550%)

 ・【睡眠耐性:下級】×4606  (蓄積値-46060%)

 ・【魅了耐性:下級】×4613  (蓄積値-46130%)

 ・【幻惑耐性:下級】×4653  (蓄積値-46530%)

 ・【暗闇耐性:下級】×4650  (蓄積値-46500%)

 ・【魔封耐性:下級】×4559  (蓄積値-45590%)

 ▼属性耐性スキル

 ・【炎熱耐性:下級】×4649  (被害量-46490%)

 ・【冷気耐性:下級】×4618  (被害量-46180%)

 ・【電撃耐性:下級】×4711  (被害量-47110%)

 ・【圧力耐性:下級】×4739  (被害量-47390%)

 ・【切断耐性:下級】×4723  (被害量-47230%)

 ・【刺突耐性:下級】×4716  (被害量-47160%)

 ・【衝撃耐性:下級】×4796  (被害量-47960%)

 ・【神聖耐性:下級】×4837  (被害量-48370%)

 ・【邪法耐性:下級】×4758  (被害量-47580%)

 ▼状態異常付与スキル

 ・【毒付与:下級】×4789   (蓄積値+23945%)

 ・【混乱付与:下級】×4791  (蓄積値+23955%)

 ・【転倒付与:下級】×4812  (蓄積値+24060%)

 ・【病気付与:下級】×4814  (蓄積値+24070%)

 ・【睡眠付与:下級】×4824  (蓄積値+24120%)

 ・【魅了付与:下級】×4867  (蓄積値+24335%)

 ・【幻惑付与:下級】×4888  (蓄積値+24440%)

 ・【暗闇付与:下級】×4897  (蓄積値+24485%)

 ・【魔封付与:下級】×5011  (蓄積値+25055%)

 ▼特効スキル

 ・【対人特効:下級】×5006  (加算量+25030%)

 ・【対獣特効:下級】×5095  (加算量+25475%)

 ・【対空特効:下級】×5070  (加算量+25350%)

 ・【対霊特効:下級】×4967  (加算量+24835%)

 ・【対物特効:下級】×4920  (加算量+24600%)

 ▼感知スキル

 ・【危機感知:下級】×5065  (成功率+25325%)

 ・【嘘感知:下級】×4813   (成功率+24065%)

 ・【魔力感知:下級】×4971  (成功率+24855%)

 ▼貫通スキル

 ・【防御貫通:下級】×4729  (貫通量+23645%)

 ・【精神貫通:下級】×4807  (貫通量+24035%)

 ・【耐性貫通:下級】×4859  (貫通量+24295%)

 ▼奪取スキル

 ・【魔法力奪取:下級】×4821 (成功率+24105%)

 ・【窃盗:下級】×4673    (成功率+23365%)

 ▼抵抗スキル

 ・【感知抵抗:下級】×4707  (成功率-23535%)

 ・【貫通抵抗:下級】×4791  (貫通量-23955%)

 ・【奪取抵抗:下級】×4731  (成功率-23655%)

 ▼特殊強化スキル

 ・【高速思考:下級】×4680  (上昇率+4680%)

 ・【高速詠唱:下級】×4683  (上昇率+4683%)

 ・【ドロップ上昇:下級】×4602(上昇率+4602%)

 ・【回復速度上昇:下級】×4612(上昇率+4612%)

 ・【好感度上昇:下級】×4593 (上昇率+4593%)

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■装備一覧

 右手装備不可×

 左手/杖:竹の杖+4069 (魔法力上昇:上昇率+4070%)

 頭部/兜:近衛兵の兜 (【対人特効:超級】)

 胴体/鎧:竹甲+4199 (体力上昇:上昇率+4200%)

 腕部/手甲:竹の手甲+4724 (器用度上昇:上昇率+4725%)

 脚部/靴:竹編み靴+5082 (敏捷性上昇:上昇率+5083%)

 装飾/首飾:絹のネクタイ (【精神力上昇:中級】)

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 普段は装備なんて手甲以外は外してるけど、今日は折角なのでフル装備にして見せていた。

 この【靴:竹編み靴+5082】なんて、履くだけで誰でも敏捷性が約52倍になるんだよなぁ。1歩進むつもりが52歩進むような状態になるわけで、他人に貸したらたぶん普通に事故死すると思う。


「杖ももう使わないんだけど、その辺に捨てるには危なすぎるし、でも折っちゃうのも勿体ないしで、どうしようかって思ってるんだよね」


 僕に向けられても耐性で弾けるんだけど、例えば森に向けられると、森が弾け飛ぶ恐れがある。


「要らないなら私が貰っていいか?」

「あ、あげるあげる。村を紹介してくれたお礼もまだだったし」

「助かる」


 僕は危険物、というか産業廃棄物を処理できて、モリノさんも強力な武器を手に入れて、Win-Winだ。

 そんなことを思っていたら、モリノさんは自分のステータスウィンドウの「装備一覧」タブを開いて、僕にもそれを見るように促した。

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■装備一覧

 右手/鈴杖:玲瓏の鈴(【高速詠唱:超級】)

 左手/杖:竹の杖+4069 (魔法力上昇:上昇率+4070%)

 頭部/髪留:癒しの簪(【回復速度上昇:超級】)

 胴体/

 腕部/手甲:闇龍の手甲(【暗闇付与:超級】/吸光)

 脚部/

 装飾/

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「見ろ。鈴がダイ吉、簪がラム美、手甲が私。

 それと、杖がお前のだ。これでようやく4人揃った」


 僕は、ちょっと泣いてしまった。




 僕とモリノさんは、2人で僕のいえの枝に並んで座り、果実をもいで齧りながら世間話をしていた。

 果実系のドロップアイテムは別に果樹を破壊しなくても、木にっている果実をもぐだけでドロップする。というか、普通の人はそうする。

 ドロップ率は10%程度だから、モリノさんの方はなかなかドロップしないけど、僕はスキルの補正で確実にドロップするし、何ならレアアイテムの【美味しいリンゴ】も普通に出る。分けようとしたら拒否されたので、全部自分で食べた。


「街に出てくる予定はないのか? 地元出身の私が言うのも何だが、ここはつまらん村だろう」


 モリノさんはリンゴの芯を放り投げ、空中で炎熱魔法によって灰にした。

 なお、僕の渡した杖は今は装備していない。膨大な魔法力を扱うには慣れが必要だし、下手をすると第2の森枯らしが生まれるからだ。


「一応、方法を考えてはいるんだけど、運が絡むし、可能性は低いんだよねぇ」


 僕も同じように、投げた芯を圧力魔法で塵にしながら答えた。


「ハッ、他人の250倍の運を持っているやつが、何を言っているんだか」


 そう言われると、確かに無理な話ではないような気もしてくるなぁ。


「試しに願ってみればどうだ?」

「そうだね」


 僕は何となく目を閉じて手を合わせ、頭の中で念じてみる。


〈あー、テステス。聞こえますか?〉


 ちょうどそのタイミングで、頭の中に声が響いた。


「あ、ラムダ様。お久しぶりです」

「何だ、どうした?」

「いや、うちの神様から交信が入ったんだ」


 突然声を上げた僕(最近独り言が増えたので)を訝しむモリノさんに自己弁護をしつつ、ラムダ様の神託に意識を向ける。


〈お友達が来ていた所にすみません。しかし、ちょうど今話していたことに関わる情報ですよ〉


 おお、と言いますと、遂に。


〈ふふふ、現れましたよ。【スキル封印】スキルの持ち主が〉


 王族の新生児とかです? それともガチャで?


〈ガチャで、です〉

「やった! これで僕の社会復帰計画の、100%中の20%くらいは進行しましたね!」

「おい中等生物、1人で盛り上がるな。この私にわかるように説明しろ」


 隣にいるのに蚊帳の外に追い出される形になったモリノさんが、苛立った風に言う。

 僕は慌てて補足した。


「ガチャで【スキル封印】スキルを引いた人が出たんだって! 上手く交渉して専属で雇えれば、人里でも生活できるかもしれない」


 スキルが封印されさえすれば、僕なんかただの人だからね。


 この村の生活も悪くないけど……ほんの数人くらいだけど、残った友人や知人が、大陸のあちこちに暮らしている。

 そこへ会いに行きたいって、ずっと思っていたので。


「そうか。それは良い」


 モリノさんは尊大に笑って言った。


「問題が片付いたら連絡を寄越せ。良い酒でも奢ってやろう」

「お酒なんて飲むの?」

「こう見えても軍人だからな。酒くらい飲む」


 そんなもんだろうか。

 この世界の基準だと、僕も飲酒を許される年齢ではあるし、友達と飲み会というのも良いかもしれない。


「うん、なら、楽しみにしておく」

「そうするといい」


 モリノさんはそう言って、自分のいえに帰って行った。



〈それでは、いつ頃出発しますか? スキル保有者が権力者に囲われてしまわないよう、できるだけ早い方がいいと思いますが〉


 今から出発しましょう。


〈わかりました。方角は4時の方向、近付いて来たらまた指示します〉


 そういう訳で、僕は一旦地面に飛び降りると、力加減に気を付けながら、枝葉の上まで跳び上がった。

 周囲の木々から、隣人の人達の悲鳴が上がる。ごめんなさい。


 葉っぱの天井を抜けた先に広がるのは、森の中だとあまり見ることのない青空だ。


 衝撃魔法で足場を作りつつ、僕は飛ぶように空を駆け出した。




 おしまい。





=============================


以上で本作は完結となります。

長らくお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

感想、レビュー、★評価、ブックマークなども大変感謝しております。


何かあったら番外編でも書くかもしれませんが、

何もなかったら書かないかもしれません。


ともあれ、改めて最後までお付き合いいただき

ありがとうございました。

また別の機会があれば宜しくお願いいたします。

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