173. あら、その猫人? 猫人は亜人ね

 イジョーシャさんに案内された地下室は、地下だと言うのに日向のように明るい。

 そして、部屋中に様々な魔物の入った檻や水槽があった。


 タヌキやキツネといったその辺にいる魔物。

 ウマやウシといった家畜としても飼われる魔物。

 イヌやネコといった野生では珍しい魔物。

 フナやエビといった水棲の魔物。


「オコジョもいますですワン」

「本当だ。相変わらず、すごい牙剥いてくるね」


 こいつら、絶対に人に慣れることのない種族らしいし。

 あ、ウサギもいる。かつては命を懸けて争った相手だけど、何だか懐かしいな。


 半畳から2畳ほどのスペースに、草や花を植えたり、岩を置いたり、タワーを作ったり、回し車を据えたり、それぞれの魔物に合わせた環境が作られているようだ。


 よく見ると、ハチやカブトムシ、ムカデのような虫の魔物もいる。

 そういえばこの世界で虫って初めて見たなぁ。エビ(のドロップアイテム食材を使った料理)は食べたことあったから、節足魔物はいると思ってたけど。


〈この世界は貴方の世界と比べれば遥かに種族数は少ないのですが、地域によっても分布は違いますからね。そして、ここには大陸中の魔物が集められているのです〉


 へええ、凄い。知識神であるラムダ様のお墨付きだ。


「どうかしら? の自慢の魔物園よ。必要な魔物には、毎日散歩もさせているの」

「すごいですワン! 知らない魔物がたくさんいますですワン!」

「驚きました。お陰様で、図鑑もかなり埋まったと思います」


 絶対に全部見せてもらおう。

 僕が密かにわくわくしていると、イジョーシャさんも嬉しそうな顔で両手を打ち合わせた。


「あら、其方そちはギルドメニューの図鑑を使っているのね」

「はい、新しい魔物の項目が増えていくのも楽しいし、説明文も読み物として面白いですよね」

〈ありがとうございます。説明文は頑張りました〉


 執筆者からご愛読感謝の言葉が届いた。


は冒険者ギルドを追放されたから、ギルドメニューは使えないの。

 だからここに魔物園を作って、魔物を集めているのよ」


 なるほど……図鑑(物理)、ってことか。

 物理書籍ってそういうことじゃないと思うけど、スケールが大きい人だなぁ。


「そうだわ。ここにいない種族で、其方の図鑑に登録されているものはある?」

「どうでしょう。全部回ってみないと判らないですけど、どうしてです?」

「世界中を回ったけれど、もしかしたら、まだ私の知らない魔物や亜人がいるかも知れないもの。そうしたら実物を調べて、この魔物園に加えたいと思うの。

 この地下室はあまり大きくないから、ここにはいない魔物や亜人もいるけれど」


 それくらいなら協力してもいいかな。でも、ちょっと待ってくださいね。


「亜人もいるんですか、ここ」

「うふふ。今いるのはみんな犯罪奴隷だから合法よ」


 なら良いのかな。たぶん。

 僕とコレットさんは、イジョーシャさんの案内で魔物園を見て回ることになった。



 亜人区画には口輪をされて鎖に繋がれたり、手足をがれて転がされたりする、亜人や人間の人達が転がされている。見ていて気持ちの良い物でもない。一応、身なりも綺麗で血色は良いし、食事も十分与えられているようだけど。


「あ、ここにいましたですワン」


 少し前から何かを探していたようなコレットさんが、ある檻の前で足を止める。

 何だろう、と思って僕も中を覗いて見た。


「これは……」

「あら、その猫人フェルパー猫人フェルパーは亜人ね」


 昨日会った人によく似た毛色の、ネコをそのまま大きくして、人型にしたような姿の猫人フェルパー。とはいえ、今はちょっと人型とは言いにくい形をしていたけれど。


〈そういえば昨日、魔王と戦う気もないのに【不死】スキルを強奪しようとした、神々と全種族への裏切り者がいましたね〉


 全身を震わせ、怯えた目でこちらを見る猫人フェルパーの人は、普通の相手なら余裕で圧倒できる程のスキルを積んでいたはずだけれど、【不死】以外のスキルを持たないイジョーシャさんに返り討ちにされたのだろうか。


〈「私でも勝てましたですワン」〉


 どうしても、ラムダ様の物真似で気が抜けてしまうなぁ……。

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