171. ドーロボさんは耐性スキルを取ってもらって、他にも戦闘用のスキルを集めて欲しいんですけど

「失礼、今何と言ったニャ?」

「魔王討伐の仲間になってもらえませんか、と」


 聞き返されたので、もう一度答えた。


「ニャハハ、御冗談を。

 大陸の半分を一夜にして滅ぼすような者を相手に、一介の商人が何をできますかニャ」


 あんなこと言ってますけど、ラムダ様。

 実際ドーロボさんの今のスキルって、どんな感じなんでしょう。


〈ドーロボのスキルはこんな感じですね〉


 ぽーん、と軽く投げ渡されるような感覚で、脳内に直接スキルのリストが流れ込んでくる。

--------------------------------

■スキル一覧

 LegendRare(★★★★★)

 ▼感知スキル

 ・【鑑定】          (成功率+100%)

 ▼奪取スキル

 ・【スキル強奪】       (成功率+100%)

 ArtificalRare(★★★★☆~)

 ▼能力強化スキル

 ・体力上昇:上昇率+11%

 ・魔法力上昇:上昇率+17%

 ・攻撃力上昇:上昇率+7%

 ・防御力上昇:上昇率+11%

 ・敏捷性上昇:上昇率+3%

 ・器用度上昇:上昇率+7%

 ・精神力上昇:上昇率+13%

 ・幸運値上昇:上昇率+60%

 ▼状態異常耐性スキル

 ・毒耐性:蓄積値-110%

 ・混乱耐性:蓄積値-95%

 ・転倒耐性:蓄積値-75%

 ・病気耐性:蓄積値-120%

 ・睡眠耐性:蓄積値-105%

 ・魅了耐性:蓄積値-135%

 ・幻惑耐性:蓄積値-85%

 ・暗闇耐性:蓄積値-120%

 ・魔封耐性:蓄積値-70%

 ▼属性耐性スキル

 ・炎熱耐性:被害量-115%

 ・冷気耐性:被害量-105%

 ・電撃耐性:被害量-90%

 ・圧力耐性:被害量-155%

 ・切断耐性:被害量-90%

 ・刺突耐性:被害量-135%

 ・衝撃耐性:被害量-90%

 ・神聖耐性:被害量-105%

 ・邪法耐性:被害量-100%

 ▼状態異常付与スキル

 ・毒付与:蓄積値+15%

 ・混乱付与:蓄積値+25%

 ・病気付与:蓄積値+10%

 ・睡眠付与:蓄積値+15%

 ・魅了付与:蓄積値+45%

 ・幻惑付与:蓄積値+50%

 ▼特効スキル

 ・対人特効:加算量+10%

 ・対物特効:加算量+30%

 ▼感知スキル

 ・危機感知:成功率+35%

 ・嘘感知:成功率+175%

 ・魔力感知:成功率+80%

 ▼貫通スキル

 ・防御貫通:貫通量+25%

 ・精神貫通:貫通量+35%

 ・耐性貫通:貫通量+15%

 ▼奪取スキル

 ・魔法力奪取:成功率+35%

 ・窃盗:成功率+10%

 ▼抵抗スキル

 ・感知抵抗:成功率-105%

 ・貫通抵抗:貫通量-100%

 ・奪取抵抗:成功率-110%

 ▼特殊強化スキル

 ・高速思考:上昇率+58%

 ・高速詠唱:上昇率+8%

 ・ドロップ上昇:上昇率+4%

 ・回復速度上昇:上昇率+40%

 ・好感度上昇:上昇率+93%

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 普通に強い。

 このまま魔王に殴り込みに行っても生きて帰れそうじゃないですか。


〈【鑑定】スキルを得てからは選り好みするようになったので、戦闘向きのスキルは少ないようです。

 しかし、幸いこの聖都は王族相当のスキルを受け継ぐ宮家が7つもある上に、現教皇の子孫が市井にまでゴロゴロいますからね。血は薄まっていても、上級以上のスキルを持つ者は多いですよ〉


 流石に全員が快くスキルを提供してくれることはないと思いますけど。


〈魔王を討伐しないと世界が滅びるのですから、必要な範囲だと思いますよ〉


 うーん……その辺の話はまた後で考えますね。

 現状、それ以前の問題のようなので。


「そもそも、どうして私に声をかけたのですニャ?」


 どうも、ドーロボさんはこちらを警戒しているようだ。

 それは当然の話というか、数ヶ月前に偶然一度会った、お互い名前も知らない人が、わざわざ自分を探して尋ねて来て、魔王討伐に行こうと誘いに来るわけだ。僕なら即座に逃げ出すかも知れない。


「神託がありまして」


 なので、正直に言ってみた。


「神託……? 失礼ですが、神官の方には見えませんニャ」

「知識神ラムダ様のお告げで、あなたには魔王と戦う力があるということで。

 魔王と戦う場合、前提としてかなりの耐性スキルが――具体的には、最低でも炎熱/神聖/邪法属性に100%以上の耐性がないと駄目なんですよ」

〈魔王も普通に殴ったり斬りかかったり、魔法を使ったりはしてきますから、そこも含めてもう少し伸ばす必要はありますね〉


 あ、それもそうですね。


〈ドーロボには電撃/切断/衝撃の耐性が足りません〉

「ドーロボさんはあと電撃/切断/衝撃の耐性がちょっと足りないので、その辺も付け足して貰えればなと」


 そう言ってから、遅まきながら。

 僕は相手の表情が、凍り付いていたように固まっているのに気が付いた。


 あれ。

 もしかして、他人のスキルを勝手に覗くのはマナー違反とかあるんですかね。


〈そういったマナーは聞いたことがありませんが。【鑑定】スキルで知った他人のステータスを広く共有したことで裁判となり、情報を漏らした者が有罪となった事例はありますが、個人や仲間内で確認するだけならどの国の法でも特に問題はなか…〉

「…………て……るニャ?」

〈…ったはずですね。【鑑定】スキルを持っている者自体が少ないですし、【鑑定の玉】のようなアイテムは使った時点で相手に気付かれるので、予め許可を取った対象か、敵対している対象にしか使われませんので〉

「え、あ、はい、すみません。何でしょう、ちょっと聞き逃しました」


 すみませんラムダ様、一旦ドーロボさんの話に集中しますね……。


〈はいはい、どうぞどうぞ。こちらこそすみません〉


 僕はドーロボさんに「もう一度お願いします」と頭を下げた。


「何故、私のスキルを知ってるニャ? 私の感知抵抗は100%を超えているはずニャ」

「あ、はい。そこですね」


 怒ってる訳じゃなくて、驚いてただけか。良かった。


「ラムダ様からのお告げで伺いましたので」

〈私は別に鑑定した訳ではなく、ドーロボが自分自身でステータスメニューを開いて見た時の情報を持っているだけですからね〉


 そんな仕組みだったんですか?

 ネコと遊んでいたコレットさんも、「ええっ?」みたいな顔でこちらを見ている。そうなるよね。

 というかこの話、コレットさんにも聞かせてたんですね。


〈貴方の台詞も同時通訳で読み上げて、1柱2役で聞かせていますよ〉


 何か恥ずかしいですね、それ。別に良いですけど。


「本当に神の遣いなのニャ?」

「はい、本当に神様の遣いです」

「10回繰り返すニャ」

「本当に神様の遣いです、本当に神様の遣いです、本当に神様の遣いです、本当に神様の遣いです、本当に神様の遣いです、本当に神様の遣いです、本当に神様の遣いです、本当に神様の遣いです、本当に神様の遣いです、本当に神様の遣いです」

「……嘘感知にも反応しないニャ。私の【鑑定】を弾く程の感知抵抗スキルがあるにしても、成功率180%の嘘感知を10回連続で抜くのは、ちょっと難しいはずニャ」


 それでやっと信用して貰えたのか、ドーロボさんは自分のスキルを隠すのをやめたようだ。


「ということは、私の、あのスキルのことも知ってるニャ?」

「【スキル強奪】スキルのことですかね。元々はそれがあるから、仲間に誘いに来たんです」

「本当に、本物の神の遣いのようだニャ……あの胡散臭い女神の勇者とは違って」


 山本さんが胡散臭い呼ばわりされているけど、その辺は後で良いや。

 僕の素性を理解してもらえたので、これでやっと話が進められる。


「それで、どうでしょう。ドーロボさんは耐性スキルを取ってもらって、他にも戦闘用のスキルを集めて欲しいんですけど」


 僕は改めて、そうお願いした。





 その10分後、ドーロボさんの拠点の宿を後にして、僕達は通り道にあった公園で反省会を開いていた。


〈ドーロボは商家の生まれではないので、損得計算が少々短絡的なのですよね〉

「世界が滅びるかどうかの話なんですけど、実感がなければあんなもんですかね」

「世界が滅んだらおしまいだってくらい、私でも判りますですワン」


 ドーロボさんが悪いみたいな空気になってるけど、こっちの不手際もあったんだよね。今回の話は、まだやっぱり事前の練習が足りなかった。

 地元の高校や王立学院の受験の時も、面接の練習って結構やったもんなぁ。


「やっぱり面接の練習が必要だと思うんですよ」


 ということで、僕はそう提案した。


「ラムダ様、面接官というか、仲間に誘われる側の人の役をやっていただけますか? コレットさんも一緒に練習しよう。僕1人だと無理かも」

「わかりましたですワン。頑張りますですワン!」

〈まあ、確かに練習も大事ですね。幸い資金の方は無事に手に入ったので、今日は壁の厚い宿を取って、声出し練習をしましょうか〉


 前向きに行こう、前向きに。

 実を言うと、多くの国ではスキルを持っているのは貴族や権力者だから、そのスキルを盗みまくっているドーロボさんを脅迫して仲間に引き込むのは、不可能ではないと思うけど……ラムダ様も「やる気がない仲間ならいない方が安全」って言ってたんだよなぁ。

 そんなに悪い人って感じもしなかったけど、妙に高かった好感度上昇スキルの影響があるので、何とも言えない。


「今日はこの後、ダンジョンに潜る予定でしたけど、明日はどうしましょう。

 山本さん達はあのお城にいるから、会うのは無理ですよね」

〈一般人が聖城内に入るには200万Gの寄付と謁見相手に応じた寄付金が必要になりますが、山本達は一般観覧エリアより奥の階層で生活しているので、偶然会うことも難しいですね〉

「となると、ええと、あと誰でしたっけ」


 ドラゴンの教皇と、【スキル強奪】のドーロボさんと、【危機感知:超級】の山本さんと、【不死】のメイドの人と……。


「もう1人の【不死】の人ですワン?」


 あ、それそれ。その人。


〈そうですね。【不死】スキル保有者のイジョーシャという者が、この街に住んでいます。

 彼女は【不死】以外のスキルを持っていないので、現状は魔王戦での戦力にはなりませんが、11連ガチャで高ランクスキルを増やせばすぐに最前線に立てます〉

「11連ガチャ用の宝玉は……?」

〈教皇を仲間に引き込めば、この国の魔晶鉱山を接収することも可能でしょう〉

「ああ、なるほどです」


 対魔王の資金援助的な感じで、他国との交渉もお願いできるかも知れないし。


〈では、コレット。明日の予定を今から私が読み上げますので、後について大きな声で復唱してください〉

「はいですワン」


 と突然、ラムダ様が普段はやらないようなことを言い出した。


「何ですそれ」

〈情報の確認は重要ですよ〉


 ラムダ様はそう言ってはぐらかす。

 うん、はぐらかされてるな、これ。


〈1つ、明日は聖都に住む【不死】スキルの持ち主に会いに行く〉

「1つ、明日は聖都に住む【不死】スキルの持ち主に会いに行きますですワン!」

〈1つ、【不死】スキルの持ち主は他のスキルを持っていないので、現状は戦力にはならない〉

「1つ、【不死】スキルの持ち主は他のスキルを持っていないので、現状は戦力にはなりませんですワン!」

〈1つ、仲間になったらガチャでスキルを増やしてもらう〉

「1つ、仲間になったらガチャでスキルを増やしてもらいますですワン!」

〈1つ、【不死】スキルの持ち主の住所は―――〉


 あっ、と思った時には、ラムダ様は他人の個人情報を読み上げ、コレットさんはそれを大声で復唱していた。


「あの、個人情報の漏洩というか、大声で言うのはまずいんじゃないでしょうか」

〈そうですね。以後気を付けます〉

「以後気を付けますですワン」


 返事は良いなぁ。



 明日の予定も決まったし、反省会はここまで。

 今日はコレットさんも一緒に潜れるダンジョンが無いか探してみて、無理そうだったら1人で高速周回だ。コレットさんには簡易なベースキャンプを作ってもらう。


 さて、と立ち上がって声を掛けようとしたら。

 コレットさんは、ここに来る前に通った道の方を向いて、鼻を鳴らしていた。


「くんくん……やっと帰ったみたいですワン」

「どうしたの? 何かあった?」

「さっきの人が、ずっとそこの角の辺りにいましたですワン」


 さっきの人、ってドーロボさんのことかな。


「そうなんだ。何か用事かな?」

「でももう帰りましたですワン」


 ふうん。帰ったなら仕方ないけど。


「ラムダ様は何かご存知です?」

〈非協力的な程度であればまだしも、流石に魔王討伐を妨害しようとするのは見過ごせませんので〉


 ラムダ様は、答えになっているのか、なっていないのか……なっているんだろうことを仰った。

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