170. なるほどニャ。物を見せて欲しいニャ
【スキル強奪】スキルの保有者、ドーロボさん。
その宿泊先は、メインストリートから少し外れた場所にあるそうだ。
「さっきから
「言われてみればそうかも」
猫耳尻尾が生えた人間風の人や、猫ヒゲまで生えてる人、輪郭も猫っぽい人など……色々いるけど、簡単な見分け方がある。
純血の
冒険者ならそうでもないんだけど、一般人はあからさまだ。コレットさんには悪いけど、たまに笑いそうになる。
〈この辺りは聖都の中でも
「地区ごとに違うんですか?」
〈7つの種族の7つの国が合併して出来たのが、今の聖国ですからね。聖都に住み始めた初代は、種族ごとに纏まって住んでいましたので〉
「それが現代まで何となく残ってるんですね」
あれ。でもおかしいな。
「学院に通ってた頃、帝国と商国以外は大体単一種族国家だよ、みたいなことを習った気がするんですけど」
〈ああ、まあ……大陸の西の方はそういった所も多いのですが。
カタロース王立高等学院は、というかカタロース王国の知識層は基本的に武闘派なので、戦闘関係以外の授業は情報が極端に古かったり、そもそも最初から誤情報だったりするんですよね〉
「知識層が基本的に武闘派」
とは。
いえ、判りますけど。確かに、受験から授業まで戦闘関連のウェイトがすごかったし、平民は軍事物資みたいな扱いだったし。
〈良ければ、今後は時間のある時に歴史や地理、文化について教えましょうか?〉
「えっ本当ですか。ありがとうございます」
「……難しい話をしますですワン?」
〈安心してください、コレットにも楽しめる話にしますよ。貴女の趣味や好みといった情報も持っていますので。各国の名所や名産、演劇や音楽、武術に魔法、何でもござれです〉
「わふ! ありがとうございますですワン!」
楽しみが増えたなぁ、とわくわくしながら曲がり角に差し掛かる。
「うにゃっ!? ……にゃーっと、げほっ、げほっ……喉がおかしいな……」
出会い頭に尻尾を膨らませて跳び上がった
「…………ぅワンッ!!」
「んにゃっ!?」
「……ん、んんっ、喉の調子がおかしいですワン……」
ちょっと噴き出してしまった。
「悪戯はやめとこう」
「はいですワン」
気も晴れたのか、素直に頷く。
コレットさんも昨日からストレスの溜まることが多かっただろうから、何か埋め合わせを考えようかな。
ダンジョン産のアイテムが売れたら、何か美味しい物か、面白い物でも買ってあげよう。というか、僕も何か欲しい。貯金もしなきゃいけないけど、使う時は使わないと。
「そういえばラムダ様。今から会うドーロボさんも
〈はい、そうですね。前にも言いましたが、貴方は一度会っていますよ〉
「そうなんですか? どんな人でしたっけ……」
王国では学院のクラスメイトくらいかな。学徒動員でガチャ爆死したけど。
商国では冒険者やギルド受付の人に何人かいたけど、国諸共に魔王にやられちゃったしな。
最低でも、顔を合わせた時には思い出さないと失礼になるぞ……と思っていたら、もうドーロボさんの拠点の宿についてしまった。
宿の受付で「宿泊客のドーロボ=ウニャンコさんに用があるんですけど」と言うと、宿の人は普通に部屋まで通してくれた。
ドーロボさんは商人だし、拠点の場所を聞いているなら客だろうという判断だと思うんだけど、不用心な気もしないではない。こんなもんなのかな?
「ウニャンコさん、お客だニャ」
宿の人は部屋の扉を乱暴にノックして、中に呼び掛ける。
すぐに部屋の中から返事があって、少し待つと外に出て来た。
「ンニャ……朝早くからどちら様ですニャ?」
そうして出て来たのがドーロボさんなのだろう。
大きなネコが服を着て2足歩行をしているような外見。純血の
〈厳密には純血ではないのですが、いわゆる先祖返りですね〉
あ、そうなんですね。
うーん、何処かで会ったことが、あるような、ないような……あるような……あったっけ………。
「ニャニャ! これはひょっとして、カタロース王国からカタバラ商国への乗合馬車でお会いした方ですかニャ?」
「あ、はい、そうですそうです!」
しかし流石はプロの商人、一瞬で僕のことを思い出してくれたらしい。
僕もその反応でようやく思い出し、即座に乗っかった。
あれだ、王国を出る時に乗った馬車で、ネコを触らせてくれた人!
〈ほら、会ったことがあるでしょう?〉
ありました、ありました。
あの時のネコが可愛かったから、旅の目的にもネコを探しに行こうって話になったんです。懐かしいなぁ。結局あれ以来、一度もネコは見てないんですよね。
宿の人は用も済んだと受付に戻ってしまい、立ち話も何だから、とドーロボさんは僕達を部屋に招いてくれた。
「私がここに泊まっているというのは、誰かに聞いたんですニャ?」
「はい、知人に聞きまして……まずは品物の買取をお願いできればと」
「なるほどニャ。物を見せて欲しいニャ」
コレットさんがネコと遊んでいる横で(ネコは特に怖がる様子もなかった)、僕は荷物から昨日のダンジョンで手に入れたボスドロップとダンジョンドロップを取り出す。
ボスドロップが【銀のクマの手】、食材アイテムだ。
ダンジョンドロップは消耗品の【鑑定の玉】。【鑑定】のスキルが込められたガラス玉で、叩き割ることでスキルが発動し、相手のステータスや物品の情報を調べることができる便利アイテムなんだけど。
〈鑑定スキルで見える情報程度なら、私が把握していますからね〉
ということで、これも現状は特に必要ないから売り払うことにした。
「ニャニャニャ、【銀のクマの手】はオークションに出せばなかなかの高値で売れますニャ……! 【鑑定の玉】も常に需要は多いので、売り方次第で良い値が付きますニャ。
私の方で買い取ると、それより大分安くなりますが、宜しいですニャ?」
「オークションに出すどころか、冒険者ギルドの買取に出すための寄付金もないので……」
「ああ、なるほどニャ……この国は何でも初期投資が高すぎるニャ」
取引は無事完了し、金額も多少の交渉の末、ラムダ様が予想した250万
これで当座の生活費と、最低限の暮らしをするための寄付金には十分だ。お金については、今日から本腰を入れてダンジョンを周回すれば何とかなるだろう。
さて。
〈これからが本題ですね〉
どう切り出したものでしょうね。
と思っていたら。
「それで」
ドーロボさんは、不意に姿勢を正してこちらを見据える。
そして言った。
「まずは買取を、ということでしたニャ。
本題は何ですニャ? わざわざ私を訪ねて来た理由があるんだニャ」
すごい。プロの商人は話が早い。
僕はこれ幸いと、その流れに乗っかった。
「魔王っているじゃないですか。商国を滅ぼして、最近では大陸の南半分を灰にしたっていう」
「全く迷惑な話ですニャ。私もたまたま王国側にいたから助かったものの、魔王復活の日が数日ずれたら死んでましたニャ」
「はい、その魔王を討伐する仲間を集めてるんですが、ドーロボさんに協力していただけないかなと」
わりと自然な流れで、淀みなく言えたと思う。
台詞はあらかじめ考えてきたからね。
〈ドーロボは嘘感知スキルも持っていますので、話の真偽もきちんと伝わっていますよ。情報共有がスムーズだと、話が早くて良いですね〉
ラムダ様も普段より機嫌が良さそうだ。
僕やコレットさんと話す時は大体いつも機嫌は良さそうだけど、普段よりもっと。
とはいえ、今の一言だけで仲間になってくれると思うのは虫が良すぎるだろう。
勿論、詳しい説明もするつもりだし、質疑応答も受け付ける。こちらには知識神がついているので、大抵の疑問には回答できると思う。
ドーロボさんは僕の言葉のあと1分弱ほど考えて、まずは端的に、こう尋ねた。
「………………………は?」
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