169. 街角野宿に適したスポット

 冒険者ギルドで低額依頼斡旋業務担当の侍祭の人に会ったんだけど、結局依頼は受けずに撤収した。

 余所者は街を出入りする度に入都料がかかるので、低額依頼だと受ける度に赤字になるようだ。


〈すみません……ここ数千年、外部の冒険者が聖都で低額依頼を受注した事例がなかったので、情報が更新されておらず……考えればわかることを、考えていませんでした〉


 いえ、それを言うと僕だって考えれば想像はついたはずなんですよね……ここはお互い様です。


 ということで、コレットさんとは一旦別れて、街で野宿に適した場所(※大きな建物同士の隙間とか、物置小屋の屋根とか、大通りから近いけど植込みで官憲の目からは隠れるベンチとか、その中でも先客のいない場所)を探してもらうことにした。

 知識神と言えど、「街角野宿に適したスポット」みたいに極めて限定的な情報はまだ持っていなかったので、これは地道に探してもらうしかない。


「夕方までには一旦帰って来るから、その時に合流ね」

「わかりましたですワン」


 とはいえ、神の力はやはり偉大だった。


〈お互いの場所は私が把握しているので、合流の時は任せてください〉


 眷属相手とはいえ、ここまで気軽に交信できる神様というのは他にいないそうで、情報戦では圧倒的な優位に立ててしまう。

 携帯電話がない世界、待ち合わせとかに凄い便利だなぁ。




 1人になった僕は神のお告げに従い、聖都シャトーブリアンの近隣にある未踏破ダンジョンを訪れた。


「入場料1万Gゴルドだドラ」

「はい、ちょうどで」

「1人で大丈夫ドラ? 元を取ろうなんて思わず、無理せず浅層で引き上げるドラ」


 ダンジョン受付の人は心配してくれたけど、僕は曖昧な笑顔で会釈をして、入り口の階段を地下へ下っていく。


〈依頼無しのダンジョン探索なら入場料だけで可能ですし、ドロップ品の売却で十分な収入になるでしょう〉


 割りの良いお金稼ぎとして、ラムダ様が提案してくださったのがダンジョン探索。

 僕1人なら特に危険なこともないので、なるべく深い所までダッシュして、ドロップアイテムを集めて、夕方までに戻って売る。それで今日の宿代くらいにはなるだろう。


 攻略された階層までの道は情報としてラムダ様が持っているので、ナビゲートに従って進めば時間の節約になる。


「さて……夕方までに、攻略の最前線まで辿り着けるかな?」


 ちらほら見える冒険者の人達の邪魔にならないよう、僕は走り出す……!




 で、何か思ったよりダンジョンが浅かったので、夕方までに最下層のボスまで完全攻略できてしまった……!

 何だこれ。拍子抜けだよ。


〈未踏破区域が思ったより少なかったのもありますが、マグマ地帯も氷雪地帯も棘床地帯も普通に歩けてしまうと、予想以上に軽快に進めるものですねぇ。

 面白い情報が手に入りました〉


 感心したような調子でラムダ様が仰る。


 ラムダ様。今日中に最前線まで行けるかどうか、みたいな話してましたよね。

 僕もそのつもりで気合入れてたんですけど。


〈いえ、何と言いますか……なまじ他の冒険者が攻略していた時の情報があったもので、その基準で考えてしまいました〉


 なるほどです。……なるほどかな?


〈この程度のダンジョンに何千年も手こずっていたとは、聖国の冒険者の怠慢ですね〉


 単に、マグマ地帯も氷雪地帯も棘床地帯も普通に歩けてしまったせいだと思いますよ。


 そういう訳で、気付いた時には最下層だった。

 ある程度までは魔物を避けて進むのを優先するつもりだったから、魔物からのドロップはほぼゼロ。

 ダンジョンボスの、でかいクマみたいなやつが落とした【銀色のクマの手】って高級食材だけだ。


〈それに加えて、完全踏破報酬のダンジョンドロップも出ましたからね。

 消耗品なので売価はそれなり程度ですが、両方売り払えば、時価総額で250万Gが妥当でしょうか〉


 おお、大金ですねぇ。教皇の謁見費用には全然足りませんけど。


〈ダンジョン自体も、思ったより浅かったですからね。ドロップアイテムもこんなものでしょう。

 明日からはここを周回するか、近場の別のダンジョンに潜るかでしょうか〉


 ですねぇ。コレットさんも一緒に潜れるダンジョンがあれば、そっちの方が良いかもしれません。

 なんてことを話しながら、聖都に戻り、入都料を払って中へ入る。


〈コレットには先程連絡しましたので、門の先の広場で待っていますよ〉


 と、門を抜けた途端。


「あ、お兄さんお帰りなさいですワン!」


 コレットさんが尻尾を振りながら駆け寄ってきた。


「ただいま」


 わしゃわしゃと顎を撫で回し、そのまま手を繋いで歩く。

 ラムダ様が見ていてくれたし、コレットさんはその辺のゴロツキよりは強いので心配もないんだろうけど、知らない土地で1人にするのは、やっぱり申し訳なかったな。

 いつもは宿を取ってたりするけど、今日はそれもなかったし。


「買取は何処でお願いしましょう。冒険者ギルドでも低額買取しか対応して貰えないんですよね」

〈流石にボスドロップやダンジョンドロップの買取は拒否されるでしょうね。

 今日はもう遅い時間ですが、仲間候補のドーロボが商人ですから、彼に買い取ってもらえるかも知れません。仲間に誘うついでに、明日相談に行きましょう〉


 それは一石二鳥だなぁ。

 ドーロボさんってどんな人だろう。明日が楽しみだな。


「今日の寝床はばっちりですワン! 屋根の平らな小屋がありましたですワン!

 隣に木が生えてて、屋根に登りやすい好物件ですワン!」

〈あれはウマ小屋ですね。夜は人もいないので、上手く行けば朝まで気付かれませんよ〉

「それは良いなぁ。見つけてくれてありがとう」

「どういたしましてですワン!」


 僕達は自然な歩調でそのウマ小屋の前まで歩いてゆく。

 素早く周囲を見回して、誰もいないのを確認すると、音を立てずに屋根に駆け上り、荷物から毛布を広げ、そのまま朝までぐっすり眠った。

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