168. ボコボコにして従わせるのはどうですワン?

 ドラゴンはドラゴン度が高いほどドラゴン内では偉い。


「それじゃ、純血のドラゴンはすごい偉いんですワン?」


 子供達の遊び回る平和な公園で、コレットさんが知識神ラムダ様に尋ねる。


〈そうなのですが、ドラゴンの個体数の下限は極めて少なく、今いる龍人ドラゴニュートを皆殺しにでもしないと新たな純血ドラゴンはポップはしないのです。今は純血のドラゴンは1人だけで、それが教皇ですね〉

「なるほどですワン」


 つまり、教皇は権力的な話だけでなく、ドラゴン的にも偉いってことか。


「勇者特権がないと、会うのは難しそうですね」

〈そうですね。聖国では、一定以上の地位の聖職者と謁見するには、相応の寄付金を納めなくてはなりませんので〉

「あ、じゃあ逆にお金を積めば会えるんですね」


 それはむしろ朗報かも。

 政治的な工作が必要になると大変そうだけど、お金で解決できるなら話がシンプルになる。

 最悪の場合はこっそり潜入か、正面からの殴り込みになるかなと思ってたので、平和的に済むなら大歓迎だ。


「そのお金ってどれくらいかかるんです? あと、何処の誰に払えば良いんでしょう?」

〈ああ、そうですね。では順を追って説明しますね〉


 街に入るまでに結構お金を使ったので、聖国通貨は4万5千Gゴルドちょっと。

 これでは足りないかも知れないけど、不足分は稼ぐしかないかな。


 ラムダ様は仰った。


〈まず、謁見許可の不要な低額寄付金受付担当侍祭じさいに寄付金を支払って、高額寄付金受付担当助祭じょさいへの謁見許可を得ます。これが10万Gですね〉


 何か不安になることを。


「もう足りませんですワン」

〈次にその助祭に寄付金を納めて、上級聖職者謁見手続き担当の司祭への謁見許可を得ます。これが30万Gです〉


 僕は思わず尋ねた。


「すみません、それって無限に続く感じでしょうか?」

〈いえ、そんなことはありませんよ〉


 良かった。


〈その上の司教に会うのに100万G、その上の大司教に会うのに300万、そこからは一気に教皇まで飛びますので。寄付金は3000万Gですね〉


 そんなに良くもなかったな。

 謁見のための寄付金と言うのは、僕がぼんやり想像していた以上にかかるらしい。


 公園の遊具の上から親御さんに手を振る子供達を眺めなつつ、僕は尋ねる。


「教皇の所までこっそり潜入するのと、正面から殴り込みをかけるのだと、どちらが成功率が高いでしょうか」

〈あくまで目的は相手の協力を得る事ですので、どちらも成功率は低めでしょうか〉

「ボコボコにして従わせるのはどうですワン?」

〈コレット、長旅で少し疲れていますね。今日は早く休みましょう〉


 僕とコレットさんのやけっぱちな提案を、ラムダ様は穏やかに諫めてくださった。

 僕は少し面倒臭くなっただけだけど、コレットさんは、さっきからちょっと機嫌悪そうだしなぁ。

 たぶん、お城の前で僕が蹴り出されたくらいから。


 にしても、しばらくお金には困っていなかったので、ここに来て金欠で苦しむとは思わなかった。


 先日、二本松家の魔晶倉庫で回した324連ガチャでも、何度か現金は引いたんだ。聖国通貨の1000Gで。

 聖国通貨は為替レートがやたらと低くて、1000Gは王国通貨の250cコインくらいになる。

 どうせなら共和国通貨の1000Kカーネで排出してくれたら、12500c程にもなったのにな。

 こんな風に雑にお金が徴集されるから、聖国通貨の貨幣価値が下がったんじゃないかと僕は思うよ。


 ……ううん、お金の話は一旦忘れよう。

 面倒事は明日に回せばいいや。


「では、いったん宿を取って、今日はもう休みましょう。

 仕事探しも市街探索も明日から。コレットさんもそれでいいね」

「はいですワン」


 と、言った所で。


〈あ〉


 ラムダ様が気の抜けた声を出す。


「何ですワン?」

〈すみません、勇者として聖城に泊まるつもりだったので、伝え忘れていましたが〉

「はい」

「はいですワン」

〈聖都内の宿泊施設は全て牧神の神殿になるのですが、宿泊受付には宿泊業務担当権限を持つ、助祭以上の聖職者への謁見許可が必要なのですよ〉


 確か、助祭が10万Gでしたっけ。


「……お金を稼がないと駄目ですワン?」

「別に野宿でも良いけどね。お金を稼ぐなら冒険者ギルドかな」

〈冒険者ギルドは開拓神神殿なので、高額報酬の依頼を受けるには、依頼斡旋業務担当権限を持つ助歳以上の聖職者への謁見許可が必要になります……が、ああ、簡単な依頼や買取なら、謁見許可不要の侍祭でも対応できますね〉

「わふ」


 何だかもう面倒臭くなってきたし、ボコボコにして従わせるのはどうかなぁ。

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