167. ドラゴン警察

 屋台で買った串焼き(味付けはない)を齧りながら、真昼間の公園でぼんやり休憩中。


「ドラゴンの国なのに、ドラゴンがいませんですワン」


 コレットさんはそう言って首を傾げた。

 平日の昼間から公園にいるのは、3歳くらいまでの子供を連れた親子連れ。確かに見た所、人間や犬人ライカン猫人フェルパー鱗人レプティリアンと言った馴染みのある種族ばかりで、ドラゴンはいない。


 僕が過去に見たドラゴンというと、カタロース王国で学生の時に潜ったダンジョンのボス、あれがダークドラゴンだった。ボス部屋につかえて動けなかった巨体がその辺を闊歩していたら、それこそ怪獣映画のごとく、街は瓦礫の山になるだろう。


〈貴方が前に戦ったダークドラゴンは上位種ですし、あれは創世の頃に生まれた最古のドラゴンの1匹ですから、普通のドラゴンはもっと小さいですよ〉

「お兄さんはドラゴンと戦ったことがありますですワン?」

「懐かしいなぁ。動けなくなってるドラゴンの死角から、みんなで地道に鱗を剥がして、耐性が低い血管部分に直接刃物を立てて、死ぬまで毒付与攻撃を流し込んだんだよ。数時間かけてやっと倒したっけ」

「すごいですワン! ドラゴンスレイヤーですワン!」

〈あ、でもドラゴン殺しの話題はまずいですよ。話題を変えましょう〉


 気付けば、公園で遊ぶ親子連れの人達から、じろじろと見られていた。

 通報されたら大変なので、そろそろ学習しようと思う。


 そう内省していた僕達に、ラムダ様は仰った。


〈それに、ドラゴンなら先程会ったでしょう〉

「わふ? 何処でですワン?」

「えー、見逃したかも知れません」


 慌ててギルドメニューを開き、「図鑑」タブを見ると、

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▼空系

└タカ、ダンジョンコウモリ、ダークドラゴン、フェアリー、ライチョウ、ハト、コウモリ、キジ、ドラゴン

--------------------------------

 空系の種族に「ドラゴン」の項目が追加されている! おおお……嬉しい……!


「図鑑には追加されてますね。空系ってことは、上空を飛んでたのかな」

〈いえ、ドラゴンは飛んでも飛ばなくても空系に分類されます。獣系に入れると龍王が怒りますので〉

「それはそれで獣に失礼な話ですワン」


 なら何処で見たんだろう。


〈城の門番は2人ともドラゴンでしたよね〉


 ……そうでしたっけ?

 流石に門の左右にドラゴンが並んでたら、印象に残ると思うんだけど。


「門番の人は槍を持った鱗人レプティリアンじゃなかったですワン?」

「あ、そうそう。角の生えた鱗人レプティリアン


 語尾が「ドラ」だから、この辺の方言かなと思ってたけど。

 宙を見上げて首を傾げる僕達に、ラムダ様は仰った。


〈ドラゴンと異種族の混血ですよ。ドラゴンと異種族の子供は、2足歩行でも、多腕多脚でも、下半身が魚でも、種族としてはドラゴンになりますので〉

「へええ」

「あんまり有難みがないですワン」


 意外とドラゴンの基準って甘いんだな。

 そう思って改めて見回せば、鱗と角がちょこっと生えた犬人ライカンっぽい親子だったら、この公園にもいるなぁ。

 あの人達もご先祖にドラゴンがいて、種族的にはドラゴンなのかも。


〈ただ、ドラゴン自身は純血のドラゴン以外を龍人ドラゴニュートと呼んで区別するので注意してください。公の場で問題になると、ドラゴン警察が来ますからね〉

「ドラゴン警察」

「ドラゴン警察ですワン」

〈ドラゴンはプライドが高く、同じドラゴン――龍人ドラゴニュートでも、ドラゴン度が高いほど偉いとされているのです〉

「ドラゴン度」

「ドラゴン度ですワン」


 面倒臭いなぁ、ドラゴン。

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