166. 創世神? そんな神は知らんドラ

 馬車代が20日の旅程を2人で2万Gゴルド、これは出発前に支払い済み。

 数日前に通ったゲートでも入国料、2人分の2万Gを支払った。


「2万Gちょうどね。はい毎度」


 で、今払ったのが入区料、2人で2万G。

 聖都シャトーブリアンの都壁を越える時には、もう2万G必要になる。


〈ここ数千年の聖国は、何かと金銭を支払う機会が多いのですよね〉

「面倒臭い国ですワン……」

〈ドラゴンは伝統的に蓄財狂ですので〉


 小声でそんな話をしながら、大きな門の前の行列に並ぶ。行列と言っても、同じ馬車に乗っていた数人しか並んでいないし、同じ人数のラーメン屋の行列よりも遥かに進みは早い。

 知識神ラムダ様からの事前情報があったので、手持ちの現金が足りずに門前払いということはなかったけれど、これ知らずに行ったら文字通り門前払いになる可能性もあった訳だよね。


「入国だけでこんなにお金を取るんじゃ、国外からのお客さんは少なそうですね」

〈ほとんどいませんね。最近は大陸の南半分が更地になったので、その光景が見える位置に住んでいた者は北に逃げたりもしましたが、この国だけは避けて通ります〉

「それは酷い」


 大丈夫なのかな、この国……。

 このままだとすぐに所持金が尽きそうなので、早く教皇に話を通して、勇者的な権限をいただこう。

 免税措置くらいあるんじゃないかな。知らないけど。


 現在のサーロイン聖国の教皇は寿命の長い純血ドラゴンで、その親世代は神様が地上でぶらぶらしていた時代にも生きていたそうだ。だったら、魔王の危険性も話せば共感してくれるんじゃないかな。そんな風に、都合良く状況が進むと良いなぁ。


「はいはい、2人とも冒険者ね。身分証はオッケーとして、入都料2人で2万Gゴルドだよ」

「ちょうどで」

「はいはいどうも」


 冒険者メニューを開いて見せれば、僕とコレットさんの身分証明はおしまい。この辺でも冒険者ギルドの信頼度は高いようだ。

 ラムダ様は完全に同行してるレベルで話し掛けてくるけど、実際には神界から神託を飛ばしているだけなので、もちろん身分証も入都料も不要だ。



 門をくぐれば、広場から左右180度の街並が視界に飛び込む。


「わふっ、変な色ですワン」

「おおお……建物の壁が、青とか赤とか緑とか……何だこれ?」

〈それぞれの色は、それぞれの家がどの神を信仰しているかを表しているのです。青は海神、赤は熱量神、緑は複数ありますが、あのライムグリーンは生命神ですね〉


 国教が龍王信仰だって聞いてたけど、各家庭は結構色んな信仰があるんだなぁ。国教とは一体。

 にしても落ち着かないというか、目がチカチカする……。


 と言ってもこの風景が気になるのは僕だけで、純血犬人ライカンのコレットさんは識別できない色も多く、「ちょっと変わった色合いですワン」程度の反応だった。

 そういえば、初めて会った時も派手な色の制服を着てたけど、あれって本人的にはそんなでもなかったのかな。


「ちなみにラムダ様のは何色なんです?」

〈私は濃いめの灰色ですね〉

「是非とも知識神信仰を布教しましょう」


 目に優しいので。


〈それは有難いですけど……これから創世神の勇者を名乗って活動する者が、知識神の布教なんてしていたら怪しまれるのでは?〉

「言われてみれば、それもそうですね」


 街の人はこの色合いを見慣れているのだろうし、観光客ぼくの趣味で他国の文化を壊すのもあれなので、今回の布教は中止。

 僕達は街の中央に聳え立つダークグリーンのお城に向かって、大通りを進んだ。




 お城の入り口の両脇では、門番の人達が2人、槍を持って立っていた。

 軽く会釈しながら近付くと、素早く槍を交差させて立ち塞がる。


「何の用ドラ」

「入場許可証は持っているドラ?」


 部外者をお城に素通しする門番なんて居る訳がないので、これは当然の反応だ。

 まずは、僕が勇者だと認めてもらう必要があるだろう。


「すみません、ええと、創世神の勇者の者なのですが、そういう証明とか手続き? って何処ですればいいんでしょう」

〈もう少し言い方無いですかね〉


 ノープランで来ちゃいましたけど、先に役所か案内所とか探せば良かったですね。


 門番の人達は怪しむような目付きで(実際怪しんでいるんだろうし、我ながら怪しいんだけど)僕を見て、


「創世神? そんな神は知らんドラ」

「新興宗教ドラ? それともいずれかの神のローカルな呼び名ドラ?」


 そんなことを言ってきた。


〈創世神が正式名称なのですが、一般人にはここまで浸透していないのですね。今度創世神に会ったら笑ってあげましょう〉


 ラムダ様は楽しそうに仰る。

 ううん、通ぶって、伝わらない正式名称を使うべきでは無かったかな。


「あ、すみません、女神の勇者です。女神から直接魔王討伐の使命を下されたんですけど」


 なので、僕は門番の人にも伝わるように言い直す。


 しかし、それを聞いた門番の人達は大口を開けて笑い出した。


「んん? 何ドラまた噂を聞いて来たやつドラか」

「ハハハ、女神の勇者なら間に合ってるドラ!」


 で、何か蹴り出された。



 僕達はひとまずお城から離れる方向に歩きながら、ぶらぶらと聖都を散策する。

 蹴られても別に全くダメージはなかったし、「突然現れて女神の勇者を名乗る不審者」に対するリアクションとしては妥当な気もするけど……気になることを言ってたなぁ。


「女神の勇者は間に合ってるって言ってましたですワン?」

「言ってたね」


 それそれ。僕の他に、女神の勇者がいるってことだ。


〈ちょっと待ってくださいね、今確認しますので〉


 いえ、心当たりはあるんですけど。 


〈……ああ、すみません。女神の勇者でしたら、少し前から山本がそう名乗っていたようですね〉


 ほら、だと思いました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る