Chapter009:聖都シャトーブリアン

165. フィレ特別区の中央、聖都シャトーブリアン

 二本松家の屋敷から人里までが2日、そこから長距離馬車で20日ほど。

 目的地はすぐそこまで近付いていた。


〈サーロイン聖国は大陸北部中央辺りに位置する国です。

 首都はフィレ特別区の中央、聖都シャトーブリアン。

 他国の公爵家に相当する7つの宮家みやけから7人の候補を出し、7人の枢機卿によって国のトップとなる教皇を選出する形式を取っていて、その時々の教皇によって国教が変わる、国教変動型の宗教国家です〉


 馬車に揺られながら、僕達は知識神ラムダ様の観光案内を聞いている。


「一番偉い人が7人もいますですワン?」

〈一番偉い人を、7人の中から1人だけ選ぶんです〉

「なるほどですワン」


 二本松家の地下でガチャを回した翌朝、コレットさんも「減るものではないので」という理由でラムダ様の眷属となった。なので、この観光案内はコレットさんにも聞こえている。というか、僕とコレットさんにだけ聞こえるようにラムダ様が調整している。


 馬車の同乗者にはラムダ様の声は聞こえていないけど、僕が小声で何か言ったとでも思ってくれているのだろう。不審気な視線等は感じない。

 それでもずっとコレットさんが1人で喋っていると、流石に怪しまれるかもしれないので、時々は僕も声に出して尋ねておく。


「今の教皇はどんな人なんでしょう」

〈ドラゴンですね。教皇が龍王の眷属ですので、国教は龍王信仰になっています〉

「ドラゴン、というと、今回の目的の1つですね」

〈そうですね。ドラゴンの助力を得られれば、貴方の弱点である火力を、多少は補うことができるでしょう〉


 僕達は魔王討伐のための仲間集めを目的に、サーロイン聖国を目指している。

 聖国には僕と同じ異世界人の山本さんや、他にもスキルをたくさん取得した人、たくさん取得できる可能性がある人が、たまたま集結しているらしい。


 僕は今、魔王の攻撃を受けてもダメージを受けないだけの耐性スキルを持っているけれど、それだけじゃ魔王には勝てない。魔王も神の1柱だし、神と人ではステータス差が有り過ぎるからだ。

 僕が全力で攻撃した所で魔王には傷もつかないか、たとえ傷がついてもすぐに自然治癒してしまう。状態異常も高ステータスによる素の抵抗力で無効化されてしまうそうだ。それには耐性貫通スキルも意味がない。


 なので、必要なのは純粋な火力。それと数。

 魔王を少しの間でも抑え込めば、封印専門の神様が降臨して、どうにかしてくれるらしい。


〈今の教皇は古代の……と言っても判りませんか。

 1万年程前の生まれで、親世代が神代の、今より1万2千年から1万4千年程前の生まれです。

 親世代には私も直接会ったことがありますが、10を超えるドラゴンが並んでブレスを吐き掛けてくるのは、なかなか圧巻でした〉

「ドラゴンと戦ったんですワン?」

〈昔はそういうゲームがあったんですよ。普通は神は神同士、眷属は眷属同士でしか戦わないのですが、ドラゴンは多少なりと神にダメージを与えられますからね〉


 なるほどなぁ。ドラゴンってやっぱり強いんだな。


「でも、ドラゴンと戦ったみたいな話は、人の多い場所ではしない方が良さそうですね」

「じろじろ見られてますですワン」

〈本当ですね。では、何か違う話をしましょうか〉


 それからラムダ様は、聖国の観光名所や名物料理の話をしてくれた。

 名物料理が「生のキュウリ」というのは、ちょっとどうかと思ったけれど。

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