162. 眷属化の儀式

 よく知らない宗教の勧誘を受けた僕が渋っていると、二本松さんの叔父さんは急にはっとした表情になる。


「あ、お待ちください、今ラムダ様から神託が……ええ、はい、はい、わかりました」


 上を向いて目を瞑ったまま何やら頷いていたけれど、ぱっと目を開いてこう言った。


「ラムダ様から、こう伝えろと。

 いつも読んで頂いているあの図鑑、説明文を書いているのも私なんですよ――とのことです」

「えっ、そうなんですか?」


 となると知識神ラムダ様は、僕の愛読書の著者――つまり神ってことじゃないですか。




 眷属化の儀式といっても別に、血を飲むとか、紋章を刻むとか、魂を切り取られるとか、そういう話はなかった。特定の場所で心からお祈りすると、神様側で手続き(?)をしてくれるようだ。


〈あー、あー。聞こえますか? 今、貴方の心に直接語り掛けています〉


 おお、すごい。聞こえます聞こえます。


〈こちらにも声が届いています。儀式は成功ですね〉


 頭の中に声が響く感じは、亡霊の人と会話する時と似ているかも知れない。僕にとっては慣れた感覚だ。


「どうやら無事成功したようですな」

「はい、お陰様で」

「おし、なら後はラムダ様に直接お尋ねしな。俺らはこの辺の片付けでもしてっからよ」


 二本松さんの叔父さんと、二本松さんの叔父さんの従兄の人に頭を下げて、僕はラムダ様に色々と質問することにした。

 宜しいでしょうか。


〈はい、何でも聞いてください〉


 えぇと、ではまず……魔王復活の原因は何ですか?

 何か黒幕的なのはいるんでしょうか。もしいれば、そっちも対応しないと駄目だと思うんですけど。


〈黒幕も魔王の下僕もいませんよ。単なる封印の経年劣化です〉


 それは良かったです。良くもないですけど。


 それから思いつくままにQ&Aを繰り返した。

 何故魔王は封印されたのか。何故魔王は世界を滅ぼそうとするのか。などなど。

 魔王の行動の理由については「正直よくわからないのですが、強いて言えば性格の問題です。嫌がらせとか、八つ当たりとか」という身も蓋もない答えが返ってきたけれど。


 ある程度、魔王に関する情報を得た所で、もう1つ気になっていたことを尋ねる。


 どうして僕なんでしょう。


〈それは、何故貴方達が召喚されたかという話ですか?

 何故貴方なら魔王を倒せるかもしれないと、私が思ったかという話ですか?〉


 後者のつもりでしたけど、前者の方も知りたいです。


〈判りました。ではまず、何故彼女が、元の世界で亡くなった貴方達を蘇生し、この世界に召喚したかですが―――これは彼女にとっては、親切心のつもりだったと思いますよ〉


 はあ?


 ……あ、すみません、「はあ?」とか言っちゃって。


〈いえ、構いませんよ。召喚直後にほぼ全員が爆死するような状況を作った彼女に非はあります。

 1つだけフォローしておくと、ガチャの排出率は単なる設定ミスで、悪意はありません。〉


 それは……うーん、そうですか。今からでも修正ってできないんでしょうか。


〈先日直接会った際に修正依頼は出したのですが、今は魔王にガチャを回されると危険なので、修正できないとか。

 確認してみましたが、魔王は封印が解けた直後にガチャを回して、一度爆死しているようですね〉


 ええ? ちょっとよく判んないんですけど。それじゃもう世界は救われたんです?


〈神は普通に死ぬと、記憶や人格を保持したまま新品の肉体で転生するんですよ。

 昔は転生にも100年くらいかかったんですけど、色々と技術革新があって、今は数十日で転生しちゃいますね〉


 はっや。

 え、じゃあ仮に魔王を倒せたとしても、数十日ごとに繰り返し倒さなきゃいけないんですか?


〈殺すならそうなりますね。数十日は平和が訪れますし、魔王がガチャで取得したスキルはリセットされますので、全くの無駄ではありませんけど。

 まあ、再封印が妥当かと思います〉


 なるほど……あ、でも封印ってどうやるんでしょう。


〈死なない程度に弱らせていただければ、後は専門の神に対応させますよ。

 そこは流石に嫌とは言わせませんので、安心してください〉


 なるほどです。要するに、僕は大陸の南半分を1分足らずで焦土にする魔王を、死なない程度に弱らせれば良いんですね。

 あまり安心できる感じがしないんですけど、大丈夫なんでしょうか。


〈そこで、貴方なら魔王を倒せるかもしれないと思った理由の件ですよ〉


 ラムダ様は自信ありげにそう仰った。


「あれ、お兄さん寝てますですワン? 変な寝方すると首が痛くなりますですワン」

「ああ、コレット君。彼は神様との交信中なので、そっとしておいてくれますかな?」

「神様ですワン……? よくわかりませんですワン。おじさんの命令を聞く理由はありませんですワン」

「あ、ちょっと、今は駄目だと……!」

「お兄さん! お兄さん! 起きてくださいですワン!」


 すみませんラムダ様、こっち何か揉めてるので、一旦通信切りますね。


〈はいはい、落ち着いたら架け直してください〉


 思いっきり揺すられて、首がガクガクしている。

 これはもしかすると、後で首が痛くなるかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る