161. 10歳くらいの蝙翼人の子供達
切り立った山、というか崖の上にある二本松家の屋敷跡。
武士山家の工作員は、
前からちょっと思ってたけど、あの人達に「効率」って考え方はないのかな……?
「ん? いや、何も魔法力を搾り取るためだけに、我らは攫われたわけではありませんよ」
二本松さんの叔父さんはしかし、少し意外そうな顔でそう言った。
「
彼奴らが我らを狙ったのは、二本松の魔法力抽出術を狙ってのことですな」
「というと、生きてる人から魔法力を抜き出してガチャに使うやつですか?」
「ガチャに限らず、何にでも使えますよ。
この屋敷の光熱設備は、住民から抜き出した魔法力で補っておりましたし、飛べない種族の客のために、麓からここまでを繋ぐケーブルカーも運行しておりました。今は止まっておりますが」
なるほど、誘拐犯達はそのケーブルカーでここまで乗り込み、捕えた人達を運んだのか。
鴨が葱を背負って来たというか、鴨が荷車を用意してきた感がある。
じゃなかった、そっちはどうでも良いんだ。
「その魔法力を抜き出して使う技術というのが、二本松家の秘伝ですか?」
そういえば、二本松さんが
魔王討伐に活かすなら、周囲の人から力を分けて貰って大魔法を放つ、みたいな感じかな。
いかにも主人公っぽいぞ。実戦で使えるかどうかは別として、ちょっと楽しみになってきた。
と思ったら、叔父さんは慌てて首を横に振る。
「ああ、違います。そちらはそれなりの設備が必要と時間が必要ですし、個人で運用できるものではありませんな。詳しい話は屋敷跡の中、誓約の間のあった辺りで……」
そう言って屋敷の跡地を振り返り、おや、と首を傾げた。
「……明かりがついている?」
半分以上が崩れている屋敷の、まだギリギリ屋根と壁が残った部分。
言われてよく見れば、その窓から人工の淡い明かりが窺える。
「おーい! ちょっと来てくれ!!」
二本松さんの叔父さんの従兄の人が、その傍で大声を上げた。
「なんと……お主ら、ずっとここで暮らしておったのか……」
伯母さんの夫の兄の人が震えるような声で呟く。
そこにいたのは、10歳くらいの蝙翼人の子供達だった。
リーダーらしい少年が、庇うように他の6、7人の前に立ち、泣きそうな顔をしている。
「
伯母さんの夫の兄の人は、リーダーっぽい子に目線を合わせて尋ねた。
「は、はい……あの、ここは、皆さんの家だったのでしょうか……」
「ああ、そうじゃよ」
「やっぱり……! あの、勝手に使ってしまってすみません!」
「いやいや、それは気にせんで良いぞ」
どうやら、この山の天辺で
といっても、ここは都市部と違ってマナも豊富だから食事はしなくても済むし、外敵も武士山家の誘拐チームくらいしか来ない場所だ。その誘拐チームだって、欠員補充の誘拐はもっと人里に近い場所でしていたようだし。
「何人かは人里を目指すって言って、飛んで山を下りました。俺はここに残って、新しく
「今までよう頑張ったのう……」
聞けば、この1週間ちょっとで生まれた子も数人いるようだ。少し前に大勢亡くなったから、その分の
子供達は二本松さんの伯母さんの夫の兄の人とコレットさんに面倒を見てもらい、僕は二本松さんの叔父さんと、二本松さんの叔父さんの従兄の人と3人で、誓約の間なる部屋のあった辺りの瓦礫を掘り返した。
どうにか3人が座れるスペースを作った所で、3人が車座を作る。
「少し待っていただけますか。ラムダ様にお伺いを立てます」
叔父さんは目を瞑って軽く俯き、そのまま黙り込む。
「今、
兄ちゃんに、この秘伝を伝える件でな」
「あ、なるほど。秘伝って神様と交信する的なやつのことだったんですか」
叔父さんの従兄の人の言葉に、僕はようやく得心が言った。
「何だ、知ってたのか?」
「ちょいちょい神様に話を聞いてるようなこと言ってましたし」
「ちぇっ、つまんねえな」
そのまま少し待つと、叔父さんのチャネリングが終わったらしい。
目を開いてこちらを真っ直ぐに見る。
「我が一族の秘伝について、既にご理解いただいたようですが。
二本松家は代々、知識神ラムダ様の眷属でして、ラムダ様と直接対話することができるのです」
神様と直接対話。それなら真偽の怪しい大昔の資料を漁るよりも、確実な情報が得られるということか。それも相手は知識神という、いかにも知識がありそうな神様だ。
「では、僕の言葉を神様に中継して、一問一答形式で答えてもらえる感じでしょうか」
「いえ、それならばこの場所に来なくとも、適当な宿で事足りました。
あなたには直接ラムダ様とお話していただきたい。ラムダ様もそれをお望みです」
「え、直接神様と話せるんですか? 眷属でもないのに」
それも、神と直接話した結果として【ガチャで
また変な呪いをかけられそうで怖いんだけど。
うーん、今回は先方からの指名もあるし、ノリで変なことさえ言わなかったら大丈夫かな……。
そんな風に悩んでいる僕に、叔父さんは笑ってまた首を横に振る。
「ラムダ様への信仰心が多少なりあれば、短い神託を受ける程度は可能です。
しかし、眷属でなければ直接お話しすることはできませんな」
んん。つまりどういうことだろう。
「だから、兄ちゃんもラムダ様の眷属になるんだよ」
「そのための儀式をここで行うのです」
んんん。
またちょっと不安になってきたぞ。
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