160. アリ、アリ、アリ、アリ
イチボ国は大陸の北東、テール将国とランプ国の間に位置する小さな国だ。
貨幣圏としては鉄道で繋がれた大陸東部で流通する共和国通貨
将国もお隣だけど、鎖国してるので将国通貨は流通していない。両替は冒険者ギルドで出来るけど。
「アリ、アリ、アリ、アリ」
「アリ、アリ、アリ、アリ」
聖国なんて名前の国を親玉にしていることからも想像がつくように、この辺は宗教団体が多い。
二本松家は知識神を祀る感じの一族だったけど、そこから2日ほど歩いた先には酒神の大神殿(という名の醸造所)があったし、他にも大小様々な宗教施設が散らばっている。お隣のランプ国も似たような感じで、首都にある開拓神の総本山は冒険者ギルド発祥の地とされているそうだ。
「アリ、アリ、アリ、アリ」
「アリ、アリ、アリ、アリ」
由緒ある24大神の神殿もあれば、よくわからない新興宗教の事務所もある。毎日祈りを捧げればレアドロップの出現率が上がる「希神教」というのが気になったけど、24大神以外は大体インチキらしいので、パンフレットを貰うに留めておいた。物欲を無にするのが重要らしいよ。
「アリ、アリ、アリ、アリ」
「アリ、アリ、アリ、アリ」
あと、人族の中でもこの辺には少数種族が多く住んでいるそうだ。二本松家の蝙翼人もそうだし、他にも色々。地方全体の宗教色が強いのは、マイナー信仰を持つ少数種族の拠点が沢山あるのも理由なんだって。と言っても、
この辺は他の地域で見かけない魔物も結構いるし、出会った種族が記録される図鑑――ギルドメニューの「図鑑」タブにも、随分と新しい項目が増えた。
将国では砂糖黍くらいしか増えなかったから、これは正直かなり嬉しいな。
「アリ、アリ、アリ、アリ」
「アリ、アリ、アリ、アリ」
……。
さっきからアリアリ言ってるのは
何でアリなのかと言えば、駕籠舁の皆さんが、
駕籠には床と屋根があるだけで壁はなく、景色もよく見えるけど、周囲の徒歩旅行者からも羨まし気に見られるのが難点かも知れない。
とはいえ、コレットさんは楽しそうに尻尾を振っているので、有りか無しかで言えば
「アリ、アリ、アリ、アリ」
「アリ、アリ、アリ、アリ」
有りなんだろうけど。
二本松さんの叔父さん達が、収容所からの略奪品を売ってお金を工面している間、僕とコレットさんも旅の準備をしていた。
旅装や薬を補充したり、コレットさんが拾った刀に合う鞘を買ったり、今後使わないだろう将国通貨を聖国通貨に両替したり、ついでに冒険者ギルドで情報を集めたり。
そう。冒険者ギルドで聞いたんだ。
魔王が大陸の南半分を灰にしたって。
南半分って、何処までの範囲だろう。
船で大陸の南西端から南東端に移動した時に通ったスネ国は、間違いなく含まれるだろう。
植民地の範囲も含む帝国の6割以上が被害を受けたそうだから、ソトモモ共和国も何割かは南半分に入るだろう。
僕の義手を造ってもらった
「アリ、アリ、アリ、アリ」
「アリ、アリ、アリ、アリ」
このまま魔王が大陸中で暴れまわって、僕の知ってる人がみんな死んでしまったら、僕がこの世界を救う意味はあるのかな。
「アリ、アリ、アリ、アリ」
「アリ、アリ、アリ、アリ」
とはいえ、今はまだ間違いなく意味があるんだし。
二本松家の秘伝と言うのも、なるべく早く教えて貰うべきだ。
「お兄さん! 大きな滝がありますですワン!」
「本当だ。すごいねぇ」
「アリ、アリ、アリ、アリ」
「アリ、アリ、アリ、アリ」
駕籠を挟んで前後に並んでいた
予告なしでやられると、ちょっと怖すぎるんだけど。ダメージを受けない僕や、最悪空を飛べる蝙翼人の人達はともかく、コレットさんは大丈夫だろうか……と思ったけど、大丈夫そうだなぁ。楽しそうな声が聞こえるし。
崖を登り切って、滝の上の川を見ると、そこにはコイが泳いでいた。
え、まさかとは思うけど、この滝を登って来たの? そんなこと有る?
「アリ、アリ、アリ、アリ」
「アリ、アリ、アリ、アリ」
いや、普通にこの辺で
どっちでも良いけど、また新しい種族だ。メニューから図鑑を開いて確認すると、後ろの方に「コイ」の項目が増えていた。やった。
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■コイ
種族:コイ 平均寿命:20年
▽概要
イチボ国、テール将国周辺の山岳地帯に住む魚です。
地球のニシキゴイと似たような外見ですが、額に短い角があります。
主に滝壺でポップし、その滝を登ろうとする習性があります。登り切るとその場で産卵し、そのまま余生を穏やかに過ごします。
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滝、ちゃんと登ってたんだ……疑ってごめんね……。
あと、寿命20年もあるのに、ずっと穏やかに暮らすのは、ちょっと素敵だな。
魚が図鑑に登録されたのは、実を言うとこれが初めてなんだよね。生きた魚なんて、ずっと前にラビットフィールドの川でフナを見たくらいで、後は食材と料理だけだったから。
「お客さん、駕籠の中で小さい字を読んでると酔うアリよ」
なお、駕籠舁の人は普通に「アリ」以外の言葉も喋ることができる。
契約時は普通に喋ってたし。
「あ、すみません。酔いには強いので大丈夫です」
車酔いは邪法耐性で防げるので。
「そうアリか。大丈夫なら大丈夫アリ」
「アリ、アリ、アリ、アリ」
「アリ、アリ、アリ、アリ」
駕籠は何事も無かったように山道を進んでいく。
ここまで来るのに何日もかかってしまったので、単純な拘束時間分の人件費だけで考えても、僕が払ったお金より数段高くなっているはずだ。
途中途中のチェーン店で毎日駕籠を運ぶ人員が交代してるし、夜にはそこで宿泊もできる。
山道や小川どころか、さっきみたいな崖もスイスイ登る。圧倒的な機動力。
徒歩でここまで来るのは普通の人にはつらいし、馬車や列車が通れる道でもない。
地域密着型の見事な交通サービスだと思う。
「アリ、アリ、アリ、アリ……アリーッ!」
「アリ、アリ、アリ、アリ……アリーッ!」
駕籠が止まった。
「おう、着いたぞ、出てこい! ここが二本松家の……跡地だ!」
二本松さんの叔父さんの従兄の人の声に従い、僕とコレットさんはその地に降りる。
国外脱出おめでとうパーティの翌日に出発して、6泊7日。
野を越え山を越え、崖を登って、ようやく目的地に到着だ。
「どうじゃの。ここが二本松が代々住んでいた地。知識神ラムダ様の総本山じゃ」
二本松さんの伯母さんの夫の兄の人は言う。
伯母さんの夫の兄の人は、代々の二本松家とはあまり関係ないような気もしたけれど、そんな話は今は良い。
駕籠に壁は無いから、周囲の様子はずっと見えていた。
だけど、改めて見渡すと……とんでもない景色だ。
蛇行した登山道以外はほぼ垂直に近い岩肌の上に、サッカーコートくらいの平地がある。
疎らに生えた木々の向こうには、足元より低い位置に雲が見えた。
滝の水源となっている泉があって。
その近くに、ほとんど残骸となった廃墟があって。
「……武士山家の人達は、よくもわざわざこんな所まで
他人様の地元に、こんなこと言うのも悪いとは思うけどさ……。
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