158. ◇神代日常記録(魔王蛮行関連箇所抜粋)4/4
資料を纏めるために大昔の日記を確認していたのですが、改めて読み返すと……私、あまり魔王ガンマの話はしていませんでしたね。
当時から担当者がいなくなった事務仕事の大半が私に回されて、それほど暇が無かったというのもありますが。それ以上に、彼女とは個人的な付き合いもありませんでしたので。
省みれば、魔王の復活は創世神オメガの管理不行届が原因のような気もします。
ブリスケット商王国の王族に封印の管理を任せた等とありますが、あの国は数千年前に国号を改める際、王制を廃止して会社制を導入し、当時の王族も追放されているのですよね。最近たまたま末裔を見掛けましたが、使命どころか信仰心まで忘れてますし。お陰で国土も更地です。
勿論、創世神も多忙ですので、彼女ばかり責める訳にも行きません。
冥王が無事な内なら、冥界に転がしておけば良かったんですけど……いえ、後からは何とでも言えますね。
「何を読んでいるのですか。……神代日常記録?」
噂をすれば創世神です。直接会うのは1000年ぶりくらいでしょうか?
「私の日記のような物です。恐らく近日中に、眷属から魔王関連情報の問合せが来るはずですので、それまでに資料を纏めようかと」
「それはご苦労様です。……あの下衆めは、私達が育てた大陸の半分を更地にしたようですね」
「そうですね。ずっと封印されていたせいで、感覚が神代で止まっているんですよ」
主神争奪トーナメントで、眷属を手駒にボードゲーム感覚で争っていた神代。
眷属に加護と指示を与えて世界を発展させる、シミュレーションゲーム感覚で遊んでいた古代。
直接手を出すことはやめ、管理維持だけに注力してペットを見守る感覚で楽しんでいる現代。
何度も言うようですが、神代のノリを現代に持ち込まれても迷惑なんですよ。
というか、仕事もせずに神界で暇してる神々が直接降臨して対応してくれないのでしょうか。くれないのですよね。
創世神は言いました。
「ああそうです。ついでがあれば、私が送り込んだ異世界人達の様子も確認していただけますか?
かなりの数を送りましたので、総合力としては育ってきたと思うのです」
表情を見る限り、恐らくは真剣に。
なので私も真顔で答えました。
「初日でほぼ全滅しましたよ」
「……は?」
「初日というか、最初の10分で」
絶句していますが、自分で送った異世界人達の様子を確認いていなかったのでしょうか。
いえ、恐らく神界から見下ろしてはいたんでしょうね。広域で。
「何故です? 転移先は弱い魔物しかいない土地だったはずですが」
「それは2000年は前の話ですね。今は大型上位種もいますよ」
「……では、その大型上位種に殺されたのですか?」
「いえ、ガチャ爆死です」
「…………?」
何を言っているのか判らない、とでもいうような顔をしている創世神に、現在のガチャの排出率について改めて説明しました。
絶句していますが、私これ1万年くらい前に報告上げてるんですけどね。
主神争奪トーナメントが終わって時代区分が古代に移りつつある頃、神々用に作られたガチャシステムを、人族や魔物向けに調整するという計画が立ち上がりました。
当初に移植作業をしていた運命神デルタが、いくつかのスキルやアイテムを追加して、悪名高い
そのタイミングで、トーナメント時に運命神が不正――自分が回す時だけガチャの確率を操作していたことが発覚したのです。
それで、トーナメント初戦で運命神にボコボコにされていた熱量神ファイはそれを聞いて激昂し、運命神に全身全霊の封印を施した訳です。
その運命神は今なお封印されたままなのですから、それを管理している熱量神の眷属は優秀ですね。ああ、念のため明記しておきますが、これは皮肉です。
ともかく、その後ガチャシステムの管理は創世神が引継ぎましたので、修正要望は創世神に送っています。
リリースした半年後には不具合報告フォームに送ったんですよ?
ただ、創世神は本当に多忙ですから、報告を見落としていたのでしょう。同じ要望は再通知されないので、私もそれ以来忘れていました。
異世界人に1日1回ガチャ無料特典を与えたと聞いた時にやばいとは思いましたが、既に後の祭りでしたね。
「生き残った2人はもう【爆死】も引かないとは思うのですが、確率を再設定しても良いのでは?」
「いえ。今設定を変えてしまうのは、むしろ危険です」
「と言いますと」
「あの下衆がガチャを回すようになるでしょう。そうなれば、もう手が付けられません」
「ああー……」
封印前に全てのスキルは剥奪しましたが、十分な魔法力さえあればガチャ回数に上限のない今、魔王なら毎日自分の魔法力を注ぎ込んでガチャを回せるだけ回すでしょうね。魔晶鉱山も片っ端から占拠して、全て枯れるまで回し尽くすでしょう。
「一応聞いておきますが、創世神は直接魔王の討伐には……」
「行けません。万一私が消滅すれば、いよいよ世界は滅ぶでしょう」
「でしょうね。では、他の暇そうな神々に討伐令を出して頂くことは?」
「言うだけで良いなら言いますが、無駄でしょう。私は主神でもありませんので」
「でしょうね」
知ってました。
私も、暇そうな神々の内、直接会えた相手には言うだけ言ったのですけどね。
「消滅は怖い」「魔王は嫌いだから会いたくない」「自分がやらなくても良いだろう」という旨の内容を、様々な修辞と共に語ってくれたのみでした。
誰かが何かをやらない理由というのは、聞いても無意味なものですね。
「貴女自身はどうなのです」
「私は、色々と仕事もありますし、武闘派でもないので」
私も他所のことは言えないのですが。
何だか、異世界人達に申し訳ない気分になってきました。しばらく眺めている内に、思い入れも出来てしまいましたし。
サポートをさせようにも、私の眷属はほぼ全滅してしまいましたし、資産も残っていません。
……せめて、協力者候補くらいは探してあげましょう。
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