157. ◇神代日常記録(魔王蛮行関連箇所抜粋)3/4

 魔王ガンマの権能が封印に類する物でないことは、最早明らかでした。

 熱量神ファイ、魔神シグマ、転生神ニューが行った共同調査によれば、それは炎熱/神聖/邪法の3属性を持った必滅の力だそうです。


 炎熱属性による効果は「肉体を灰にする」ことを目的としています。

 直撃した者は生物、無生物を問わず灰になります。具体的には肉体への10割ダメージです。


 神聖属性による効果は「霊魂を捩じ切る」ことを目的としています。

 直撃した者は肉体と精神の繋がりを断たれます。具体的には霊魂への10割ダメージです。


 邪法属性による効果は「精神を磨り潰す」ことを目的としています。

 直撃した者は心を失い抜け殻になります。具体的には精神への10割ダメージです。


 一時的に霊魂を遮断する状態異常の即死状態とは異なり、存在の構成要素に純粋なダメージを与える攻撃ですが、その内のどれか1つであれば、我々神にとっては実質、一時的な拘束に過ぎません。

 転生の際に肉体は新品状態で再生しますし、霊魂は肉体と精神に沿って再構築できますし、精神は霊魂か前回の肉体が残っていれば復元できます。


 ……いえ、死体の管理者でもあった不死王が消滅したことにより、神を含む全ての存在は死亡後に肉体が残らなくなったので、現在は精神の復元については霊魂の確保が必須なのですが。



 法神プサイの下した判決により、魔王には封印刑より重い、永久の投獄と拷問の罰が科せられることになりました。

 冥王ローの管理する冥界の奥底――転生前の社会貢献者が名誉を受け、社会阻害者が罰を受け、どちらでもない者がぼんやり生前を懐かしむ「死後の世界」より更に深く。地獄と呼ばれる収容施設で拘束され、主に痛みを中心とした責め苦を受け続けています。




 主神争奪トーナメントは決勝目前で有耶無耶になり、主神の座まであと一歩だった創世神オメガなどは未だに不機嫌な様子です。今回行われた第6シーズンはトーナメントの最終節であり、これによって主神が確定するはずだったのですが、結局、現在も24神に主神という役職は存在しません。


 私自身も色々と思う所はありますが、中断にせよ何にせよ、トーナメントが終わったからには日常業務に戻らねばなりません。


 私は利用者が増えつつあるギルドメニューの管理について、開拓者ギルドの祖である開拓神パイに相談し、「ギルドメニューのシステム自体は自分が作った物ではないので判らない」という、真実何の役にも立たない回答を受けた所でした。

 もうこのメニューの扱いは適当で良いですね。息抜きに図鑑機能だけ充実させましょう。


「ところで、魔王ガンマの話は聞いただろうか」


 仕事の話が終わったと見て、開拓神は早速雑談を始めます。

 私も急いでギルドメニュー関連の対応をする必要がなくなったので、それに付き合うことにしました。


「540年前に針山地獄へ送られた所までは聞きました」

「知識神を名乗る割に、情報が遅いのではないだろうか」

「神に寿命はないのですから、終末までに全ての情報が揃えば帳尻は合うのです。

 それで、その最新情報というのは何なのですか?」


 私がつまらない煽りには屈しない断固とした姿勢を見せると、開拓神は若干の呆れ顔と共に鼻息を噴き出してみせます。屈しませんが。


 開拓神は言いました。


魔王ガンマ冥王ローを消滅させて逃げたようだ。冥界も既に崩壊した」


 えええ。


「それは、とても不味いのでは?」

「とても不味い。神界はすぐに厳戒態勢に入る」


 これは出歩いている場合ではないですね。幸い、私の担当業務は概ね在宅でも対応できるので、しばらく引き籠りましょう。

 しかし、1つ気になる点があります。


「どうして私にはその情報が回って来ていないのでしょう」


 ここで話を聞かずにうっかり鉢合わせたら、私も消滅させられていたのでは?


「まずは武闘派の神々に情報を回し、先程まで警備等について相談していた。全体への連絡はこれからだ」

「ああ、成る程」


 私だけ忘れられていた訳でも、虐められていた訳でもないのですね。少しだけ安心しました。


「それと、魔王ガンマが最初に行く場所は判っている。

 脱獄の際に彼女が公言していたらしいが、法神プサイの所だと言う」

「冥界送りにされた逆恨みですか」


 同僚の存在を消し飛ばしたのですから、妥当な判決だったのでは?

 いえ、冥界ごと崩壊した今、本当に妥当だったかは別の意味で疑問が出てきましたが。


「何にせよ、話は判りました。私はしばらく引き籠ります」

「解った。念のため帰り道も気を付けると良い」

「はい、お互いに」


 私は開拓神に別れを告げ、在宅作業用の買い出しを済ませて帰宅しました。

 折角時間があるので、図鑑機能の本文に眷属が調べた情報も加筆していきましょう。




 そうして、それから100年も経たない内に魔王は捕縛されました。法神の消滅と引き換えに。


 四肢と両眼と喉を潰された魔王は、今度は封印刑に処されることになりました。

 冥界は既にありませんし、改めて同等の施設を作っても維持できる者(つまり維持作業に従事する余裕のある者で、維持しようという意欲のある者)がいません。

 消去法で一番重い刑罰が封印刑になりますし、拷問だ何だと下手に肉体の自由を残しておいて、また脱走されても困ります。


 封印措置を施した魔王は、大陸西方の地に適当な聖堂を建てさせて祀ることになりました。創世神の眷属である猫人フェルパーの一族が、最近その辺りにブリスケット商王国なる自治体を樹立したのです。魔王の管理は彼らに任せるとのことでした。

 詳細な指示は私の眷属の蝙翼人から伝言させたのですが、拠点の位置が大陸の西と東に離れていますので、意外と手間がかかりましたね。大陸全土で各神々を奉じる宗教に介入して、聖典を弄り、部分的に私の信者になるよう工作しておきましょう。長文神託はともかく、簡単な神託ならそれでも下せるはずです。


 何にせよ、これで一段落ですね。

 眷属達もよく働いてくれましたし、きちんと労っておきましょう。

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