156. ◇神代日常記録(魔王蛮行関連箇所抜粋)2/4

 今シーズン、私の第2戦は海神カイが相手です。


 私の眷属の主軸は蝙翼人。鳥の翼を持つ有翼人を、コウモリの要素でカスタムした比較的新しい種族ですが、情報戦に秀でた能力が多い点は好みです。

 飛行型種族は大抵の環境で地形的有利を取れますし、人間ベースの変異種はバランス良く高めのステータスに加え、性格が素直なのも利点ですね。いくら能力が高くても、信心の浅い種族は主神争奪トーナメントに向いていません。


 対する海神の眷属はマーメイドが主軸で、いつも通り海洋フィールドを拠点としています。

 眷属同士の戦争の際は、水中に潜ることこそ出来ないものの、相手も空中の蝙翼人へ攻撃するには浮上する必要があります。


「空から毒物を散布し、拠点海域を汚染すれば壊滅です。

 拠点の跡地は謎の海底遺跡として、未来の人々にロマンを残してください」


 海神は自分が有利な海からは絶対に出て来ませんし、私も相手のホームに攻め入る気もないので、この試合で直接戦闘による勝敗点は発生しません。全ては眷属から得られる信仰点で決まるでしょう。

 こちらが楽しく大人しく文化を発展させていた所に、川を遡行して奇襲を掛けて来たのは海神の眷属達です。

 私の権能を使えば、眷属に直接詳細なメッセージを伝えることが可能なので、襲撃者の拠点の位置と対策を啓示しておきました。優秀な眷属達は早速一番近い海岸へ進軍し、今しがた攻撃を開始した所です。


 海面が判りやすく毒々しい紫色に染まり始めた頃、マーメイド達が泡を食って浮上してきます。「マーメイドが泡を食う」というのは、何か上手いことを言ったような雰囲気がありますが、それほど何かと掛かっている訳でもないですね。


 弓を構えるマーメイドに我が蝙翼人達も弓で対抗します。弓での勝負なら高さのアドバンテージは大きいと言えるでしょう。


「ふふふ……大人しく海底都市でも作っていれば良かったものを、これは自業自得と…………んん?」


 よく見ると、周囲のマーメイドより一回り大きな弓を構えた、角マーメイドがちらほら混ざっていますね。角マーメイドはマーメイドより高いステータスを持ちますが、個体数が少なく、マーメイドと同様にほとんど自然繁殖を行いません。海神も過去シーズンでは滅多に選択しなかった眷属ですが、用心棒のつもりでしょうか。


 と。


「えっ」


 角マーメイドの放った矢が1人の蝙翼人の翼に掠ると、破裂するような勢いで翼が吹き飛び、射られた者は海面に落下しました。いや、何ですあれ。

 その後も、角マーメイドの放った矢は個体差はあれど、蝙翼人達に想定以上のダメージを与えているようです。


「て、撤退! 撤退してください!」


 私は慌てて神託を飛ばし、眷属達は速やかに海上から離脱しました。




 ハーフタイムになったので神界に意識を戻し、私は共有スペースのソファで先程の戦闘を振り返っていました。

 そこへ創世神オメガがやって来て、隣の席に座ります。


「2回戦の調子はどうですか? 相手は確か、あの傲慢な半裸白髭男でしたか」

「傲慢な半裸白髭男って……」


 間違った認識ではありませんが。


「今の所は信仰点の差で勝っていますが、集落が襲われ続けると逆転される可能性もありますね。

 どうやら、海神はポイント取得の初期スキルで【対空特効:超級】から【対空特効:中級】辺りを揃え、【スキル譲渡】で眷属に与えているようです」

「……ああ、成る程。貴女の眷属は翼人種でしたか」


 対水特効スキルの実装はゴネにゴネて取り下げさせた癖に、自分は特効スキルで固めてくるとは……恥知らずな半裸白髭男です。



 それから創世神の試合状況についても聞いた後、話題は雑談へと移行しました。


「そういえば、食神はまだ戻りませんか?

 以前より食文化が明らかに悪化していて、繁殖にも問題が出ていますよ」

「戻らないようですね。熱量神によれば、そもそも何処に封印されているのかが判らないという話ですが」


 創世神の話を聞いて、私はつい顔を顰めてしまいました。

 封印システムの開発者である熱量神ファイは、魔王ガンマによって試合中に封印された、食神イータの封印解凍を任されています。罪もないのに封印されたままでは、流石に彼が不憫ですから。

 しかし、その封印場所さえ解っていないということは、つまり何も進んでいないということです。


 マーメイドは基本的に女性のみの単一性で、滅多に繁殖を行わないので影響も少ないでしょうが、こちらの眷属には相応の悪影響が生じています。封印場所さえ判れば対応できるのなら、知識神の名に懸けて捜索に協力することもやぶさかではありません。

 いや、そもそもです。


「魔王に聞けば良いのでは?」

「あの下衆はだんまりです。不愉快な目付きを隠そうともしない」


 相変わらず、創世神と魔王は相性が悪いようですね。


 魔王と言えば、今は不死王シータとの試合中だったでしょうか。

 彼女は初期スキルを【幸運値倍加】と【幸運値上昇:超級】から【幸運値上昇:下級】に極振りしていましたが、ガチャで得られるランダムスキルに有意な差が出てしまい、流石の不死王も苦戦しているようです。

 運ゲーで主神になるというのは、ジャンケン大会でセンターを取るアイドルと同様、周囲からの目線は厳しい物になると思うのですが……個人的には、ロマンがあるとも思います。




 創世神との会話から200年、後半戦が終了した時点で、最終的に私は海神との試合に勝利しました。頭数あたまかずが違いますからね。負ける要素は無いんですが。

 ただ、準決勝となる第3戦は創世神と当たるので、恐らく勝ち目はないでしょう。


「ぐぐ……下衆めが、また、ふざけたことを………」


 その創世神は相当気が立っている様子で、先程から自分の奥歯を噛み砕いては再生するのを繰り返しています。


 それというのも、魔王が第2戦の最中に対戦相手の不死王に封印を仕掛けたのです。

 試合終了まであと100年を切った時点で、普通に殺しても試合中の復活はない状況だったにも関わらず、魔王は瀕死の彼女に対し、例の炎のような権能を浴びせました。


 そして彼女も食神と同様、その痕跡の一切が消えてしまったのでした。

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