153. 一族を滅亡に導いたあれに、せめて一矢報いねばなりませぬ
「あ、二本松さんの叔父さん」
「おお、これは……生き延びておられたか」
臭いを辿ってやってきた森の奥、集まっていたのは3人。
二本松さんの叔父さんを始め年配の方ばかりだ。
「他の者は、全員死にました」
僕が尋ねる前に、叔父さんは言った。
今森から出たら、そのままさっきの続きだ。ひとまず1泊してから動こうという意見は一致した。
荷物は逃げる時にほとんど捨ててしまったようだけど、マナ濃度の高い森の中なので食料はそれほど必要ない。
少し残っていた食料と、僕達の持っていた携帯食料を合わせれば5人の1泊分には十分だった。余裕があれば採集なり、肉を落とす魔物を狩るなりしたいけど、ちょっと疲れた。
適当に草を摘んでドロップした木の枝で焚火を作り、魔物避けにする。見張りは任せて良いと言われたので、お言葉に甘え、僕はコレットさんと一緒に毛布にくるまった。
「あの芸者は確かに武士山の手の者。しかしあの6腕の剣士は、武士山とは無関係だというようなことを言っておったな?」
「刀を振ったと思えば、遠間に当たりやがる。そして当たれば死ぬ」
「高度が大して有利にならんのじゃ。夜目も利いたのう」
「三方から同時に、差し違える気で行けば一太刀は……」
コレットさんが寝息を立て始めても、3人はまだ眠らずに相談を続けている。
口を挟みたい気持ちはある。ただ、どうしても今日はもう無理。寝る。
翌朝。残った食材で朝食を摂りながら、寝る前に聞いた話について、思ったことを伝えた。
「昨日の人ですが、3方向へ同時に飛ぶ連撃を放ってました。3方向から切りかかっても、同時に殺されるだけだと思います」
「……ははは。聞かれていましたか」
「寝る前に少しだけ、聞こえてしまったんですが」
二本松さんの叔父さんは笑って頭を掻いた。
「逃げた方が良いと思います。たぶん、高く飛べば、あれは届きませんよ」
昨晩、夢の中でも考えてた。あの
念動力と飛ぶ斬撃の違いは、戦闘用途に限っては大差ない。念動力より鋭い分だけ射程が短くなるか、細い分だけ長くなるかは知らないけど、極端な差はないだろう。遠くに飛ばすのはすごい疲れるし、飛ばせる距離にも限度がある。
そこまで言ってしまうと、僕がインテリヒツジや蝙翼人の秘伝を知っていることがバレて、場合によってはこの場で殺される可能性もあるので、言わないけども。
「まあ、そうでしょうな。あの後、我々もその予想には至りました」
それもそうだろうなぁ。
蝙翼人の使う圧力魔法は、揚力を操って空を飛んだり、反射音を受け取って地形を調べたりする物だから、飛ぶ斬撃とは全然使い方が違う。だからもしかしたら、あれをただの飛び道具だと考えているのかも知れない。とはいえ、魔法も投擲も距離で威力が減衰するのは同じだし。
「なら、そちらは安心ですね」
こっちはこっちで適当にやろう。
コレットさんの嗅覚があれば、風向きにもよるけど、相手の位置は大体わかる。
次に見つかったら、たぶん逃げられないけど、見つからなければ良いだけだ。
「しかし、そうも行かぬのです」
と、考えていた所に、二本松さんの叔父さんはそう言った。
「二本松家の再興は最早不可能。
ならば、一族を滅亡に導いたあれに、せめて一矢報いねばなりませぬ。無論、あなた方にお付き合いいただくつもりはございませぬが」
つまり、死ぬ気で立ち向かって死ぬ、ということだ。
他の2人も同じ意見らしい。
そうなると、二本松家ではない僕が口を挟むのも、何だか気が引ける。
「わかりました。僕達はそろそろ出発しますが、皆さんはどうされますか?」
「夜まで待って、少しでもこちらに利のある状況で仕掛けます。
それと、神話についてお聞かせするという約束ですが、果たせそうにないので……何か、書く物はお持ちですかな?」
叔父さんは二本松さんの遺言を覚えていてくれたようで、僕が渡した紙とボールペンに、さらさらと紹介状的な物を書いてくれた。これを神職関係の人に見せれば、詳しい話を聞かせて貰えるという話だった。
本当かな? 弟さんが散々駆け回って全く協力を得られなかった神職関係者の横の繋がりには、正直、あまり期待できない気もするけど……。
「運が良ければ、あれに
「ありがとうございます。皆さんにも幸運を」
「さようならですワン」
その場に残った3人に手を振って別れ、僕とコレットさんは森の出口へ向かって、のんびり歩いていく。
「くんくん……向こうの方に、あれがいますですワン」
「森の中? 外?」
「中ですワン」
「なら、ここから慎重に行こう」
やっぱり、まだその辺にいたか。いるかもな、とは思ったけど。
相手に見つかる前に気付けたのは、運が良かったなぁ。見つかったら終わりだし。
「じゃ、見つかる前に仕掛けよう」
「はいですワン」
どうせ森から出たら見つかるし、見つかったら追い付かれて死ぬんだし。
やり方は、夢の中でも考えてた。
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