151. 5秒以内に立ち止まって戦闘に入らないと、10秒後に死にます!!

「そいつらやばいです! 全員逃げてください!!」


 危機感知スキルが死ぬよというので、一言警告するとコレットさんを抱えながら、後ろを向いてダッシュした。


 僕の言葉ですぐに動いた人は、1人もいない。


「おっとォ、逃げるなよォ?」

『危険! 危険! あと1歩以上進むと死にます!!』


 咄嗟に足を止めて後ろに跳び下がると―――寸前まで僕がいた場所に刀を振り下ろし、横薙ぎにし、切り上げた状態で残身を取った、死死死の人がいた。


 1秒遅れて、ぞくり、と震えが来た。


「お? 今のを避けたかァ? 死死死死シシシシ……」


 先程まで、蝙翼人の人達の集団を挟んだ向こう側……10メートル以上先にいたはずなのに、気付けば僕の進路に回り込んでいる。え、いつの間に?

 それに、あの刀もただ斬っただけじゃない。切断耐性100%の僕が攻撃だ。間違いなく何らかのスキルは持っている。


「お前は後な。ちょっと待ってろよ?」


 それだけ言って、またすぐ元の位置に戻る。芸者の隣、蝙翼人集団の目の前に。

 今度はずっと見てたから判るけど、あれは別に瞬間移動的な裏技じゃなくて、ただ物凄く足が速いだけみたいだ。高位貴族やスピード特化の亜人より速い気もするけど、実際に見ていれば、目で追えない速さじゃない。


「あの人、腕が6本ありますですワン」

「……え? ああ、そうだね。センジュさんと同じだ」


 。以前に大道芸人で6本腕の鱗人レプティリアンなセンジュさんと知り合っていたからか、特に気にしてなかった。

 腕の数以外はほとんど人間のような外見だから、人間の血が濃い目の、蛸人オクトポイドとの混血なんだろうね。

 6本腕で3本の刀を持ってるけど、すごい持ち難そう。それに、よく刀同士がぶつからないな。


 蝙翼人の人達は何が起きたのか戸惑っていた様子で、戸惑っている内に、1人が胴と両翼を断たれて死んだ。


「おいおい……普通に死ぬかよォ」


 誰も動けなかったし、声も出せなかった。


「忍の連中から、ちんの所有物が荒らされたと聞いてよォ。

 超ダッシュで来たんだよォ、なァ?」

「おほほほ、うちなんぞ武神様に抱えられて、知らん間に此処に着いとったんどす。

 慣性で内臓が潰れてたら、【即死付与】スキルで死んでましたえ……!」

死死死シシシ! んーなヘマするかよ、このちんがよォ」

「あっ」

「やべ」


 芸者と2人で繰り広げる漫才も黙って見ているしかできなかったし、笑いながら小突かれた芸者が、糸の切れた人形のように倒れて死ぬ間も、ただ見ているしかできなかった。


「あー死んじまったァ……でもま、仕方ねえかァ」


 武神と呼ばれた6本腕の死死死の人は、1本の腕でてへぺろをしつつ、残り5本の腕でそのまま刀を構えている。


 その段になって、ようやく蝙翼人の人達の全員が警戒状態に入った、と思う。

 随分悠長だなぁ。


「お兄さん、逃げますワン?」

「え?」


 コレットさんが僕を見上げて袖を引く。

 でも、ちょっと待ってろって言われちゃったし。



 …………いやいや、おかしいおかしい。



 何でそんなのに従わないといけないんだよ。

 何故ボーっと見てたんだ。何だこれ。僕の方が悠長でしょ。

 感覚的に状態異常じゃないとは思うけど、明らかにおかしい。


「逃げるよ」

「はいですワン」


 足元の砂を素早く握り込み、改めて叫んだ。


「全員バラバラに逃げてください!!」


 駆け出しながら背後を振り返ると、他の人達も飛んだり走ったりして逃げてゆく。


「あーあァ、残念。逃げられたァ。ここからァ鬼ごっこだなァ?」


 僕とコレットさんは前に二本松さんの弟さんを追いかけて入った森の方に走る。

 スピードは向こうの方が遥かに上だ。ただの徒競走ではすぐに追いつかれるので、背後を時々振り返りながら。


 ずっと監禁されていて、体調を崩している人も多かった。空を飛ぶ体力、魔法力のない人達はすぐに全滅した。

 残りは空を飛んでいるので、次に狙われるのは僕達の方だろう……と思ったら、仮称武神はその場で無造作に刀を振る。


 ただそれだけだ。


 それだけで、仮称武神から10メートル程上に離れた空中で、人影何かに切り裂かれて死んだのが、反響定位エコーロケーションに伝わってきた。

 さっき、芸者は何と言ったっけ。【即死付与】スキル? 死ぬやつだな。


『危険! 危険! 砂を握ったままだと4:6ヨンロクで死にます!!』

『危険! 危険! 炎熱魔法を撃つと8:2ハチニーで死にます!!』

『危険! 危険! 立ち止まると死にます!!』


 成功率40%しかない危機感知スキルが頭の中でガンガン鳴り響く。ということは、実際の危険はこの2.5倍もあるわけだ。

 頭のすぐ横で風切音が響くのは、悪手を取ったけど運良く生き残った時なんだろう。

 正体不明の飛び道具に【即死付与】が乗って飛んでくる。1発だけなら抵抗できると思うけど、恐らく複数のが並んで飛んできているはずだ。盾で受けても状態異常付与は食らうので、完全に避けるしかない。


 あとちょっとで、遮蔽物の多い森に入れる。という所で、コレットさんが言った。


「お兄さん、こっちに来てますですワン」


 その少し後に、僕にも足音が聞こえて来た。


 これはもう、流石に死んだな。

 危機感知さんはもっと、取り返しのつくタイミングで警告して欲しかったなぁ。所詮は成功率40%だよ。

 数秒でも足止めできれば、コレットさんが逃げる時間くらいは稼げるかな?

 無理かな。何か飛び道具あるもんな。

 僕は駄目元で、それでも頭を巡らせていた。


 そこへまた危機感知スキルが警告を発する。



『危険! 危険! 5秒以内に立ち止まって戦闘に入らないと10秒後に死にます!!』



 やれと言ったり、やるなと言ったりだなぁ。

 でも、それで生き残る可能性があるならやらない理由はないんだけど。

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