148. あ、すみません。見つかりました
〈あ、すみません。見つかりました〉
「えっ」
調子良く他人の家を進んでいると、壁の向こうを覗いていた二本松さんがひゅっと戻ってきた。
「何だ、どうした?」
二本松さんの弟さんには、亡霊の二本松さんの声は聞こえないので、僕が突然声を上げたように見えている。
実際何がどうしたんです?
〈今、明らかに見張りのやつと目が合いました〉
「げ」
「おい何だよ、本当にどうしたんだ?」
「二本松さんが見張りの人に見つかったようです。対霊特効スキル持ち……というか、対霊特効装備持ちの人がいたみたいですね」
「何だって? それは貴様……まずいのか?」
〈こっちに向かってきてますね。目の前の角から来るので構えてください〉
僕は弟さんに身振りで静かにするように伝え、壁に身を寄せた。
二本松さん、その人の心の声は聞こえます?
〈駄々洩れですね。亡霊相手に慣れてないんでしょう。
おおかた、亡霊が出たらすぐに滅するなりしているのでは?〉
何て言ってます?
〈俺のことを自分がうっかり始末し損ねた亡霊だと思ってるようです。同僚に見つからない内に、1人で始末するつもりですね〉
あ、ラッキーですね。それじゃ、二本松さんは廊下の真ん中の、ちょっと高めの場所に浮いててください。
僕は壁際でしゃがみ込み、弟さんにも同じようにしてもらった。
そこへ見張りの人が1人でやってきて、二本松さんの方を見上げる。
ので、後ろに回り込むなり義手の方で口を塞ぎ、左手で素早く7、8回背中を小突く。
他の状態異常と一緒に睡眠の状態異常が発症し、見張りの人は意識を失った。
音を立てないようにそっと床に下ろす……と、あれ。
何かいつのまにか左手に小さな
「なぁ、おい、これは大丈夫なのか? 今何を置いたんだ?」
言われるままにしゃがんで待っていたら状況が終わってしまった弟さんが小声で訊いて来るので、
「取り急ぎは大丈夫ですが、戻りが遅くなると他の見張りの人が来るかもしれません。
今置いたのは、たぶんこの人が装備してたドロップアイテムですね」
と説明した。
「何故ドロップアイテムを返すんだ?」
「窃盗スキルで他人から物を盗むと泥棒扱いになるので……」
窃盗スキルは、「相手が持っているドロップアイテムやガチャアイテム」を確率で盗み、その手の物を持ってなければ「殺した時に出るドロップアイテム」を前倒しで取得するスキルだ。
普通の冒険者が入手できる装備品のドロップアイテムは、大体ゴブリン辺りが持っていたボロボロの武器を原型にしているので、基本的には使い物にならない。だから普段から持ち歩く人は少ないけど、たまに身内の形見を装備してるとか、貴族の人なんかすごい武器を持ってたりして、他人の所持品にうっかり窃盗スキルが発動すれば泥棒扱いになってしまう。(普通に警戒してれば抵抗できるのに、ノーガードで持ち歩いてる人もどうかとは思う)
相手がドロップアイテムを持っていない場合は「殺した時に出るドロップアイテム」を前倒しで取得する、と言ったけど。
例えば戦闘中に刀を盗んだとしても「相手の持っている刀にスキルをつけて奪う」のではなく「相手の刀剣を原型として再生成されたドロップアイテムが手に入る」形なので、相手は武器を失う訳では無いし、こちらは急に手元に刀が増えて一瞬驚く……という、忙しい状況では微妙に使い勝手の悪いスキルでもある。
窃盗スキルで増やした物だと言っても、明らかに人族からドロップしたようなアイテムを売り捌いたりしたら最悪は強盗殺人を疑われるし。先日
何の話をしているのかというと、あれだよ。
スキル付きのアイテムが欲しければ、わざわざ殺さなくても、窃盗スキルで盗めばいいのにね。盗めるまで続ければドロップ率は100%だし。
「よくわからんが、要らないなら貰うぞ。
ここに忍び込んだ時点でとっくに違法行為だろ」
弟さんはそう言って、瓢箪ストラップを拾い上げた。
それを言ったらそうなんだけど、これは窃盗スキル保有者のモラルの問題であってですね。
「殺人も追加だ」
そう言って弟さんは、いつの間にか抜いていた刀で寝ている見張りの人の首を静かに貫いた。
このまま先に進むと、目を覚まして挟み撃ちにされるなり、仲間を呼ばれるなりするので、妥当な対応ではある。
では二本松さんすみませんが、またこの先の廊下の確認をお願いします。
〈そうですね……が、その前に〉
何でしょう。
〈俺が見えてますね?〉
二本松さんの視線の先には、口を開けて茫然としている弟さんがいた。
ああ、なるほど。対霊特効スキル付きの装備品なんですね、さっきの瓢箪。
コミュニケーションが円滑になったのは大変助かる。
いちいち僕が通訳しなくても、二本松さんの指示が弟さんに伝わるようになった。
加えて、弟さんは僕がお兄さんの亡霊を連れていることを未だに半信半疑だったらしいので、その辺の疑いが解消されたことにより、僕と弟さんの会話も引っ掛かりが薄れたような気がする。
そうして結構探して回ったのに、蝙翼人の人達が捕まっている部屋はなかなか見つからない。
途中、何人かの見張りの人を弟さんが始末したけれど、騒ぎになれば大勢が集まってくるだろうし、証拠隠滅のために捕まった人達が殺されても困る。
〈ここも外れですね〉
扉の閉まった部屋から扉を開けずに出て来た二本松さんが、そう言って肩を竦めた。
ちなみに何の部屋だったんです?
〈知識神の神像がありました〉
「なっ、何故こんな所に……!」
〈さあ? ……予想ですが、人族の多くはその種族が信仰する宗教施設で
〈因果が逆なんですよ。
へええ。そういう物なんですね。
「可能ならラムダ様の像も持ち帰らないと……救出した仲間と協力すれば行けるか?」
〈馬鹿を言うなよ。百歩譲ってお前が1人でここまで来たならともかく、他人様を巻き込んでるんだろうが〉
「し、しかし兄上」
〈優先順位を考えろ。……像なんてただの彫刻なんですから、捨て置けばいいんです〉
弟さんは神像を回収したかったみたいだけど、二本松さんに言われて、ひとまず諦めたようだ。
「でも、放置しといて
一応声に出して聞いてみる。
〈そんなものがあれば、真っ先にここの連中が祟られてますよ。
像は像です。像が意思を持って動いたりしたら、それはそういう魔物でしょう〉
確かに、それもそうか。
それからまたしばらく施設内を訪ね歩いて、僕達はようやく蝙翼人の人達が囚われている地下牢を発見した。
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