147. 蝙翼人ってコウモリ獣人じゃないって割にはコウモリ要素強くないですかね

 数日前にコレットさんが臭いで見つけた蝙翼人の収容所。外観は大体普通の御屋敷。

 内側で悍ましくも馬鹿馬鹿しい行為(※ガチャ)が行われているというその場所は、意外なほど静かだった。


 真夜中だから施設が稼働してないのは当然としても、警備の数が思ったほどじゃない。先日、この施設の目の前で力士と芸者を相手に騒ぎを起こしたばかりなのに、特に警戒されたりはしていないようだ。

 あの日は来ただけなので、相手からしてみれば、ここが狙われる理由はもう無いと思ってるんだろうか。


〈今は誰もいないですね〉


 二本松さんが塀をすり抜けて内側を確認し、見張りがいないタイミングで縄を投げて引っ掛け攀じ登る。塀の上は鳩除けか何かみたいな鋭い剣山になってるけど、刺突耐性のある僕には「縄を掛けやすくて便利だな」程度の装飾に過ぎない。


 極力音を立てないように飛び降りて、植え込みに隠れる。

 あとは亡霊の二本松さんに先行して貰って、見回りの人がいないタイミングで進んでいけばいい。

 こちらから積極的に攻撃を仕掛けない点以外は、ダンジョンアタックと本当に大差ないなぁ。エンカウント率も低いし、トラップもないしで、ダンジョンより楽かもしれない。


〈……ん。来たのか〉


 と、二本松さんが塀の方を振り向いて見上げた。

 何かと思って僕もそちらを見上げると、空飛ぶ人影。

 激しく羽ばたいているのに音もなく、二本松さんの弟さんは僕の目の前に降り立った。


「……おい! 潜入するにしても、無警戒に飛び込むやつがあるか!」

「中の様子を二本松さんに見てもらったので」

「は? 何を……ああ、兄の亡霊か」


 小声でやり取りをしている間も、二本松さんは周囲を警戒してくれている。こちらを見ずに一言、


〈そちらこそ、潜入だと言うのに堂々と反響定位エコーロケーションを使うやつがあるか間抜け、と伝えてください〉


 と言い放った。伝言はもっと柔らかい表現で伝えますが、その前に、何ですその凄そうなの。


〈蝙翼人に伝わる暗視技術で、超音波によって周囲の地形や生物を探査する物です。

 圧力魔法の応用なので、君もコツさえ掴めばできますよ。別に可聴音でも使えるので〉


 へええ、すごい! 欲を言えば、昨日の夜の森の中で教えて欲しかったですけど……。

 あと、蝙翼人ってコウモリ獣人じゃないって割にはコウモリ要素強くないですかね。


 とりあえず弟さんに伝言内容を伝えておいた。


「兄がそう言ったのか。しかし、反響定位エコーロケーションは蝙翼人にしか気付かれないだろ」


 僕も練習すれば使えるそうだけど、秘伝の圧力魔法を習ったことがバレると命を狙われるそうなので、その点は指摘しない。


〈1年以上も囚われていた連中が、1人も裏切っていないと考えるのはおめでたいですね〉


 僕が二本松さんの言葉を若干柔らかい表現で伝えると、弟さんはぐぬぬと唸って黙り込んでしまった。


「ところで、今ここに来たということは、一緒に潜入してくれる感じなんでしょうか」

「あっ、ああ。元は俺達一族の問題なのに、貴様1人に任せる訳にはいかないだろ。

 兄の憑代よりしろ? だとか言っても、実力も人格も手放しに信頼できる訳じゃないからな」


 責任感というよりは信用の問題なのかな。確かに、自分の知らない所で部外者が大失敗して一族が全滅……とかなったら嫌だよなぁ。

 ともかく、協力者が増えるのは有難い。捕まってる人達を首尾良く解放できたとしても、身内がいる方が話が早く進むよね。


「それでは宜しくお願いします」


 ということでパーティメンバーを1人増やし、僕達は二本松さんの先導で施設の奥へと進んでゆく。

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