140. 左様、正義は我らにあるのでござる!
「お兄さん、遅かったですワン」
「あれ。何でコレットさんいるの」
5人の侍に連れて来られた小さめの屋敷では、
屋敷には他に2人の侍の人と、女中さんみたいな人が何人か。
「拙者らがお連れしたでござるよ」
家にいた侍の1人がそう答えた。
何でお連れできたかを知りたいんだけど。一緒にいる所を見られたのかな。
フード付きのローブも着ていないので、既にコレットさんが
人間以外の種族を見たことがないという割には、意外と驚かないんだな―――と思ったら、一緒に来た侍の人達が「イヌが口を利いておる……」とか言ってるね。
こちらに進み寄って来たコレットさんが、両手を挙げて抱え上げるように促すので、その通りにする。
「急に宿に押し入って来ましたですワン。戦っても勝てそうにないので着いて来ましたですワン」
耳元に顔を寄せ、小声で囁いた。
なるほど。困ったなぁ。
気絶していた攫われっ子達はきちんと治療を受けて意識を取り戻し、薬湯やら何やらを飲まされた上で、自宅に送り届けられた。ひとまず命に別状はないそうだ。本当かどうかは知らないけど、これ以上僕達にできることはない。
でも、自宅は破壊されてなかったっけ? 破壊途中で子供が攫われて、建物自体はセーフだったかな?
僕とコレットさんは、子供を送って行った2人以外の5人の侍と
侍の人達が言うには、邪悪なる大名、
話を聞く限り、この人達は良く言えばレジスタンス的なあれなのかな?
そうは言っても、二本松さんが復讐は必要ないって言うので、僕としては積極的に大名に近寄りたくもないんだよなぁ。
大名の部下にはスキル持ちの人もいたし、4人衆って言ってたから、あと2人いるんでしょ? 場合によっては普通に死んじゃうし。
それに、町を見た感じ、意外と平和に統治されてる気もするんだよね。
大名の部下の力士と芸者が暴れてはいたけど、つまり「あんな暴れ方をする人がいるにも関わらず、町が整然と、かつ賑やかに運営されてる」んだよ。あの2人が現れる前にも多少は町を見て回ったけど、町の雰囲気は明るく、破壊の痕跡は一切なかった。
たぶん保障や福祉が異常に充実してるんじゃないかな。そんな町は前にも見たことがある。
だから問題ないってことはないけど、特に大義もないのに、命懸けで横槍を入れるのはなぁ……。
「これはこの町の民の、ひいてはこの国全ての民の為なのでござる!」
「なるほどですワン」
コレットさんはもう、適当に頷いて聞き流している。
明らかに退屈そうなんだけど、侍の人達には
賛同者を得たとばかりに、語りは益々ヒートアップして行った。
〈……〉
二本松さんは寝てる。
同じ話がまだまだ続きそうな感じなので、申し訳ないけれど、僕は二本松さんを起こすことにした。
〈……んん。何です〉
いえ、ちょっと雑談でもお付き合いいただけないかなと。
二本松さんが周囲を見回すと、何かしらを熱心に語り続ける侍の人と、眠たげに細めた目でぼんやり相槌を返すコレットさんの姿がある。
状況は大体理解してもらえたようだ。
〈…………まあ、君には色々と付き合わせていますしね〉
すみません、ありがとうございます。
〈何の話にしますかね。完全無装備状態でのドロップアイテム生成時における周辺空間のマナ流動形態がモルモットとウマで極めて近い波形を持っている話にしましょうか〉
うーん。タイトルで全部終わっちゃったので、その話は良いです。
〈そうですか? では、全く同じ形状とサイズに作った鉄の針と銅の針をそれぞれ持たせたモルモットが生成するドロップアイテムの装備スキルは同じ【防御貫通:下級】であるにも関わらず装備の合成が行えないが、鉄の縫針と鉄の畳針なら形状やサイズが違っても装備の合成が行える場合があるという話にしますかね〉
それもタイトルで全部終わっちゃいましたね。
あ、そうだ。じゃあ神様の話をもっと聞かせてください。
〈神様ですか。俺もそれほど詳しくはないですよ〉
お寿司屋さんで聞いた話だけでも、結構面白かったですけどね。
〈名前の話程度しかしてませんが?〉
テロリストの妄想を聞かされるよりは1000倍マシですよ。
えぇと例えば、獣人の祖は獣王ナントカ様だって話でしたが、翼人の祖は別なんですか?
二本松さんもですが、蝙翼人は蝙蝠のパーツが入ってるから獣系じゃないんですかね。
〈翼人の祖は変異神ミュー様ですね。細かい話は知りませんが〉
へええ。ちなみに異世界人の祖とかいます?
〈異世界人という種族自体、君以外に聞いたことないです。まあ異世界の神様じゃないですか〉
それもそうか。
にしても、ポンポン答えが返ってくるなぁ。
二本松一族は知識神を信奉する家だって話でしたけど、二本松さんもやっぱり詳しいんですね。
〈子供の頃に無理やり丸暗記させられた、何の役にも立たない情報です。
この手の話なら弟の方が優秀でしたよ。神話なんかに興味を持てたという点で俺とは段違いです〉
淡々とした口調で、二本松さんはそんな風に言う。
そこで話が途切れた。
「お判りでござるか、この天下の一大事が!」
「なるほどですワン」
「左様、正義は我らにあるのでござる!」
「なるほどですワン」
卓上に意識を戻せば、コレットさんの相槌がびっくりするほど雑になっている。
1人で任せちゃって申し訳なかったなぁ……。
「すなわち、武神様の御意志を継ぐのは我ら、将国解放連合に他ならないのでござるよ!」
そういえば、武神様というのは何の神様なんですかね。
名前的に武の神様だとは思いますが。
軽い気持ちで尋ねた僕に、二本松さんは答えた。
〈そんなもの居ませんよ〉
えっ。どういうことです。
〈24大神に武神なんてのはいません。
それだけは断言できますが、創世の神話にそんな名前は出て来ません。
そして、創世の神話に出てこない神は、1柱たりと実在しません。
どうせ辺境マイナー新興宗教がでっち上げた、造り物の神でしょう〉
それは、珍しく強い調子の全否定で、僕はちょっと驚いた。
ちょうどその直後、コレットさんが遂に卓袱台に顎と両手を置いて伏せてしまったので、ようやくその日はお開きにしてもらえた。
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