138. グワハハハハ! オイドンらを狙う刺客でゴワスか!

 力士と芸者が大きな武家屋敷の前で立ち止まる。

 ので、先制攻撃で義手から矢を撃ち込んだ。


「むっ、何奴でゴワス!」


 矢が届く前に力士は振り返り、「どすこい!」と一声、足元に向けて飛来した矢を張り手で弾き飛ばした。弾かれた矢は地面で跳ねて粉々になる。肩に子供を担いだままでだ。

 何だ、その反応速度と、破壊力。


 とはいえ今ので攻撃判定は入ったので、状態異常の蓄積値は加算されている。普通ならもう一発当てれば終わりだとは思うけど。


「グワハハハハ! オイドンらを狙う刺客でゴワスか!

 不意を突いたつもりでゴワそうが、無駄でゴワス!」

「!? お、おほほほほ!

 何どすそのさっぶい覆面は? この子ぉらを取り返しに来た、正義の味方のつもりどすか?」


 力士の大笑いに、芸者も少し遅れてこちらを振り向いた。

 なお僕は今芸者に指摘された通り、顔を隠すため、口元に手拭いを巻いている。


「最初で最後のチャンスを棒に振りおしたな。あんたはん、もう死にましたえ」


 全然気付いてなかった芸者の方を狙ったら普通に直撃してたと思うけど、見るからに力士の方が強そうだからなぁ。


「何どす? 恐ろしゅうて声も出はりまへんか?

 おほほほほ、なんぼか戦えると思て勘違いしとったんどすなぁ。

 うちら武士山家4人衆に盾突こうとは、相手が悪おましたなぁ」


 力士の陰で高笑いしている芸者は一旦無視して、力士の方の隙を伺う。


 矢を射かけたのは背後からだから、まだ義手のギミックは知られていないものとして。

 今日は情報収集だけの予定だったから、武器は杖しか持ってきてない。牽制で炎の弾を飛ばすと、意外にも身軽なフットワークで回避された。

 芸者の方も「ヒエッ!?」なんて声を上げながら、持っていた傘で魔法を防ぐ。……今のでも状態異常蓄積値が加算されるはずだけど。この人達、ちょっと迂闊過ぎないかな。

 相手が状態異常付与スキル持ちだという警戒はしないんだろうか?


 とりあえず追撃で適当な状態異常に罹患させよう、と無言で杖を構えると。


「おっと、待つでゴワス。

 そんな魔法、食らった所で何ともないでゴワスが……それ以上攻撃すると、このガキに当たるでゴワスよ」


 力士は気を失ったままの女の子を盾にするように持ち替え、にやつきながら言った。


 笑顔だ。左右の口端を裂けるように吊り上げ、目を三日月のように細めて、大きく肩を揺らす。

 相手を飲み込むような、攻撃的な笑顔。

 そんな笑顔の力士は言った。


「世間じゃ俺達力士の浮かべる笑顔を、ドスコ・・・イック・・・スマイル・・・・、なんて言うそうでゴワスがな」


 聞いたことないけど。


「これは笑顔じゃなく……威嚇でゴワス。

 おぬしら風に言うならさしずめ、ドスコ・・・イカク・・・ってとこでゴワス」


 よくわからないけど、お主ら風に言い替える必要はないし、そもそも僕自身はドスコイックスマイルなんて言ってない。その「お主ら」に僕を巻き込まないで欲しい。


「おほほほほ、血乃海ちいのうみのドスコイックスマイルがお出でましたなぁ!

 あんたはんはもう終いどす! おほほほほ!」


 力士の背後で、男の子を肩に担いだままの芸者が笑う。

 ドスコイックスマイルって流行らせたの、お仲間の人なのでは?



 とそんな時、僕の肩の上でもモゾモゾと動き出した人がいた。

 亡霊なのに眠っていた二本松さんだ。


〈……んん。何です、その変な覆面。

 今どういう状況ですか?〉


 おはようございます。

 今、こいつらのアジトを突き止めて、誘拐された子供を助けるための戦闘中です。

 覆面はあれです、一応変装です。


〈はあ。あー、それで子供を盾にされたんですか〉


 ですです。どうしましょうか。


〈武器を置いて四股しこを踏めば、力士は相撲で勝負してくれるんじゃないですか〉


 ……本当かなぁ。

 僕は半信半疑で杖を足元に置き、何となく四股それっぽい動きをして見せた。


 瞬間、空気が変わる。ぞわりと悪寒が走り、力士はそのドスコイカクを強めた。


「……このオイドンに、相撲で勝負を挑むでゴワスか。舐められたものでゴワスな?」


 ほら怒ってますよ。

 これで人質が殺されたら最悪じゃないですか。


「その勝負、受けて立つでゴワス!」


 えええ、うっそでしょ。何でそうなるの。


〈言ったでしょう。力士の習性なんて、この辺りでは常識です〉


 僕が知らない常識に首を傾げている間に、力士は人質の子供を足元に下ろし、僕の目の前まで歩み寄って、仕切の型を取った。

 僕も同様に型を取り、行司役の芸者が扇子を構える。


「相撲百段の永世横綱である、このオイドンに相撲勝負を挑むとは、愚かにも程があるでゴワス。

 武神様の加護を受けたこの剛力で、粉々にしてやるでゴワス……!!」

〈何が武神の加護なんですかね〉


 僕は相撲百段の方が気になりますけど。


「見合って見合って……」


 僕と力士の間に扇子を開いた芸者が、双方に視線を送り。


「はっけよい!」


 試合開始の合図を告げる。




 特に何の問題もなく、僕は力士に勝った。


「な、何故オイドンが……こんな細っこいガキに……!?」


 本人には言わないけど、普通にスキルの力ですね。

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 ・【圧力耐性:下級】×7   (被害量-70%)

 ・【切断耐性:下級】×9   (被害量-90%)

 ・【刺突耐性:下級】×10   (被害量-100%)

 ・【衝撃耐性:下級】×10   (被害量-100%)

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 ぶちかましの威力は衝撃耐性で完全にカットされるし、相撲に切断技はない。

 圧力ダメージは30%をそのまま食らうから危険もあるけど、でも、所詮は30%だし。


 相手の体重は200キログラムは超えてると思う。仮に250キロだったとすれば、30%で、えぇと、75キロかな。

 75キロの空から落ちてきたら大怪我だけど、その衝撃・・はゼロになる。

 75キロの人を持ち上げるくらいなら、できないことはない。


 投げ技を食らう前に数発の張り手を当てれば、すぐに状態異常が発症。バランスを崩せば、つき手(※相手の力が加わらない状態で自ら地面に手をつく決まり手)でおしまいだ。

 何というか、ちょっと肩透かし(※相手の力を利用して倒す決まり手)な気分だな。


「ち、血乃海が相撲で負けはった……!? 有り得へんどす!」


 先程まで余裕だった芸者が、急に顔色を変える。

 僕は素早く杖を拾い、相手に向けて構えた。


「次はお前の番だ」

「しゃ、喋りおした!?」


 そういえば、ここまで一言も喋ってなかったなぁ。

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