136. 寿司を司る神様なら、寿司司神じゃないですか

 シュガーフィールドの町に着いた翌日。

 攫われた二本松一族の行く末について手がかりを探すため、僕達は早速町に出ることにした。


「わふ! 甘い匂いがしますですワン!」


 コレットさんが鼻を鳴らして、何かのお店に近付いていく。団子屋さんだな。


「1串3個で3Rリョー、1個でえぇと、1Rですワン! お安いですワン!」

「そんなに安くないよ。商国通貨で言ったら1串30zゼニスくらいだよ」


 30zもあればキャベツが3玉買えるよ。安い時期と土地ならだけど。


 将国通貨への両替は入国前に済ませていたけど、為替レートは共和国通貨と1:1くらいだった。ざっと見た感じ、食料品や宿代は隣国より安いけど、工業製品が高めかなぁ。


 まずは腹拵えということで大通りのお寿司屋さんに入った。

 隣国で買った参考資料にも、この国の名物料理だって書いてあったので。


 テーブル席について、僕とコレットさんの2人前を適当に握ってもらう。



「おお……ちゃんとしたお寿司だ……!」


 ごはんシャリの上に魚の切り身が乗ってたりするやつだ!

 参考資料だと「丸めた米に別の食材を乗せた軽食」としか書いてなかったし、何が来るかドキドキしてたんだけど。


 ちなみに、この世界における食材とは、食材系のドロップアイテムのことを言う。

 ドロップアイテムは時間経過で腐ることもない(というかこの世界に腐敗菌がいるのかも怪しい)ので、内陸部のこの町でも魚は新鮮だ。

 輸送費がかかるので土地の食材以外は高くなるんだろうけど、田舎はマナ濃度の関係で食費が安くなるので、実はそれほどお高くもない。


「がふがふ……赤いのがおいひいでふワン!」

「それは良かった。そのイカ白いの犬人ライカンの身体に良くないかもだから、こっちのマグロ赤いのと交換しとくね」

「ありがとうございますですワン!」


 イカが駄目とかネギが駄目とかあるのか知らないけど、この世界は獣人に対獣特効スキルが有効だったりするので、ちょっと怪しいんだよね。

 うん、イカも普通に美味しい。お寿司ってこんな感じだったな。たぶん。



 ちゃんとした料理は海辺の町以来だったので、ちょっと食べ過ぎたかも知れない。


「わふー、ごちそうさまですワン……」

「今日はもう、1日食べなくて良さそうだね」


 あ、でもお砂糖の名産地だっていうから、お菓子は何か買って帰ろうかな。お団子でも良いけど。


 すぐに追い出される雰囲気でもないので、お茶を飲んで少し休み、店内を見回してみる。

 店内にはカウンター席とテーブル席、それと壁際に祭壇があった。

 何だあれ。


〈あれは寿神の祭壇です〉


 寿神すしん? 何です、そのお寿司の神様みたいなのは。


〈寿司をつかさどる神様ですよ〉

「寿司を司る神様なら、寿司司神すしししんじゃないですか」


 満腹で気が緩んだのか、無意識に口に出してしまう。


「何言ってますですワン?」

「何言ってるんだろう」


 僕もよく判らない。


〈寿神ベータ様は24大神の1柱です。女神や知識神とも同格ですね〉


 二本松さんもよく判らないことを言っていた。

 24柱しかいない大神の1柱が寿司の神様でいいんですかね。


〈寿神ベータ様は24大神の中でも23番目に大神となったお方なので、やることが無かったんじゃないですか。知りませんが〉


 身も蓋もないなぁ。


 ……と。

 そこで僕は、お茶を飲み終えたコレットさんがこちらを見ているのに気が付く。


「どうかした?」

「お兄さん、また亡霊さんとお話してますですワン?」

「ああ、うん」

「何の話ですワン?」

「えぇと、神様の話」


 どうも、コレットさんに退屈させてしまっていたようだ。

 一緒に食事に来ているのに、僕と二本松さんだけ話しているのも申し訳ないな。


「コレットさんは、女神以外にも神様がいるって知ってた?」

「もちろん知ってますですワン! 獣人種の祖、獣王様ですワン!」


 ちょっと話を振ってみたら、寿司の神様より数段凄そうなのが出て来た。

 犬人ライカン猫人フェルパーといった獣人種全体の祖となったらしい神様と、大陸の端の郷土料理を司る神様。

 これが同格でいいのかな、本当に。


「フラワーヒルの町の教会は、女神様と一緒に獣王様も祀ってましたですワン。

 獣王様のスペースは、教会の端っこに、ほんのちょっとだけですけどワン……」

〈女神教会は女神オメガ様を唯一神としてますからね。スペースがあっただけ奇跡でしょう〉


 少し落ち込むコレットさんに、二本松さんが追い打ちのように言う。

 聞こえてなくて良かったけど。


 とはいえ、こちらが振った話で気分を落ち込ませるのも問題だ。

 二本松さん、何か獣王様情報とかないですか。


〈獣王クシー様は、獣人の祖だというくらいしか覚えてないです。あまり興味もなかったので〉


 身も蓋もない。


「……コレットさん。二本松さんが言うには、獣王様の名前はクシー様って言うんだって」

「わふ! そうなんですワン!? 初めて知りましたですワン、すごいですワン!」


 唯一得られた情報を提供したら、そこそこ喜んでくれたのでホッとした。

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