133. さらばソトモモ共和国だ

 処刑場だった広場は、フェンスを外して丸太を横倒しにするだけで、演説会場に役割を変えた。


「今回、我々はスキルの恐ろしさを痛感した」


 壇上で喋っているのは、軍の偉い人だ。

 どうも所長の古い知人だとかで、その処刑を見物に来ていたらしい。


「しかし、同時に我が国のテクノロジーの素晴らしさも実感した」


 見物と言っても、騒ぎの後にサクッと処刑を取りやめにしてくれたんだから、元々乗り気ではなかったんだろうね。

 どうも相当な権限を持っているようで、所長はその場で行われた略式裁判により無実ということになり、僕もついでに不起訴処分になった。軍の権限強いな、この国。


「今回、我が軍が1人の少年に敗れたのは、彼の持っていた義手の力によるものだ。

 スキルとテクノロジー、その融合こそが今後の我が国を支えていく物になると確信した。

 今後の詳しい方針については、改めて議会でも検討する必要があるが、少なくともスキル保有者やスキル研究者を排斥することはなくなるだろう」


 たぶんこの人、その場で考えながら喋ってると思う。コメントが相当大雑把だ。

 それでも兵士の人達や、見物に戻ってきた大衆は、大人しく耳を傾けている。


「我が国は今まで、スキルと言う義足を取り外していたようなものだ。

 テクノロジーとスキル、2本の脚を備えることで、我が国の歩みはより力強く、安定した物になるだろう」


 実際、義手がなければ負けていたかと言えば、所長の奪還は無理だったかな、という体感がある。

 相手が最初から僕対策を打っていたら捕縛されるかもだけど、不意打ちの初見殺しなら逃げるのは可能だったんじゃないかな。


「結果として、戦争における犠牲者が減り、生活もより豊かになるはずだ」


 どうかなぁ。ガチャ回すのってお金かかるし、スキルを得ようとする人が増えると言うことは、その過程でガチャ爆死がスキル保有者の99倍出るんだけどな。

 ああ、でもその辺は今後の研究次第なのか。


「本日、より良い発展の機会を得たことを祝おう。知識神の御名みなのもとに」


 壇上の偉い人の隣には、所長がギラギラした目付きで笑みを浮かべていた。

 何か予定と随分違っちゃったし、一度ラボに戻ろうかな。



 僕はこの街に着いてから今日の朝までに、8回ガチャを回した。その結果はちょっと異常だ。

 【弓:竹の弓】が2回、【額冠:鉢竹】が1回。

 【刺突耐性:下級】が2回、【炎熱耐性:下級】が2回、【邪法耐性:下級】が1回。

 装備品は義手のギミック開発に使われたし、3種の耐性はそれでちょうど100%になった。


 あまりにも都合が良すぎる。


 今までも、欲しいと思ったスキルが都合よく排出されることはあったけど、流石に偏りが酷いんじゃないかな。ちょっと見過ごせないよこれは。

 幸運値さんが仕事をし始めたのかな? それとも、他人の5倍の幸運値というのは、元からこういう物・・・・・だったのかな。


 最初に見た他人のステータスがたまたま僕より幸運値の高い人の物だったから、最初は何とも思ってなかった。でも、これまで何人かのステータスを見せてもらった中で、「1.0」以外・・の幸運値なんて他にいなかった。

 言われてみれば、人によって確率に差異があるってのも変な話なんだけど、なら幸運値が高い僕達は何なのかという話になる。


 僕は、そんなに運が良い方ではなかったと思うけどな。

 元の世界でもこっちの世界でも「死んでない」という時点で物凄く運が良い、と言われたらそんな気もするけど。



「わふ? 街の外で合流するんじゃなかったですワン?」

「何か予定が変わっちゃった」


 走って帰ったので、ちょうどコレットさんがラボの車に乗り込もうとしている所に間に合った。

 運転席にいた3代目にも声を掛ける。


「あ、3代目。後で連絡行くと思いますけど、所長が無罪放免になりまして、今後はスキル研究を国が推進していくようになるかも知れないそうです」

「……ハァ? 何を言っているんだいィ?」

「直接聞いてもらった方がいいですね。たぶんそろそろ所長も帰って来るので。

 コレットさん、降りといで。一緒に行けることになったから、この街から汽車で行こう」

「わかりましたですワン」


 困惑している3代目にお世話になったお礼を言って、車に積んでいた荷物を引き取る。

 あ、二本松さんは誰かに挨拶とか伝言とかあります?


〈……………んん。失礼、寝てました〉


 演説の時からずっと寝てたんですか。

 で、街を出るので所員の人に伝言とかありますか?


〈特にないですね。この数日で必要なことは伝えて貰いました〉


 ですよねぇ。僕も昨日までにお礼もお別れもしましたし。

 なら良いかな。


 さらばソトモモ共和国だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る