132. これがァァァ!!!! スキルとテクノロジーの融合ウサァァァ!!!!
フォグドファクトリーの街は大抵いつも霧に覆われているけれど、本日処刑場となった広場には霧払い用の巨大送風機が常に風を向けていて、珍しく視界が開けている。といっても、空は常に曇っているから陰気な雰囲気に変わりはないけれど。
普段は街の中央から360度に首を振っている送風機がずっと一方向を向いているのだから、他の地域はずっと霧の中、ということになる。
街の造りとして大問題があると思うんだけど、他所の街の話だ、僕が口を出すことでもない。
「この者、宇佐見銀次郎は我等がソトモモ共和国の国民でありながら、他国の軍部と内通しており――」
広場中央の処刑台を囲む群衆の最前列まで、どうにか潜り込む。
周囲の人からは睨まれたけれど、問答無用で殴られなかっただけ感謝して欲しいくらいだよね。
処刑台から歩いて20歩程の位置を即席フェンスで囲った内側に、兵士の人達が銃を持って等間隔で並んでいる。フェンスを攀じ登ろうとしたら、囲んで撃たれるんだろうなぁ。
丸太に縛り付けられた所長の前で、刑吏の人が罪状を読み上げる。
純血種の
〈前に見せて貰ってから、多少はスキルも増えましたよね。
参考までに、今の君は銃弾に当たったらどうなるんです?〉
亡霊の二本松さんが血生臭いことを言う。
銃って確か、衝撃属性、刺突属性、邪法属性の混合でしたっけ。
〈……スキル持ちを敵に回すのは、本当に馬鹿げてますね〉
それを教えるために来たんですし。
変な話なんだけど。
獣と獣との戦いは、基本的により力のある方が勝つんだよ。
獣と人との戦いは、獣の力を人の技が上回れば人が勝つし、そうでなければ獣が勝つ。
この世界の人は単純にステータスが獣より高い場合もあるけど、それならそれで人が勝つ。
で、人と人との戦いとなると、余程のステータス差がない限りは、技の熟練度によっても変わる。
達人同士の戦いなら技の優れた方が勝つし、ド素人同士の戦いであれば、より手加減をしなかった方が勝つ。
なので、僕は戦い慣れしていない相手にはそれなりに勝率があるのだけど、プロの軍人なんかに勝てるわけがないんだよ。真っ向勝負では。
だからそれ以上の「技」は他の場所から持ってこなければならない。
ということで、宣戦布告なしでの突貫だ。
状態異常付与スキル持ちの伝統芸能、不意打ちからの砂掛けを食らえ。
「ぶわっ、な、何だ―――がっ!?」
近くにいた兵士の人が、フェンス越しに砂の礫を浴びて昏倒した。
状態異常9種、一番低い効果でも蓄積値+25%。体力や精神力による耐性があったとしても、多段ヒットの砂礫を至近距離で喰らえば、一瞬で蓄積値が100%を超えて発症する。
突然の凶行(自覚はある)に驚いた群衆が僕の周りから遠ざかろうとした。
「何だッ、どうした!!」
近い位置にいた兵士の人達がぎょっとしてこちらに銃口を向けるけど、念動力を足場に宙を数度蹴ってフェンスを飛び越え、空中で
〈やったーっ!! 実戦でも使えたーっ!! 全弾命中だーっ!〉
約1秒に1射、4秒で4射を2人の兵士に2発ずつ。
恐らく混乱と幻惑に冒されただろう兵士の人達は、互いに銃を撃ち合って倒れ、地面をのたうっている。
着地の衝撃は、衝撃耐性スキルが全てカットした。
精密機械が仕込まれた義手は、激しい運動の中でも問題なく稼働する。
〈かんっぺきっだーっ!! ドロップアイテムを2つも駄目にして見極めた肉抜きの限界! 耐久性度外視で演算能力だけを残したゴーレム脳! わははははは! しかもこの精度、高速思考スキルでゴーレム脳の性能も上がってるなーっ!?〉
ガチャアイテムである竹の弓を、装備としての効果が保たれる限界まで小さく削って埋め込んだ射出機構。これをゴーレムの脳を使った自動制御に任せて、心に思っただけで矢を飛ばすフルオートクロスボウ……と言うよりは矢の出る銃が、この義手には仕込まれている。
ちょっとした衝撃で壊れる弓に、外付け演算機構による自動制御。衝撃耐性スキルが100%を超えているからこそ、こんな精密装置を戦闘用義手なんかに入れることができる。
このコンセプトを聞いた時は、ちょっと笑った。
矢の連射に加えて左手の竹の杖からは魔法を放ち、遠距離で兵士の人達を転がしていく。
なるべく殺すつもりはないけれど、同士討ちとかで死んだら申し訳ないなぁ。早急に制圧して、後のことは後で考えよう。
例えば複数の魔物の融合、例えば魔物の脳の研究、例えばドロップアイテムの研究、例えば生体の魔法力を使うゴーレム。僕の義手には、ラボの所員の人達が好き勝手に注ぎ込んだ、色んなジャンルの技術が応用されている。
義体技術もそうだけど、多くの生体操作ジャンルにおいてゴーレムという無生物系の魔物は
ほとんどのギミックは義手に仕込む必要性がないというか、普通に手持ち武器や魔法で代用した方が便利だったので、例えば腕が3本に分かれて装備スロットが増えるギミック等は入れていない。
この1週間にガチャで引いた2本目の竹の弓と、頭装備の鉢竹はドロップアイテム開発室の研究材料として完全に壊れてしまったけれど、魔法力も要らない無限弾倉の飛び道具は、やっぱり便利だ。核となる部分以外を削りに削った結果、威力や射程は小石を投げつけるより低くなったけれど、状態異常付与と不意打ちが目的であれば十分だった。
「くそっ、化け物め!」
と、倒れたと思っていた兵士の人が、死角から何かを投げ付けてきた。
振り向いた瞬間に顔で弾けて、ボウッ、と炎が広がる。そういう手投げ弾かな。
〈うわ。大丈夫ですか?〉
全然大丈夫ですね。
そんなこんなで、丸太に縛られた所長の下に辿り着く。
〈わははははははは! 俺達の義手! 俺達の義手の勝利だーっ!!〉
所長の拘束を解きながら見渡せば、処刑場は幻惑と傷に呻く兵士の人達で死屍累々(たぶん誰も死んでない)、群衆もほとんどが流れ弾を恐れて逃げ出した。
状態異常が解けた兵士の人達も、僕に殺意が無いことを判ってくれたのか、仲間の傷の手当てをしながらこちらを警戒するだけ。何人かは襲い掛かってきたけど、追加の射撃でまた転がる羽目になった。
猿轡を外した途端、所長は跳び上がって絶叫した。
「ウゥゥゥゥサッヒヒヒヒヒヒィ!! いやァ、素晴らしいウサァ!!! 素晴らしいウサァァ!!!!」
その狂気を目の当たりにして、兵士の人達の目が恐怖に染まる―――こういうことしてるから、冤罪で捕まったんじゃないかと僕は思うよ。
「これがァァァ!!!! スキルとテクノロジーの融合ウサァァァ!!!!
圧倒的ウサァ、圧倒的ウサァァァ!!!
スキルを持たない軍など、我が宇佐見研究所の成果品の足元にも及ばないウサァァァ!!!」
〈わはははははは!
これだーっ! これこそ俺の求めた力だーっ!! 今日は人生最高の日だーっ!!〉
所長や二本松さんはとても楽しそうに騒いでいた。
そんなことをしている場合じゃないんだけどな。
あ、ほら、続々と軍の増援がやってきた。
また囲まれる前に早く帰りたいんだけど、どうしよう。
今回の目的はラボの価値を知らしめ、一方的な攻撃の対象から逃れるために「スキルの強さ」をソトモモ共和国の人に教えることでもあった。
けど、勿論ながら、所長を逃がすためでもある。いくらスキルが強いことを知らしめても、これは国に対する反逆行為ではあるわけで……僕はこのまま所長を連れて他国に亡命するつもりだったんだけど。
「あの、所長。早く逃げましょう」
「君ィィ!! ロゴを、義手のロゴを見せつけるウサァァ!!
そして高らかに叫ぶウサァァァ!!! これが宇佐見研究所の成果!!!!
ソトモモ共和国を救う力であると、愚かな軍に知らしめるウサァァァァ!!!!!!」
えええ。全然聞いてくれない。
もう完全に包囲されてるよ。
正直、僕1人なら
でも、所長は無理でしょ。撃たれたら死ぬよ。
〈どうせ所長は反逆者として殺される所だったんですし、今更です〉
と、急に落ち着いた二本松さんが無責任なことを言う。
散々騒いだから、反動で思考が適当になってるな……?
でもロゴアピールかぁ。
確かに、僕の個人情報はともかく、ラボの方は正体を隠しているわけでもないんだけど。
……出来る限りのことはやったよね。
僕はいつでも逃げられるように、姿勢と呼吸を整える。
それから、右腕に描かれた、ウサギと歯車のロゴがよく見えるように拳を高く突き上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます