130. 出待ちをしますですワン!
コンサートの開催日程は数日間あるらしい。
冒険者ギルドで貼り紙を確認して早速チケットを買いに行くと、2日後の立見席がどうにか予約できた。
2日間は働いてお金を稼ぐことにして、折角なのでコレットさんも冒険者ギルドに登録する。
コレットさんは新人だし、僕もこの辺りでの実績は全くないので、常設依頼の「インゴット集め」を受けることにした。
その辺の廃棄物集積所でメタルゴーレムを狩って、ランダムでドロップする金属系の延べ棒を集める仕事だ。
メタルゴーレムは防御力が非常に高い魔物だけど、魔法で凍らせてから加熱すると関節部分は簡単に割れる。僕は防御貫通スキルと対物特効スキルがあるので尚更楽だ。
魔法が苦手なコレットさんには荷物持ちで活躍してもらったので、報酬は半々。日に数往復もしていたら、立見席のチケット代程度はすぐに貯まった。
差し入れにレインさんが好きだという銘柄の、度数の高いお酒を買って、会場入り口付近のプレゼント受付なるカウンターに預けた。この感じだと、直接楽屋に行くとかは無理そうだなぁ。それはそうか。
お酒を預ける時に受付の人に変な顔をされたので、こっそりカウンターの奥を覗いたら、花束や菓子折り、果物辺りが多い。お酒にしたって、他の人が差し入れたのはもっとオシャレな感じの奴だ。
でも、コレットさんが絶対これだって選んだんだよなぁ。
「すごい広いホールですワン……!」
「立ち見だと舞台上は全然見えないね……」
とはいえ、流石に技術大国ということで音響機器はしっかりしている。それに、レインさんの舞台では演者が空を飛んで客席場を回ってくれるので、この最後列の立見席でも、意外と近くに来てくれることもある。
広い会場、高い天井を翼の生えたマーメイドが縦横無尽に泳ぎ回り、光と音でコンサートを盛り上げる。以前に見たのとは段違いの演出、迫力、そして客数だ。僕は喝采の激しさに多少びくついてしまったけど、コレットさんは一緒に盛り上がる。
《雪椿の会》のショウとは違って昼間のソロコンサートだったから、
「出待ちをしますですワン!」
他のファンも集まる裏口前で、通路の両脇に人の群れができている。僕とコレットさんは出遅れたので一番後ろに並び、人ごみに隠れてしまったコレットさんのために、レインさんが通る時だけ念動力で足場を作ってあげた。
スタッフの人に水槽台車を押されて出てくるレインさんは両脇のファンに笑顔で手を振りつつ、裏口前に止まっていた蒸気トラックのコンテナに水槽ごと搬入される。
コンテナの扉が閉じる所まで見送って、コレットさんは念動力の土台から降り、僕も魔法を解除した。割と魔法力がギリギリだった。
「わふぅ……最高のコンサートでしたワン!」
「ぜえ、ぜえ……そう、だね……」
「お兄さん疲れてますですワン? コールで騒ぎ過ぎたですワン」
そうでもないと思うんだけど、人を持ち上げる程の念動力はやっぱり魔法力の消費が大きいんだよ。片腕で抱き上げるのはもっと無理だけど。
〈……あれ、外? ふわぁ……もう終わったんですか?〉
そこで、コンサート中ずっと眠っていた二本松さんが欠伸としながら目を覚ました。亡霊は眠らなくても良かったと思うんだけど、本当に専門分野にしか興味がないみたいだ。
〈部屋が暗いと眠くなるんですよ。
昨日一昨日はメタルゴーレムのドロップ傾向と幸運値の考察で忙しかったですし〉
知ってますよ。その考察内容をメモに纏めて、ドロップアイテム開発室の人に渡したのは僕ですからね。
「お兄さん、また亡霊の人とお話してますですワン?」
「ああ、うん。ごめんね、そろそろ帰ろうか」
出待ち勢のファン達も三々五々と解散していく。
魔法力切れの疲労も抜けて来たので、僕とコレットさんも手を繋いでラボに帰ることにした。
「おう、いたいた。コレットと……何だっけか、片腕の」
と、コンサートホールの裏口から、僕達を呼ぶ声が聞こえる。
〈おお。何です、あの凄い人。知り合いですか〉
二本松さんが珍しく驚いたような声を上げた。
振り返ってみると、そこには僕とコレットさんの知ってる人がいた。
「センジュさんですワン!」
6本腕の
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