127. 君の目的である義体、義手だって、スキルがあるならそれに適した機能を付けるべきだ

 歯医者さんが使う、先が曲がった針みたいなのあるでしょ。

 先が曲がった針みたいなやつ。歯石取る時に使うあれ。


「脳のね、この部分を弄るとね、ガチャメニューが開くのよね」


 あれを両手に1本ずつ持って作業していた所員の人が、嬉しそうに言う。

 この部屋にいる所員の人は1人だけで、研究も1人で行っているようだった。


 実際すごい。すごいとは思う。

 でも、そういうの見せるからお客さんが寄り付かないんだと思うよ。


「くんくん、変な臭いがするですワン」

「あっそれはね、消毒液のね、臭いかもね」

「そうですワン? ガチャ爆死の臭いに似てますですワン」


 教育に悪いからとコレットさんの目は両手で覆ってたけど、よく考えたらこの子は元々教育に悪い場所で育ったんだから、別にそこまで気を遣うことも無かったかも知れない。視界を解放してあげた。

 僕は最初に一瞬作業風景が目に入って以降、ずっと視線逸らしてるよ。


「あ、モルモットですワン」

「そうなの、モルモットなの! 知能の低い魔物はね、自分ではガチャを回さないけどね、機能自体は持ってるのよね!」


 知能の高い人族も、自分ではガチャを回さないと思うんだよね。死ぬので。


〈俺は回しました。知能は高い方ですが〉


 例外もあるかもしれません。


「今まではね、宝玉が手に入らなかったのね、予算もないしね。

 でもね、ガチャチケット開発室だっけ? 二本松君の所がね、やってくれたって聞いたのよね!」

「ウサッサッサ! そう、遂に魔物にガチャを回させる所まで実験できるという訳だァ!」

「本当にね! 二本松君にはね、感謝してもしきれないのね!」


 所員の人と3代目は、故人を讃えて盛り上がっていた。


〈いやはや、面と向かって褒められると照れますね〉


 さっき爆死した故人は、蝙蝠の翼でぱたぱた扇ぎながら照れている。

 ドロップアイテム開発室前室長の二本松さんは、その後亡霊になって僕に憑いてきていた。


「彼も草葉の陰で喜んでいるだろォね!!」


 今ちょうど背後にいますよ。




 そんな風に通り道で色々と見学して、僕達はようやく義体開発室に到着した。

 ここで働いてる所員の人は、毎日こうして自分とは直接関係ない開発室、研究室を通過しないと職場に辿り着けないのか……。

 脳研究のとこは特に、衛生面とか重要だと思うんだけどなぁ。


〈意外と他部署の研究も、インスピレーションを刺激したりするものです。

 自分の開発室へやより奥の研究内容はなしはよく知りませんが〉


 と、二本松さんは心の籠らない口調で、納得できるようなできないようなことを言っていた。



「おう3代目。所長から連絡が入ったが、そいつが義手を作るって客かい?」


 義体開発室で僕達を迎えてくれたのは、白衣を着たドワーフの人だった。

 ここにいる所員も1人だけだ。義体開発の担当者はこの人だけなんだろう。


 背中から蜘蛛の脚のような義手(?)が4本生えて蠢いている。身体のサイズに比べて随分大きいけど、それぞれ先に工具のような物がついているから、文字通り手数を増やそうということなんだろうか。そんなことも出来るのか、義体って。


「ウサッササヒ、そうだよ梶谷君ンン!」

「ふん。見たところ足りないのは、右腕と……」


 所員の梶谷さん?は、蜘蛛脚がガチャガチャ鳴らすのに合わせて、首もカクカク傾げながら僕の周囲を一周し、前後左右から値踏みする。


「……尻尾と、両翼と、背鰭と、甲殻と、触覚と……」

「右腕だけで良いです」


 口調はまともな感じするけど、やっぱりこの人も例に漏れず目付きがやばいんだよなぁ。


〈翼はあると便利ですよ。有翼人種でない者では慣れが要るそうですが〉


 右腕だけで良いです。


「犬耳と尻尾も追加して欲しいですワン」

「右腕だけで良いです」

「ふん、つまらん」


 正直言うと僕も追加パーツに興味がないではないんだけど、予算ギリギリらしいし、まずは腕をどうにかして欲しいんだよ。


 僕の予算を知っている3代目に視線で助けを求めれば、


「ウサッヒヒヒ、そう言うな梶谷君、大切なお客なんだからねェ」


 と、にやにや笑いながら止めに入ってくれた。


「早速2人で詳しい仕様を相談して欲しい所だがァ……その前にお客の少年。一応聞いておくべきことが有る」


 んん。僕にか。


「幾つかの開発室を見て判ったと思うが、うちのラボではスキルとテクノロジーの融合、ないし相乗を研究をしている者が多いのだよ。上層部がスキルを毛嫌いするこの国では異端扱いだがね」

「はあ」


 ソトモモ共和国がスキル嫌いの国だという話はこのラボに来て初めて聞いたけど、スキル保有者が生まれにくい国がそういう考えに染まるのは、理解できないでもない。

 僕が曖昧に頷くと、3代目はこう続けた。


「君の目的である義体、義手だって、スキルがあるならそれに適した機能を付けるべきだ」


 何だそれ、と思って梶谷さんの方を見ると、僕と目が合った彼は、腕を組んで大きく頷いた。

 全然わからない。


「状態異常付与があるなら、小さな弾丸を連射できるようにしたら良い。

 敏捷性上昇があるなら、高速で弾体を射出するギミックをつければ割合で速くなる。

 電撃耐性があるならば放電装置を付けよう。万が一でも自身は被害を軽減できるからね」


 あ、そういう話か。なるほどなぁ。

 言われてみれば、思い当たる所もある。


 学生の時に決闘した姫様の従姉の人は、【魅了付与:下級】のスキルを活かすため、常にポケットに砂を入れていた。下級の状態異常付与スキルでも、砂粒の多段ヒットによって一瞬で状態異常を蓄積させることができるからだ。

 逆に、何かの状態異常付与の上級スキルを持ってたカマセーヌ様(でかい斧を持ってた人)は、物凄いでかい斧を振り回していて、あれはあまり状態異常付与とは相性が良くなさそうだった。上級スキルは2~3発で蓄積値が溜まり、状態異常を発症させられるけど、あんなでかい斧は一発だって食らいたくない。


「高速詠唱スキルを持っているなら魔法中心で戦う仕組みを考えよう。

 防御貫通スキルが高ければ、脆くても鋭い刃を付けられる。

 もし君にもスキルがあるなら言ってくれたまえ。まあ、もしあればの話だがねェ」


 契約書の決まり切った確認事項を読み上げるような調子で―――事実その通りなんだろうけど―――3代目は僕にそう訊いた。

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