126. や……やったーっ!! 実験は成功だーっ!

 なんか目付きが怖いだけで、所長さんも所員の人達も、気さくでいい人だったよ。

 最初は怖がってたコレットさんも、所長室を出る時には笑顔で所長さんに手を振ってたし。


 で、借りた部屋に荷物を置いてからまた3代目と合流し、僕達は今、義体開発室に向かっている所。

 この建物は増築に増築を重ねて間取りが混沌としてて、義体開発室に行くには最短距離でも7つの開発室を通らなきゃならないらしい。とにかく皆楽しそうで、目付き以外は良い人達なんだと思う。


「ここは何のお部屋ですワン?」

「ウサヒィッヒッヒ! 聞いて驚きたまえ、ここはドロップアイテムを人為的に再現する研究をしているのだよォ!!」

「? それってすごいですワン?」

「めちゃくちゃ凄いよ」


 コレットさんはあまり価値が解っておらず、3代目が少し寂しそうだったので、僕からもフォローしておいた。

 とはいえ、コレットさんは《雪椿の会》でドロップアイテムを色々貰って装備してるし、護身用にガチャアイテムの竹刀をあげたりもしたから、珍しい物だという印象もないんだろうなぁ。


 ドロップアイテムには3種類あって、簡単に言えば「食材」(つまり経口摂取できるマナの塊)、「装備スキルが付いた装備品」、「スキル効果がある消耗品」だ。中には【魚の鱗】みたいな食べられそうにない食材もあるけど、世間では食材に分類されている。


 食材は専門の農家や畜産家の人ならコンスタントに入手する方法があるらしいけど、門外不出。

 装備品や消耗品は魔物を狩るなり、ダンジョンに潜るなりしないと手に入らない。

 弱い装備なら弱い魔物からドロップするけど、それだとスキルが弱い上に、装備自体も弱かったりする。数を集めて合成すればスキルは強化されるけど、装備品は武装した魔物やゴブリンみたいな敵性亜人しか落とさないし、個体によって武器が違ったりするし、毎回狙った物が落ちるとも限らない。

 あと、頑張って合成しても装備品自体が硬くなったりはしないので、安物の武器はすぐ壊れる。


 一般の人でも死んだ家族のドロップアイテムを形見にすることがあると聞くけど、普通ドロップ率は1割程度なので、確実に落とすわけでもない。ドロップアイテムを集めるために大量殺人なんてのは倫理にもとるもんなぁ。

 狙った武器に狙ったスキルを付けることが出来たら、それは強いはずだ。


「どんな物を作ってるんです?」

「それはここの担当者に聞いてみたまえ!」


 ドアを開けて「ドロップアイテム開発室」と表札の付いた部屋に入ると、部屋の中心にある機械を囲んで、数人の所員の人達がノートやら時計やらを手に何か実験をしていた。

 機械の中心にあるガラス玉みたいなものから電流がバチバチ言ってる。何だか判らないけど、それっぽい装置だ。

 皆さん集中してるみたいだから、キリがいい所まで待つことにした。


 開発室にいる内の1人は背中に蝙蝠みたいな翼の生えた人だった。

 初めて見る種族なのでギルドメニューの「図鑑」で確認すると、「蝙翼人」というのが増えていた。


「何見てますですワン?」

「図鑑。冒険者ギルド会員になると、ここに会ったことのある種族が記録されるんだよ。コレットさんも見る?」

「うーん、別にいいですワン」


 僕はわいわい言いながら皆で図鑑を覗き込むのも好きなんだけど、残念ながらコレットさんはあまり興味ないようだ。

 あ、ギルドメニューと言えば、その内コレットさんも冒険者ギルドに登録してもらわないとね。

 口座とか両替とか何かと便利だし、1人でお金を稼ぐ方法も教えておきたい。


 そんなことを考えていた時、チーン、とオーブントースターのような音が鳴り、ドロップアイテム製造機(たぶん)の側面にある鉄扉が開いた。


「で、できたーっ!! 完成だーっ!!」


 蝙翼人の人が翼を広げて喜びの雄叫びを挙げる。


「おおっ、二本松君! 遂に完成したのかァ!」

「あっ3代目。いやまだ完成してないです、が見えただけです」


 と、蝙翼人の所員の人(二本松さん?)は3代目の声に振り返る。

 先程まで大きな声で叫んでいたのに、急にテンションが下がった様子で、翼もぱっと折り畳まれた。

 見た所、蝙翼人は背中の翼以外は人間と変わらないっぽい。


 あれ? うーん、何だろう。

 初めて見る種族だと言う他には、特に変わった所はないと思うんだけど……何かこの人、違和感がある。


「お兄さん……この人、目付きが普通ですワン」

「あっ本当だ」


 周囲の人達と比べればわかる。ここの所員の人なのに、目付きがやばくないのか。

 学会を追放された科学者は皆目付きがやばいのかと思ってたけど、まともな人もいるんだな。


「おや、3代目。そちらのお2人は?」

「ウッサッヒ……聞いて驚けェ!! 今日からこのラボに寝泊まりする、お客だァ!!」

「なんと。このラボに久々のお客が?」


 3代目の言葉に、室内の所員の人達が騒めく。


 久々なんだ、お客さん。でも仕方ないかな。

 ここの技術力は道々で通ってきた各開発室で目の当たりにした(※無難で実用性がありそうな物の他に「人間を燃料として埋め込んだゴーレム」「薬物で巨大化したモルモット」「継接ぎだらけで脚が8本あるモルモット」辺りは印象深い)けど、いくら技術があっても、目付きがやばいもんなぁ。


 何はともあれ、実験の内容には興味がある。僕は二本松さんに質問した。


「ドロップアイテムを人為的に作っていると聞いたんですが、何を作ってたんでしょう」

「ああ……ああ! よく聞いてくれたーっ!! そう、それが俺達の知の結晶ーっ!!

 聞きたいかい? 聞きたいだろーね! 聞かせてあげよーっ!!」


 ばさり、と翼を広げる二本松さん。


「目付きが怖くなりましたですワン」

「逆に安心するよね」


 専門の話をする時にテンションが上がるタイプなのかな。



 話を聞いてみれば、この開発室で作っていたドロップアイテム。

 それは【人工ガチャチケット】だった。

 何言ってんだこいつら、と一瞬思ったけれど、よくよく聞けばちゃんと理由はあるらしい。


 ソトモモ共和国は貴族がいないので、スキル保有者が少ない。

 共和国上層部はスキル無しで長年戦ってきた自負があるから、スキル関連の研究を排斥し、兵器開発重視の考えを持っている。

 けれど、ここの所員はスキルの価値を、スキルの強さを知っている。ゴーレムやモルモットの研究だって、元は人為的にスキルを持った魔物を生み出す研究の派生なのだ。(と3代目が言ってた)


 ガチャには宝玉300個という莫大なマナが必要だけど、魔晶鉱山のない共和国ではこれを手に入れるのも難しく、宝玉を使わないガチャの方法を求め、人や魔物から抜いてコツコツ集めた魔法力を凝縮し、ガチャチケットを作るという計画が始まったのだという。


 高度な技術で再現された人為的ドロップアイテム、【人工ガチャチケット】。

 10連、100連はまだ技術的に難しいけど、近い内に実現するだろうとのこと。絶対やめた方がいいと思うけどな。100連なんか回したら、大体の人は爆死でしょ。


「それで二本松君、その手に持っている【人工ガチャチケット】は、まだ完成していないのかな?」

「いえ3代目、今から動作テストを行う所で」


 え。


「さて、それでは早速ガチャメニューを開いて……おおーっ、チケット所持が反映されてるーっ!!」

「おおっ」

「やりましたね二本松室長!」

「素晴らしい!」


 開発室の人はぐるりと二本松さんの後ろを取り囲み、ガチャメニューを覗き込んではお互いを讃え合っていた。


「ちょ、ちょっと待ってください、ガチャ回すなら僕が……」

『ピロリッ、ガチャッ、スタートッ!!』

「あっ」


 駄目だ、出遅れた。


「や……やったーっ!! 実験は成功だーっ! 回せたーっ!!

 ばんざーいっ! ばんざーいっ!」

「やったなァ二本松君ンン! 諸君、二本松君を胴上げだァ!!」

「ですね3代目! いくぞっ、せーの!

 わーっしょい! わーっしょい!」

「わーっしょい! わーっしょい!」

「わーっしょい! わーっしょい!」

「わァっしょい! わァっしょい!」

「わははははは! 成功だーっ! 成功だーっ! 成こ」


 ぐしゃり、と。空中の二本松さんの頭が爆発する。

 頭側で胴上げをしていた人の白衣が赤く染まった。


「わーっしょい! わーっしょい!」

「わーっしょい! わーっしょい!」

「わーっしょい! わーっしょい!」

「わァっしょい! わァっしょい!」


 所員の人達と3代目は、それでも首無し死体の胴上げを続けていた。


 少しして死体と血の痕が消え、ドロップアイテムらしき白衣だけが、ふわりと床に落ちる。


「皆さん、ガチャを回すのも見てるのも、とっても幸せそうですワン」


 それを見ていたコレットさんは、不思議そうな顔でそんなことを言った。

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