124. いかがでしょォかァ、お客様! 当店イチオシのボォールアームゥ!
「いかがでしょォかァ、お客様! 当店イチオシのボォールアームゥ!
こちらは手でありながら完ッ全な球体になっているのが特徴でしてェ、磁力で吸い付けることで鉄製品を持ち運びすることォが可能なんですゥ!!
美しい形状と機能性を両立しつつ、極限までコストダウンした一品でしてェ」
街の入り口から大通りの緩やかな坂を上り、一番近い、一番目立つ場所にあった大きな工房に入ったんだけど。
「こういうのじゃなくて、普通に物を掴めるやつないですかね」
一応付けてみたけど、力を入れたら蛇腹ホースみたいな腕がピンと伸びて、抜いたら垂れ下がる。
磁石についた鉄釘は左手で剥がす必要があった。
「おォッとォ、左様でございましたか、失礼しましたァ!」
店員の人は僕の右肩からボールアームを外すと、近くの棚から別の義腕を持ってきた。
戦闘も大事だけど日常生活も大事だし、やっぱり武器腕より、手指がある腕の方が良い。
簡単に着脱できて、それだけで意思に従って動くのは凄いと思うけど……肝心のモノがねぇ。
「おォ待たせしましたこちらァ、当店イチオシのリィングアームゥ!
こちらは指部分を閉じると真ッ円状の輪になるのが特徴でしてェ、この曲線の美しさと物を掴む機能性を両立しつつ、極限までコストダウンした一品でありましてェ……」
「こういうのじゃなくて、もっと、人間の手っぽいの無いですかね」
一応付けてみたけど、力を入れたらマジックハンドの先が閉まって、緩めると開く。
角度を変えるには上半身を傾ける必要があった。
「しかしですねェお客様、低価格帯の商品となりますと、この辺りが費用対効果的にもォ……」
「予算はそれなりにあるので、参考までに一番良いやつを見せてもらえませんか」
と言っても僕の身なりや年恰好から信用してもらえなかったので、仕方なくステータスメニュー内の「所持アイテム一覧」タブの一部を見せて納得してもらった。
こういう時のために「ステータスメニューを隠す用の板」というのが、こういうお店には置いてあるらしい。板の真ん中に1行分の横長な穴が開いてて、そこから所持金の部分だけが見えるように位置を調整するんだよ。
よく考えたとは思うけど、こういうのは
「失礼しましたァ、おォォ待たせいたしましたァ!
こちら、当店で最も高性能、イチオシの商品!! アルティメェッツッアームゥ、でございますゥ!!」
店員の人が持ってきた義腕は、
見た目の割には軽く、爪で軽く弾いた感じだと堅さもそこそこありそう。
試着してみたら、なるほど、腕だねこれは。
ステータスメニューから「装備一覧」タブを開くと、装備スロットの「右手」が復活している。おお、これは凄いなぁ。本当に身体の一部として認識されるんだね。
今までは「右手装備不可×」になってたし、
ちなみに、ボールアームやリングアームでは「右手装備不可×」のままだったよ。
でも、あれだな。
「これ幾らです?」
「はいィ、通常価格248,000
今口座にある分も含めて、僕の持ってる共和国通貨が395,530K。半分くらいだね。
途中で見た個人用蒸気自動車の価格が2万かそこらだったから、その10倍か。え、たっか。高くない? こんなもん? 相場がわかんない。
「更に更に本日中にご契約いただけましたらァ、通常1年間の商品保証と無料メンテナンス対応を、3年間まで延長させて頂きますゥ!!」
あーそっか。メンテナンスとかもいるんだ。
「これってどういう仕組みで動くんですか?」
「はいィ、義体製品は内部のチューブに液化魔晶が流れておりまして、こちらが作用して本物の肉体の様に動作するようになっておりますゥ!」
「えぇと、具体的にはどういうことでしょう?」
「は、はいィ? ええェ、液化した魔晶が、装着者の意思をォ、こう、上手い具合にィ……?」
「あ、すみません、大丈夫です」
店員の人も解ってなさそう。何か申し訳ない気分になってしまった。
実際動かした感じだと、たぶんこれ、インテリヒツジの念動力……というか、衝撃魔法みたいなものを使ってるのかな?
でも衝撃魔法とはちょっと違う気もする。切断、刺突ってことはないだろうし、圧力魔法じゃないかな。中に液体が通ってるというなら、油圧みたいな感じかも。
仕組みとか知らないし、個人でのメンテは無理だなぁ。
「それで、いかがでしょうかァ、お買い上げェ、いただけェ、まァ………?」
「せん、すみません。もうちょっと色々見てから考えますね」
「そ、そうでしたかァ……はい、またのご来店をお待ちしておりますゥ!!」
僕は店員の人にアルティメットアームを取り外してもらうと、フサフサ義尻尾や義犬耳の展示品前で遊んで(?)いたコレットさんに声を掛け、一緒に店を出た。
「お兄さん、腕を買うのはやめましたですワン? だったら尻尾と耳を買いませんですワン?」
「腕は別のお店で買うかなぁ。尻尾と耳は、また今度でいいや」
正直な所、アルティメットアームは期待した程じゃなかったというか。
自分の身体のように動くって触れ込みだったのに、いちいち動作にラグはあるし、精密性も物足りず、可動域にしても変な所で引っ掛かりがある。一言で言えば、微妙。
でも中華街とかでも、入り口に一番近いお店って、値段が高くて味が普通みたいな印象あるよね。
もっと奥の方に行けば、もっと良いお店や、いい義体があるんじゃないかな?
と思って、いくつかお店を回ったんだけど、どこも似たり寄ったりな感じだったよ。
中華街でも入り口から遠いお店は値段が安いだけで味は同じって印象あるよね。
ちょっと気になったのはハイメガバスタービームアームとかいう大砲みたいな武器腕だけど、馬鹿みたいに重いから移動には
「ごめんね、コレットさん。長々と付き合わせて」
「わふ、大丈夫ですワン! 腕なんて大事な買い物ですワン、じっくり考えた方がいいですワン!」
オーダーメイドの専門店では紹介が必要だと言うし、あっても予約で1年待ちだと言われた。
メインストリートから1本2本裏に入った所にも行ってみたけど、義体関係は中古屋が数件あっただけで、高性能モデルは置いてないか、あっても型落ち品になるらしい。
仕方ないから、もう適当なお店で、適当な腕を買うかなぁ。
そんなことを考え始めた時だった。
「ウッサササ、話は聞かせてもらった!!」
薄暗い路地の隙間から、跳ね回るように飛び出す人影。
咄嗟にコレットさんを庇って身構えた僕の前に、その人は立ち塞がる。
「ウサヒッヒヒヒ……そこの少年少女!! 高性能な義腕をお求めかなァ?」
また通り魔の類かと思ったけど、あまりに楽しそうに笑う姿に毒気を抜かれて構えを解く。
ぐるぐる眼鏡によれよれ白衣のウサミミ中年男性に、僕達は声をかけられた。
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