121. ウサギっぽい耳の半獣人の人と、腰から下が無限軌道の人
冒険者ギルドで人間の冒険者の人に聞いた、人間の店主の人が経営する料理屋にやってきた。
人間でも獣人でも普通にくつろげる、オススメのお店だそうだ。つまり他の店では普通にくつろげないということなんだろうね。早く出よう、この町。
「わふっ、わふっ! がふがふがふ!」
「そこまで急いで食べなくても良いよ」
コレットさんは無言でパエリヤを掻き込み、時々天井を仰いで尻尾を振りながら涙を流している。
パエリヤ。正確には、パエリヤっぽい料理。そんな複雑な食べ物が、この世界に存在したのか。
この世界の食材は全てドロップアイテムだ。【白米】は穀物の、【貝】は貝の、【魚肉】は魚の。
ドロップアイテムに鮮度という概念はない(ウサギの毛皮なんか先日ソリに敷いた後に焼いて食べたけど、ドロップから半年以上経ってたのに大丈夫だった)ので、海辺だから魚介類が美味しいという道理はないんだけど……ただ、原産地から遠い場所で食材が使われてるのは滅多に見ない。
たぶんだけど、輸送費がかかるから一般人の食卓に上らないんじゃないかな。海辺は海産物が安いし、種類も多いから、こういう大衆食堂でも食べられるんだと思う。
「おい、聞いたかピョン。教会の連中が流してる噂」
「あれだろ、魔王が復活したとか言う」
何だか気になる話が聞こえて来たので、横目でそちらのテーブルを見遣る。
ウサギっぽい耳の半獣人の人と、腰から下が
「すみません、あの小魚のやつ追加でお願いします」
「あいよ」
料理が届くまで、噂話に聞き耳を立てる。
「山向こうが赤く光ってたのは俺も見たけどよ。魔王なんて
「それが、知り合いの神官が言うには、女神様だか知識神様だかのお告げがあったらしいピョン」
「神のお告げだぁ? その神様だって
僕個人は神が本当にいるのは知っている。
でも、教会で神のお告げを聞けるなんて話は、聞いたこともないなぁ。カタロース王国でお世話になったウラギール大司教なら神の声も聞けたかもしれないけど、魔王の話を聞いた時は、何も知らないと仰っていた。
どうも怪しい所だけど、実際に魔王が復活したんだったら、神託くらい下すかもしれない。
どの道、これ以上の情報はなさそうだ。
「ほい。小魚の素揚げ盛り、お待ち堂だ」
「あ、ありがとうございます。コレットさんも食べて良いよ」
「わふっ! ありがとうございますですワン!」
店主の人が持ってきてくれた料理に意識を集中する。食べる。美味しい。
「
店主の人は料理を運び終わっても、厨房には戻らず僕の隣の椅子に腰かけた。
自分の分の小魚素揚げ盛りと飲み物を持ってきていたので、今から休憩に入るんだろう。
「ちょっと気になる話をしてたので」
「話? 何だ、てっきりその腕の話かと思ったぜ」
「腕ですか?」
小魚を摘まんでいた左腕を掲げて見せると、「違う違う」と笑われた。
「右腕の方だよ。東側は義体の本場だろ?」
「義体?」
自動翻訳の効果により、言葉で聞いているのに漢字表記も何となく理解できる。
いわゆる、義手的な物かな。
「その様子だと知らないか。大陸の南東側、トモスネ港から近いソトモモ共和国って国じゃ、自分の身体の一部の様に動く義体が売ってるんだ。
あのおっさんも、下半身丸ごと失くすかして、義体化したんだろうな」
そう言いながら、店主の人は小魚を口に放り込んだ。
身体の半分なくなっても生きてた時点で強すぎるな……。
というか、サイボーグ的な種族の人だと思ってたけど、人間だったんだ。
下半身丸ごと義体だから、本当に人間かどうかは判んないけど。
「お、何だ? 俺の話か?」
そこへ、小魚をポリポリ齧りながら、件の無限軌道の人(種族はたぶん人間)と、一緒にいたウサギ獣人の人(種族名は知らない)が近付いてきた。
「おう、この兄ちゃんも右腕が無ぇからよ。義体はどうかってな」
「ああ、なるほどピョン」
「何だそういう話か」
元はそういう話でも無かったと思うけど、その話も気になるから全然問題ない。
「後輩にアドバイスしてやるピョン」
「是非お願いします。お礼に1杯奢りますね」
「お? 悪いな! 店主、白ワイン追加だ、払いはこの坊主で」
「あいよ」
折角なので、ウサギ獣人の人の軽口に乗っかって、詳しい話を聞かせてもらうことにした。
曰く、この2人はソトモモ共和国出身の冒険者で、無限軌道の人が大怪我を負った時に下半身を義体化したらしい。
無限軌道型の脚部は仕組みが比較的単純な分、価格が安い廉価品らしいけど、自分の思考に従って自由に動かすことができるとのこと。何それ。すごいな。
「最高級品なら元の身体と変わらない精度で動かせるし、聞いた話じゃ、装備スロットも増えるらしいピョン」
「へえ! すごいですね!」
いや、それは本当にすごいな!
念動力で武器を持っても装備した扱いにならないし、スキル効果が無いならガチャアイテムの竹装備より、その辺で買った鉄の剣とか使う方が普通に強いんだよね。
右腕がないと両手装備が死蔵品になっちゃうから、勿体ないと思ってたんだ。
「俺の脚は安物で、装備スロットこそ無ぇけどよ、元の脚より硬いし、力もある。
坊主は腕だろ? なら、動きの悪い手指を付けるより、武器腕にした方が良いかもな」
「武器腕」
何だそのロマンのある響き。
「ドリルに丸
変わり種ならワイヤーフックだな、あれは意外と使えるらしいぜ」
「わ、ワイヤーフック……! ワイヤーフックでも装備スロットは増えますか?」
「あ? 増えねぇだろ、常識で考えろ」
その常識知らないんだよなぁ。
武器腕にするか、装備もできる腕にするか。今の僕はまだ結構お金持ちだし、高い方でも何とかなるかもしれない。想像以上に高かったら困るけど。
話に熱中していたら、コレットさんが小魚の皿を空にしてしまっていた。
無限軌道の人も自分のテーブルに戻り、お酒を片手に食事を再開した。
「ごめんなさいですワン……」
「良いよ、僕も最初にちゃんと食べたし」
落ち込むコレットさんを怒る気にはならない。
海辺はマナも豊富だから、そんなにお腹も空かないし。
「次の予定が決まったから、そっちの方が楽しみだな」
「え、そうなんですワン? お話聞いてなかったですワン、どこに行くんですワン?」
「海を渡って、大陸の東側だよ」
魔王のことは一旦置いておこう。
戦闘力の向上にも繋がるし、神様だって怒ったりはしないだろう。
考えてみれば、自分の用事で目的地を決めるのは初めてかも知れない。
ちょっと楽しみになってきたな。
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