119. あれこそ、魔王の復活だッ!!
〈何と言うことはないでしょ。あれこそ予言の成就じゃないか!
アッハハ、我々は本当に運がいいなぁ!〉
亡霊のお兄さんは僕に同意を求め、肩をバシバシ叩く身振りをした。
その手は僕の肩をすり抜けて、というか対霊特効55%分のずぶりとした感触で
「わふ? 何かお空が明るくなってないですワン?」
「コレットさん、ちょっとストップ!」
コレットさんが斜面を登って来る前に駆け寄り、慌てて上着を被せて目隠しをした。
「ぶわふっ、何ですワン!? くんくん、お兄さんの臭いがするですワン! これ何ですワン!?」
「それは僕の上着だけど、ちょっと今、向こうは見ない方が良いから」
その時には既に、火柱は首を回さなければ見渡せない程に太く、大きくなっていた。
逃げようとは思わない。フラワーヒルの町から出る時に使ったソリを持ってきていれば乗って逃げたかもしれないけど、あれは荷物になるから薪として売り払った。
走って逃げようという考えが浮かばない程に、火の回りは早かった。
逃げる必要があるなら既に手遅れだし、そうでないから逃げる必要はない。
フラワーヒルの町はとっくに飲み込まれているし、何だったら商国のほぼ全土が飲み込まれている。
にも関わらず、その南端から程近いこの山には、熱気も届かない。
〈急いで戻って! 見逃しちゃうでしょ!
これは……これこそ、数々の仮説の中でも、思った通り、私の予想通り……!!〉
亡霊のお兄さんは、ほんの数百メートル先で燃え上がる巨大な炎の発する光に照らされ、口の端を大きく釣り上げて嗤っていた。
〈やはり君は持っているなぁ! 他人の5倍の幸運値は伊達じゃないねえ!〉
何なんですか、あれは。
〈さっきチラッと言ったよね? あれこそ君にも関係ある話だよ!〉
炎の壁を背景に、お兄さんはこちらを振り向いた。
〈あれこそ……あれこそ、魔王の復活だッ!!〉
「お兄さん? お兄さん、そろそろ出して欲しいですワン」
〈あああっ……!! 生まれてから死ぬまで、死んでから今まで、全て通した中で感じたことのない、過去最高の充足感だ!!〉
「お兄さん、聞こえてますですワン? 居なくなっちゃったですワン?」
「コレットさん、ごめんね。もうちょっと待っててね」
亡霊のお兄さんが光の粒になって空気の中に溶けていく後ろで、火柱が徐々に低く、小さくなっていく。お兄さんが完全に昇天したのとほぼ同時に、火柱は消え去った。
カタバラ商国があった暗闇には、残り火すら見えない。
僕はコレットさんを上着の中から解放し、毛並みを手櫛で整える。
「もう終わりましたですワン? びっくりしましたですワン」
「ごめんね。色々あって、最後に残っていた亡霊の人も昇天したよ」
「わふっ、それは良かったですワン!」
フラワーヒルの町から憑いて来てくれた人達は皆、未練もなくなって無事に昇天できたわけだ。
それは本当に良かった。ここまでの道程も楽しかったし、皆が幸せな気持ちで送れたのなら僕も嬉しい。
「じゃあもう帰るですワン? サウスゲートの街に戻りますですワン!」
「それなんだけど、このまま南の方に行こうかと思う。折角だから海を見に行こう」
「海! 海、行きたいですワン! 水がしょっぱいらしいですワン!!」
僕とコレットさんは2人連れ立って山を下って行く。
コレットさんは変わった形の岩とか、何かの魔物の巣穴とかを紹介してくれた。
魔物の巣穴は危ないから近寄ったら駄目だと教えておいた。
魔王の復活。魔王の復活か。
もしその予想が本当だったら、僕達はあれと戦うために、この世界に飛ばされてきたことになる。
僕達、というか……あの時こちらの世界に転移した中で、生き残ったのは僕と山本さんだけ。たった2人だ。
あんなのに勝てるわけがないと思うんだけど、女神はちょっと考えが足りないんじゃないだろうか。
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