118. 我々がここに来た時にたまたま予言が成就するなんて

 亡霊のお兄さんが言うには、僕達は今「何かが起こる所を、ここから見ることができる」という、情報量もなければ当事者性もない、そんな予言の地に立っているらしい。

 本当に何なんですか、それ……。


〈私に聞かれても困るよ。100年以上前にいた【未来予知】スキルの保有者がそういう予言を残した、って御伽噺おとぎばなしがあるんだって〉


 僕はコレットさんの様子を横目に見ながら、お兄さんによる詳しい説明を聞いた。


 それは商国のある地方に伝わる昔話で、その地方でもそれほど有名な話ではないらしい。


 100年以上前、というのも100年前の文献に「大昔の預言者」という記述があっただけで、実際は数百年前か、千年以上前の話なのかもしれない。

 【未来予知】スキルの保有者がこの山で何かをようとした。

 そして、とても恐ろしい何かをた。おしまい。


 ううん。全国的に知られないどころか、地元ですら忘れられるのも頷けますね。


〈確かに言葉にすると情報は皆無、盛り上がりもオチも教訓もない話だけどさ。

 我々の界隈では、この話は事実だった可能性が高いとされてるんだよ〉


 何処界隈です?


〈歴史おたく界隈〉


 お兄さんは子供の頃から歴史や遺跡、伝承の類が大好きで、大人になったらそういう研究をする仕事に就きたかったそうだ。でも、研究職に求められる知識量や思考力には及ばず、試験に落ちて冒険者になった。

 自分の足で遺跡なんかを見て回ろうと思ってたらしいけど、実際の冒険者って日雇いのレンタル暴力というか、危険地帯用の雑用屋だからね。武器も魔法も得意でなかったから地元のギルドで爪弾きにされて、結局世の中ステータスなんだと自暴自棄になった所に、タダでガチャを回せる町の噂を聞きつけたらしい。


 それで、ここに来ても未練は残ってるみたいですけど、どうしましょう。

 何か他に目的地とかありますか?


〈その前に、もう少しここを探ってみようよ。

 私は遺跡巡りがしたいわけじゃなくて、学術誌に残る発見をしたいだけだしね〉


 めちゃくちゃハードル高くないです?


「コレットさん、しばらくここでゆっくりしていくから、疲れたら休んでてね」

「あっ、大丈夫ですワン。まだまだ頑張れますですワン!」

「別に頑張ってもらう用事もないから、今はのんびりしてくれたら良いよ」


 あまり遠くまでは離れないことを約束し、コレットさんは南側の斜面を散策しに行った。

 何か面白い物を見つけたら、僕に教えてくれるそうだ。


 せめて景色でも見えれば良かったんだけどな、と思いつつ、亡霊のお兄さんと一緒に周囲を歩き回る。亡霊になって2週間程のお兄さんは、まだ亡霊としての練度が低いので、憑代よりしろの僕からあまり離れられないんだ。練度が高くなる頃にはゴースト化してしまうから、普通はそんなもんなんだけど。


 でも、これって何を探せばいいのかな。

 たまたまここを通りがかった予言者が、どこか遠くで起こった何かを視たんだっけ。

 その予言って、具体的に何が起こるかとか、本当にわかってないんですか?


〈一応、いくつかの説はあるけどね。

 麓の街が炎上するとか、南の海から津波が来るとか、この山が爆発するとか。

 君の身の上話は道中で聞かせてもらったけど、君に関係のありそうな話もあったよ〉


 よく判りませんが、山に爆発されたら、ここにいると死にますよね。

 早く移動しませんか?


〈まあ大丈夫でしょ。その説は信憑性も薄い方だし、そもそもいつ起こるか判らない予言だし。

 我々がここに来た時にたまたま予言が成就するなんて、余程の幸運でもないと有り得ないよ〉


 山にいる時に山が爆発するのは、余程の不運だと思いますよ。


 そんな話をしながら、改めて山の北側、商国の方向を眺める。

 遥か遠く、先程見たフラワーヒルだろう丘の影よりも奥、小さな街の灯が見える辺り。


 そこに、細く赤い光の柱が立った。


「あっ…………えっ?」


 思わず声が変な出た。


〈何だあれ! 火柱かな? 恐らく首都のある辺りだ、ここから見えるなんて相当だね!〉


 え、火柱? うっそでしょ。

 火山ってわけでもないし、ドラゴンか何かが爆死したんですかね。こっわ。


〈おおお、火柱が膨張していくよ! 首都を飲み込んで……まだ太くなるんだ!!〉


 始めは糸のような太さにしか見えなかった火柱は、今やこの距離でも腕程の太さに見えるほど膨らんでいる。

 やばいやばい、何あれ。

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