113. へえ、それを知った上で来たのね?
怪しげな人にスカウトされ、《雪椿の会》を見学した翌日、僕はまた同じ場所を1人で訪れた。
すると、僕の背丈程も積まれた木の束がカタカタ揺れながら移動しているのが見える。
よく見るとそれは
「こんにちは。課長さんいますか」
「わふ……? あ! 昨日のお兄さんですワン。いらっしゃいませですワン、少々お待ちくださいですワン!」
コレットさんが
「あら、昨日のお兄さん。よく来てくれたわね。いえ、本当にあれでよく来てくれたわね?」
課長さんは若干ニュアンスの違う、同じような言葉を繰り返して迎えてくれた。
コレットさんは自分の仕事に戻ると言って部屋を出て行き、僕は課長さんと2人だけになる。
「折角なので、詳しいお話を聞かせてもらえればと」
「うちとしては大歓迎よ。そこに座って」
課長さんは書類仕事の手を止めて、僕達はそれぞれ昨日と同じソファに腰かけた。
「昨日は賭場と舞台、
「はい。その辺の仕事ではないんですよね」
「そうね」
専門職は素人には難しいし、荒事もプロの警備員がやるそうだし。
雑用を今このタイミングで雇うのも、ちょっと変だし。
「もし働くとしたら、どんな仕事をすればいいんでしょう。
先日、知人がここで行方不明になったみたいなんですが、それとは関係ありますか?」
案内をしてくれたコレットさんからも、口にしにくい内容だった。
とはいえ、公権が動かないどころか、運営に協力する程度には合法らしい。
「へえ、それを知った上で来たのね? なら判ってると思うけど」
課長さんが言う。そして続けた。
「端的に言えば、命を賭けてもらうわ」
そんな所だろうとは思うけど。
「具体的には何をするんです?」
「舞台でガチャを回すのよ」
やっぱり、そんな所だろうと思った。
商国は能力主義の国だ。
血筋や種族で仕事が限定される血統主義でも、冒険者のような成果主義でもない。
そして、能力主義の商国では、能力を持たない者には機会もない。
人族は鍛えればそれなりにステータスが伸びるものだけど、この世の中には後天的な努力で覆せない差もある。貴族は高位になるほど全体的にステータスが高い。亜人は得意不得意こそあれど、人間と比べて圧倒的な力を持つ種族もいる。そういうのを見て、努力に対する意欲を失う人も少なくない。
どうにかして楽に能力差を引っ繰り返せないものか?
そうだ、スキルを得ればいい!
そう考えた底辺労働者が一発逆転のため、借金をしてガチャを回すことが、商国ではわりとあるそうだ。
と言っても、死亡率99%のガチャに挑む人にお金を貸しても、本人から返済される可能性は極めて低いから、連帯保証人とかが必要になるらしいんだけど。
ガチャを回すには拳大の宝石、というか魔力の塊である
安宿なら3食付きで数年暮らせる金額だ。元の世界の感覚だと、飲食店の開業資金と同じくらいかな。適当だけど。
「そこでガチャトトよ!
ガチャトト参加者のためのガチャ代は返済不要! 保証人も返済義務も一切なし!」
舞台上で演者達がガチャを回し、お客さんは「何番の演者が生き残るか」「何人生き残るか」などを予想してお金を賭ける。
賭けの対象となることでガチャ代を出してもらえる闇賭博。
有体に言えば、人の死を見世物にする、この世界だとわりとあるやつ。
「生き残ったら奴隷になれとか、ガチャアイテムは没収するとかあります?」
「何言ってるのよ。そんなことするわけないでしょ?」
……ラビットフィールドの町の公開ガチャ刑は、名目上、罰金刑の支払不能分を返済する意味もあったからね。
それで却って大金を
課長さんは演者に与えられる特典の説明や、過去のガチャ生還者のサクセスストーリーを語り聞かせてくれた。
「もちろん、やるかどうかは本人の意思よ。強要したら犯罪だものね。
でも、この国で冒険者やってるってことは、才能に依らない一発逆転を目指してるんでしょ?」
別にそういう訳じゃないんだけど、そういう人が多いのかな。
仮に生き残っても、1%の内の半分以上は
きっと思ったほどの効果がなくて、2度目に挑戦して、それでおしまい。
「どうする?」
「やります」
どうせやることもないし、僕はこの仕事をやってみることにした。
悪いこともないし、もしかしたら、良いこともあるかも知れないし。
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