Chapter006:フラワーヒルの町

107. フラワーヒルの町

 ゴースト系の魔物は種族特性として、圧力/切断/刺突/衝撃の4属性に完全耐性――要は、【圧力無効】とか【切断無効】とか、そういう物を持っている。普通の人が普通の武器で倒すのは不可能だ。

 これはその属性の攻撃が完全にになるもので、耐性貫通スキルを持っていても意味はない。


 上位種になると他の属性だったり、時には「魔法」という括りに高い耐性を持っていたりするので、なかなか戦いづらい。こちらには耐性貫通の効果もあるけど、そもそもスキル保有者や、スキル付きの装備自体が珍しい。


 逆に、ゴースト系の魔物になる以前の亡霊は、生物や無生物に対して干渉できない種族特性を持っているので、普通の人には攻撃どころか認識することもできない。


「燃えろ」

〈ゴスーッ!!?〉

〈ファイゴースッ……ゴスフゥ〉


 とはいえ、対霊特効スキル(+50%)を持つ僕にはそれほど関係ないというか、適当に攻撃すれば大体何とかなるんだよね。棒で殴っても、魔法で殴っても。

 特効は耐性に関係なくダメージを加算するので、難しいことを考えなくても良いのが大変楽だ。ゴースト系の魔物は下手に知能が高い分、耐性に胡坐をかいて調子に乗ってるのが多いし。

 今も群れの中にファイアゴーストが混ざってたみたいだけど、普通に炎熱魔法で倒せちゃったしなぁ。


「ナイスでヤンス、《隻腕》!」

「お主がいるとゴースト退治は作業でござるなぁ」


 臨時パーティを組んだ犬人ライカンの斥候の人、人間の侍っぽい人と左手でハイタッチハイファイブ。幽霊屋敷のゴースト討伐依頼は、これでたぶん完了だ。



 片腕になってから1ヶ月と10日。

 杖以外の武器が壊れたのと、利き腕がなくなったのもあって、今は魔法使いとして活動している。


 またメイドの人が追ってきても怖いからと、拠点をコロコロ変えながら旅をしていたんだけど、冒険者ギルドの御尋ね者情報(的なやつ)によると、数日前に僕の進路とは違う方向の街で首無しメイドの目撃情報があったらしい。ので、最近は今の町に落ち着いている。


 このフラワーヒルの町ではそれなりに顔も知られて来たし、臨時パーティも簡単に組めるようになった。

 冒険者ギルドにいわゆるランク的なものはないけど、冒険者の実績はギルドメニューの「経歴」タブで確認できる。受付で頼めば、実績とステータスやスキル(の他人に見せても良い部分)を纏めた保証書を出して貰えるんだよ。

 今回は対霊特効スキル持ちのメンバーを(駄目元で)募集していた臨時パーティに入って、ゴースト討伐の依頼を受けたんだけど、思ったより簡単な仕事だったなぁ。

 ゴーストの特性や戦い方は、まだ亡霊だった時のダイ吉くんに教えて貰って、彼がイヴィルゴーストに変異した時に実践した。その辺の野良ゴーストとはレベルが違ったよね。


「やっぱりスキルは良いでヤンスなぁ! オイラも欲しいでヤンスよ!」

「あれば便利ですよ。色々と」


 命を救われたことは何度もあるし、友達もできたし。 


「《隻腕》殿は、くにでは貴族だったのでござるか?」

「ではないです。ガチャで引いたんですよ」

「へえ! チャレンジャーでヤンスな!」

「運が良かっただけですよ」


 雑談をしながら幽霊屋敷を最後に1周り、除霊漏れが無いかを確認する。

 気配もないし、音も聞こえない。ゴーストの住処で死んだ人は亡霊になることがあるらしいけど、そういうのも居なさそう。

 これは対霊特効スキル持ちじゃないと確認できないから、慎重に探さないとね。もし居たら連れて帰っても良いし。


「オイラ、冒険者で経験を積んで、プロの傭兵になりたいんでヤンスよ!

 でもスキルがあれば片腕でもそれだけ強くなれるんでヤンショ? ……オイラもガチャ回しヤンスかね?」


 斥候の人が冗談めかしてそんなことを言う。


「やめた方がいいですよ。お金かかるし、死ぬし」


 僕も半笑いで諫めておく。


 幽霊屋敷を出ると、外は大雪が降っていた。町の名前になっているフラワーヒルにも、今の季節は花が咲くどころか、一面雪に埋もれている。

 冒険者ギルドの依頼も少なくなる時期に、町の中で受けられる依頼があったのはラッキーだった。この依頼が残っていたのは、単に受けられる人が他にいなかったからだと思うけど。


 ギルドで報酬を受け取り、臨時パーティの打上げで少し温まる物を飲み食いして。

 打上げの席でも酔っ払って「スキル欲しいでヤンス」と叫んでいた斥候の人は、帰り路でも酩酊状態で、1人で帰れるか心配だった。

 案の定、翌日から彼はギルドに顔を出さなくなってしまったんだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る